梅毒とは、主に性行為をつうじて体内にトレポネーマ・パリダム(以降T.p.)が侵入することで引き起こされる感染症のひとつです。かつて梅毒は、いろいろな臓器に腫瘍ができ壊死したり、脳や神経に菌が侵入して痴呆や神経障害を引き起こし死に至る病として恐れられてきました。しかし1929年に抗生物質であるペニシリンが発見され治療方法が確立したことにより、梅毒は治る病へと変化したのです。
もし梅毒に感染してしまった場合、どのようにして治療をしていくのでしょうか。臨床経験豊富な尾上泰彦先生に話を伺いました。
梅毒に感染しているかを確認する検査方法には、原因となるT.p.を直接確認する方法と、血液を採集して血清反応から判断する2通りがあります。
梅毒にかかる可能性のある性行為を行った後、検査で陽性と診断されると、多くはペニシリン系抗菌薬の服用による治療を開始します。
ペニシリン系抗菌薬を使って治療することができない一部の患者さん、たとえばペニシリン系抗菌薬にアレルギーを持つ方の治療に際してはテトラサイクリン系抗生物質を用います。また妊婦の方にはスピラマイシン酢酸エステルなどを用います。このように、患者の状況に応じて殺菌作用のある薬が処方されます。
感染後の症状の進行具合によって梅毒は4期に分けられています。感染初期の第1期では2~4週間、バラ疹などの特徴的な症状が現れる第2期では4~8週間、現在ではあまり見られなくなった第3期以降では8~12週間の抗生物質の服用が定められています。
抗生物質の服用を開始するとJarisch-herxheimer(ジャーリッシュ・へルクスマイヤー)現象と呼ばれる反応が起こることがあります。39度前後の発熱や全身倦怠感のほかに悪寒、頭痛、筋肉痛、発疹の一時的な増加といった症状が見られるようになりますが、これらは服用している抗生物質の副作用ではなく、体内に侵入しているT.p.の破壊によって引き起こされる現象です。このJarisch-herxheimer現象は第2期の患者が治療を開始した場合約50%の確率で起こるとの報告もあります。
「診察時に何らかの症状が現れている」「検査結果が陽性だった」という場合の検査費は保険の対象となります。
第1期では2~4週間、第2期では4~8週間のように、梅毒では病期に応じて期間を設定した治療を行います。目視により症状の持続や再発がないことの確認がとれ、血清検査での規定値をクリアしたのち、治癒判定がなされます。
「梅毒は完治しますか?」という質問を受けたことがあります。梅毒は、上記のように血清反応をみて判断するがなされれば、「治癒した」ということになります。しかし、過去に梅毒に感染したことのある人の検査は、たとえ治療が完了していたとしても陽性を示し続けます。一度陽性に転じた方は再び陰性に転じることはないのです。
一度梅毒になった方の抗体の数値は陰性の数値まで下がることはないのですが、病状に合わせて投薬治療を行い一定の数値まで下げることが出きれば、梅毒は十分に治療できたと言えるでしょう。日常生活も問題なく送れますし、梅毒自体にも感染力がないので、性行為をしたとしてもパートナーに移してしまうといったこともありません。
梅毒は、かかっていることを知らずにいると、パートナーに移してしまう危険性があります。身に覚えがある人は、不安を抱えていても何も改善しません。1日でもはやく専門医に診てもらうことで心も穏やかになりますし、大切なパートナーを守ることにもなるのです。
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
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