にんちしょう

認知症

最終更新日
2020年08月13日
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2020/08/13
更新しました
2017/04/25
掲載しました。

概要

認知症とは、一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を指します。

認知症は高齢になるにしたがって増加し、超高齢社会の日本では約460万人(65歳以上の高齢者の約15%)が認知症を患っているとされています。今後も高齢化が進み認知症の人は増えていくことが予想され、2025年には65歳以上の人口の約20%が認知症を有している状況になると推定されています。

認知症では、物を覚えられない、今までできていたことができなくなるといった認知機能の低下による症状ばかりでなく、怒りっぽく攻撃的になる、意味もなく徘徊(はいかい)するなどの症状(認知症の行動・心理症状(BPSD)とよばれます)もみられます。

認知症の原因となる病気にはさまざまなものがあります。その中には、現在、病気の原因が解明されておらず根本的な治療法がない病気もありますが、現在の医学で治療可能な病気も含まれています。そのため、なるべく早く適切な診断を受け治療方針をたてることが大切です。

原因

認知症の原因となる病気にはいろいろあります。さまざまな病気により認知機能をつかさどる脳の機能が持続的に障害されることによって、認知機能が低下し認知症を発症します。病気によらない正常範囲の脳の老化によっても、いわゆる“度忘れ”といったことが起こりますが、認知症へと進行していく病気による“もの忘れ”とは異なります。

認知症の原因となる病気でもっとも多いのはアルツハイマー病で、認知症全体の6割程度を占めます。アルツハイマー病では、脳にアミロイドβとタウと呼ばれるたんぱく質がたまり、脳の神経細胞が障害され数が減少していきます(“変性”とよびます)。まれにみられる遺伝性のアルツハイマー病ではアミロイドβに関連する遺伝子の変異が原因になる場合がありますが、高齢者にみられる通常のアルツハイマー病では遺伝的な素因と後天的な因子(生活習慣や生活習慣病など)の両者が複合的にリスクになって発症するものと考えられています。

認知症の原因で、アルツハイマー病に次いで多いといわれているのは血管性認知症とレビー小体型認知症です。血管性認知症は脳出血脳梗塞くも膜下出血など脳の血管の障害で脳が損傷されることが原因になります。レビー小体型認知症では、脳の神経細胞にαシヌクレインというたんぱく質がレビー小体と呼ばれる構造をつくって蓄積することにより神経細胞が障害されることが原因なります。

そのほかにもいろいろな病気が認知症の原因になりますが、たとえば、慢性硬膜下血腫正常圧水頭症といった病気では、脳神経外科で手術治療を行えば症状が著しく回復するなど、治療しうる認知症の原因もあります。

症状

認知症では、もの忘れ(記憶の障害)、これまでできたことができなくなる(遂行機能の障害)、言葉や認識力の低下といった認知機能の障害(“中核症状”とよばれます)に加えて、“認知症の行動・心理症状(BPSD)”と呼ばれる不安、幻覚、妄想、うつ症状、興奮、暴言・暴力、徘徊などの症状もみられます。

認知症の中核症状

認知機能の障害を指します。認知症の原因としてもっとも多いアルツハイマー病についてみると、初期からもっとも目立つ症状は記憶力の低下です。記憶力の低下は年齢を重ねれば誰にでも起こるものですが、アルツハイマー病では、最近の出来事(エピソード)についての記憶が著しく低下することが特徴です。たとえば、“昨日、レストランで夕食を食べた”という出来事があった場合、レストランの名前がなかなか思い出せないというのは正常でもみられることですが(“度忘れ”)、レストランに行って夕食を食べたこと自体を忘れてしまうのは病気です。 進行すると、日時や場所が分からなくなり(見当識の障害)、物事を理解し判断する力が低下していきます。さらに、日常的に行う簡単な家事などの手順が分からなくなることや、言葉が分からないといった症状も出てくるようになります。

認知症の行動・心理症状(BPSD)

認知症の中核症状に伴ってBPSDとよばれる症状がみられます。BPSDには、不安、幻覚、妄想、うつ症状などの心理症状、不穏、興奮、暴言・暴力、徘徊などの行動症状があります。

検査・診断

症状の経過から認知症が疑われる際には、認知機能ばかりでなく、運動や感覚などを含め脳神経系全体の異常を把握するための診察(“神経学的診察”といいます)を行います。その次に、以下のような検査を計画し実施します。

認知機能検査

記憶、注意、計算、言語などの認知機能を調べるための検査です。診察時には長谷川式簡易知能評価スケール(改訂版)(HDS-R)、ミニメンタルステート検査(MMSE)などの簡易検査を行いますが、症状に応じて、さらに詳しい検査を計画します。

血液検査

甲状腺ホルモンなどのホルモンの異常、ある種のビタミンなどの栄養素の異常、肝臓病などによる代謝の異常、梅毒などの感染症などによって、認知機能の低下をきたすことがあります。それらを血液検査によってチェックします。

画像検査

脳の状態(かたち)をチェックするために、頭部CT、MRI検査などで異常(萎縮や脳梗塞・出血など)の有無をみます。

また、脳の機能を調べるために、SPECT検査で脳の血流を、PET検査で脳の代謝の異常を調べます。また、PET検査でアミロイドやタウの蓄積をみる検査もあります。ただし、PET検査は全て保険適用外です。

脳脊髄液検査

脳炎などが疑われる場合などは腰椎穿刺(ようついせんし)(腰から針をさします)を行い、脳脊髄液を検査します。また、脳脊髄液中に含まれるアミロイドβやタウの測定はアルツハイマー病の診断に有用です。

治療

治療は、認知症の原因となっている病気によって異なります。治療の種類には、薬による薬物療法と、ケアやリハビリテーションによる治療があります。

アルツハイマー病やレビー小体型認知症のように、脳の中に異常なたんぱく質の蓄積がみられ神経細胞が徐々に障害されていく病気では、残念ながら現時点では、根本的な治療効果がある治療薬で承認されているものはありません。しかし、残っている神経細胞を励まして症状を改善させるような治療薬(症状改善薬)を使用することができます。

血管性認知症では、脳梗塞脳出血などの脳血管の病気(脳血管障害)で脳が損傷されています。そのため、脳血管障害の原因となる、高血圧糖尿病脂質異常症不整脈などの病気をきちんとコントロールし、脳血管障害の再発を防ぐ治療をすることが大切です。

前に述べたように、慢性硬膜下血腫正常圧水頭症など、脳外科的治療で治る病気、ホルモンの異常など、内科的治療で治る病気がありますので、そうした認知症の原因を見逃さないようにすることが大切です。

また、行動・心理症状(BPSD)が強く現れて困っているような場合には、ケア面の整備を行うとともに、必要に応じ症状を軽減させるような薬物(精神科の薬など)の投与を行います。

全体的にみると、薬物療法の効果は限定的な場合が多く、ケアやリハビリといった薬以外のアプローチが大切です。リハビリでは、精神療法や作業療法や音楽療法などで残された脳細胞の活性化を図ることなどが行われています。

予防

認知症の原因となる病気によって予防の方法は異なります。たとえば、血管性認知症につついては、脳血管障害の原因となる生活習慣病を予防するような“よい生活習慣”(バランスのよい食事や運動習慣)が大切です。さらに近年、“よい生活習慣”を身につけることは、血管性認知症ばかりでなく、もっとも多い認知症の原因であるアルツハイマー病の予防にも有用であることが示唆されています。したがって“よい生活習慣”を身につけることはおすすめです。

また、もの忘れなど、認知症が疑わしい症状が出てきたときは、できるだけ早く“もの忘れ外来”などの専門外来を受診しましょう。軽度認知障害(MCI)の段階で原因となっている病気を診断し、認知症への進行を予防するように方針をたてます。

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