概要
梅毒とは、梅毒トレポネーマという細菌に感染することで引き起こされる病気です。主な感染経路は性行為による接触とされており、そのほかに感染者の体液や血液に触れることで皮膚の傷口や粘膜から感染するケースもあります。
梅毒は、感染してもすぐに症状は現れず、3週間ほど経過してから感染が生じた皮膚や粘膜に硬いいぼのような病変が現れます。しかし、これらの病変は数週間で自然に治るため発症に気付かない場合も多くあります。適切な治療を施さなければ、体内で梅毒トレポネーマが増殖し、いぼのほか紅斑や発熱、倦怠感、脊髄癆*、進行性麻痺などさまざまな症状が現れます。
治療はペニシリン系抗菌薬の投与が行われます。有効な治療がなかった時代は感染から数年~数十年を経て心臓や神経などにも感染が及び、死に至ることも多い病気でした。
治療法が確立した1940年代以降は日本国内で梅毒によって命を落とす方はまずいなくなりましたが、近年20~50代の男性や20代の女性を中心に患者数が増えていることが問題となっています。妊娠中に梅毒に罹患していたり感染したりすると、胎盤を通して胎児に感染し(先天性梅毒)、死産や流産、早産などを引き起こすことがあるため注意が必要です。
*脊髄癆:脊髄が変性することによって、四肢や体幹に突発的な激しい痛みが生じるほか、歩行失調や感覚の鈍化(感覚障害)、排尿障害などが現れる。
原因
梅毒は、梅毒トレポネーマと呼ばれる病原体に感染することで発症します。
梅毒トレポネーマは感染者の血液や体液に含まれており、それらが粘膜や皮膚の傷口などから体内に入り込むことによって感染します。梅毒トレポネーマは酸素が十分に存在する環境では生存できないため、主な感染経路は粘膜同士の接触がある性行為など限られています。一方で、大量の病原体が含まれる血液や体液に触れるとまれに皮膚の傷口から感染が生じることも報告されています。
症状
梅毒の病気の進行は3段階で表され、時間の経過に伴い症状が徐々に進行します。また、症状が現れたり、自然に消えたりを繰り返すこともあります。
第I期梅毒(感染から約3週間)
梅毒トレポネーマに感染してから3週間ほどの潜伏期間を経て、感染が生じた粘膜や皮膚に“初期硬結”や“硬性下疳”と呼ばれる硬いいぼのような皮疹が生じます。多くは外陰部の目につきにくい部位にでき、通常は痛みやかゆみなどを伴わないため発症に気付かないケースも多いとされています。梅毒は偽装の達人とも呼ばれ、初期の段階では他の病気と間違われることも多い病気です。このほか、脚の付け根のリンパ節などが腫れることもあります。
治療をしなくても症状は2〜3週間で一時的に軽快しますが、梅毒トレポネーマは体内に残ったままの状態です。
第II期梅毒(感染から数か月)
第I期梅毒の症状が改善して4~10週間ほど経過した後に、梅毒トレポネーマが血液によって全身に運ばれることで、外陰部を中心として全身に皮疹や脱毛などの皮膚症状が現れるようになります。
特徴的な症状は手のひらや足の裏、全身に現れる発疹です。これらの症状も痛みやかゆみを伴わないことが多く、治療をしなくても数週間〜数か月で症状が治まります。
また、発熱や倦怠感などの全身症状を伴うことも多く、中には髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こすケースも多々あります。しかし、発熱や倦怠感などの症状は数週間~数か月で自然に治るため、医療設備が整っていない開発途上国などでは明確な診断が下されないケースも少なくありません。
なお、感染から1年未満のI期とII期は梅毒の感染力が高い時期です。症状が現れていない時期(潜伏期)であることから、気付かずに性的接触を行い、感染を広める可能性もあります。検査をしないと梅毒に感染したかどうか分かりません。症状の現れ方には個人差があるため、気になる症状などがある場合には検査を受けることが大切です。
第III期梅毒(感染から数年~数十年)
第II期の症状が治まると、数年~数十年は何も症状がない状態が続きます。多くはそのまま梅毒トレポネーマが体内に潜伏した状態で一生を終えますが、約30%では再び症状が現れることがあります。この場合、治療をしない状態では、やがて心血管や神経にも異常が現れるようになります。
症状の程度はさまざまで、“ゴム腫”という軟らかい腫瘍が皮膚や肝臓、骨などにできるのみのこともあれば、心臓や神経(脳、脊髄)にダメージが生じて命に関わる重篤な状態に陥ることもあります。
検査・診断
梅毒の診断には、血液中の梅毒トレポネーマに対する抗体*を確認する抗体検査が行われます。また、梅毒に感染すると血液中にカルジオリピンというリン脂質に対する抗体(抗カルジオリピン抗体)ができます。抗カルジオリピン抗体は治療後に低下するため、治療の効果を評価する目的で検査されます。
ただし、梅毒トレポネーマやカルジオリピンに対する抗体は感染してから3週間ほど経過しないと血液中に産生されません。状況によっては、6週間ほど経過しないと産生されない場合もあります。感染が疑われる性行為などがあった場合でも、その直後に診断が可能なわけではないため適切な時期に検査を受けることが大切です。
*抗体:病原体を攻撃するたんぱく質。
治療
梅毒の治療では、ペニシリン系の抗菌薬の注射や内服などが行われます。
注射薬は2022年から日本国内での使用が可能になりました。早期(第I期~第II期)の梅毒では1回の注射で治療が完了するため、内服薬のように薬を飲み続ける必要がないことが特徴です。後期(感染後1年以上経過した場合)の梅毒では、1週間ごとに3回注射する必要があります。
内服薬は1日3回、28日間の服用を行いますが、副作用が現れた際には薬剤を変更する必要があります。副作用が現れた場合も自身で判断することはせず、必ず医師に相談し、指示に従うようにしましょう。また、服用してすぐに発熱や頭痛などの症状が現れることがありますが、この反応は24時間程度で治まるとされています。
現在では非常にまれな状況ですが、第III期に移行し、心臓や神経へのダメージによる症状がある場合は、それぞれの症状を改善するための対症療法が必要に応じて行われます。
予防
梅毒の多くは性行為によって感染するため、予防にはコンドームの使用を徹底し、不特定多数との性交渉を控えることが大切です。パートナーが梅毒に感染していることが分かった場合は、治療が終了するまで性交渉を控えましょう。
また、梅毒はまれに体液や血液に触れることで感染することもあります。医療従事者などでない限り、他者の体液や血液に触れる機会は少ないものの、歯ブラシやカミソリなど体液や血液が付着している可能性のある道具の使い回しを避けることも重要です。
医師の方へ
「梅毒」を登録すると、新着の情報をお知らせします