概要
筋肉痛とは、運動後数時間から数日後に生じる筋肉の痛みのことです。運動直後ではなく、一定の時間が経過してから症状が生じるため、「遅発性筋肉痛」とも呼ばれています。一方、運動中から運動直後に生じる筋肉の痛みは「急性筋肉痛」と呼びますが、一般的には筋肉痛と言えば遅発性筋肉痛のことを指します。
遅発性筋肉痛が生じるメカニズムにはさまざまな説がありますが、不慣れな運動や不適切なトレーニングなどによって筋肉が過度に収縮を繰り返すことで、筋肉やその周辺の結合組織にダメージが加わって炎症が生じるためと考えられています。
筋肉痛は年齢を問わず誰にでも起こりうる症状ですが、通常は1週間以内に自然とよくなることがほとんどです。しかし、それ以上に痛みが続く場合には線維筋痛症やリウマチ性多発筋痛症など筋肉に炎症を引き起こす病気の可能性もありますので注意が必要です。
原因
筋肉痛がどのようなメカニズムで生じるのか、明確には解明されていません。さまざまな説がありますが、運動中や運動直後に急激に発症する「急性筋肉痛」と運動後数時間から数日後に発症する「遅発筋肉症」はそれぞれ以下のようなことが原因と考えられています。
急性筋肉痛
重量挙げや短距離走などのように筋肉に負荷がかかりやすい激しい運動によって筋肉内に乳酸や水素イオンなどが蓄積し、筋肉の一部に血流不足が起こることが原因と考えられています。
遅発性筋肉痛
不慣れな運動や自身の筋力に合っていない運動を行うことで、筋肉が過度な収縮を繰り返してダメージを受け、炎症を起こすことが原因と考えられています。
運動を行うための骨格筋は数千にも及ぶ筋線維が集合して形成されており、その筋線維の束は筋膜と呼ばれる薄い膜で覆われています。しかし、痛みを感じる神経は筋膜に分布するものの筋線維自体には分布していません。このため、筋肉痛は筋線維の炎症によって痛みの原因となるプロスタグランジンなどの物質が放出され、筋膜や周辺の結合組織に分布する神経が痛みを感知しているとされています。
症状
筋肉痛は一部の筋肉に鈍い痛みが生じます。収縮方向とは逆方向に引き伸ばされながら力を生じる「伸張性収縮」を行う筋肉に起きやすいのが特徴です。たとえば、階段の上り下りでは、上がるときには大腿の前面にある筋肉は収縮しながら力を発揮しますが、下りるときには引き伸ばされながら力を発揮します。つまり、この部分の筋肉は、階段を下がる動作を繰り返すと筋肉痛が生じやすくなるのです。
痛みは通常1週間以内には治まりますが、患部の熱感や腫れを伴うこともあり、発症後数日間は歩行などの日常的な動作に支障が生じることも少なくありません。
また、遅発性筋肉痛では運動後から発症までにタイムラグがありますが、このタイムラグには個人差があります。一般的には年齢が上がるごとに筋肉痛の発症が遅れるといわれていますが、あくまで俗説であり、年齢によって筋肉痛の発症やピークに差はないとの報告も多数あります。
検査・診断
筋肉痛は発症のきっかけや症状などから容易に診断することが可能であるため、特に検査が必要となることはほとんどありません。
しかし、痛みが非常に強く、局所的に発赤や腫れ、熱感などが生じている場合には肉離れなどほかの外傷の可能性があります。また、症状が1週間以上続いている場合には、線維筋痛症など筋肉に炎症を生じる病気の可能性も否定できません。このような場合には、CTやMRIなどの画像検査などで筋肉に何らかの病変がないかを調べ、血液検査で炎症反応や自己抗体などをチェックし、筋生検を行って筋肉の病気を鑑別する検査が行われることもあります。
治療
過度の運動によって生じる筋肉痛の場合には、痛みのある筋肉を必要以上に使わないよう安静を保ち、痛みや熱感があるときには十分に冷やすことで自然に症状が改善します。しかし、血行障害が原因と考えられている急性筋肉痛では冷却することで血管が収縮し、かえって症状が悪化することがあるので、患部をホットタオルなどで温めるとよいでしょう。
これらの対処を行っても痛みが強い場合には、鎮痛薬の飲み薬や湿布などが使用されます。また、ダメージを受けた筋肉修復効果のあるビタミンB群、ビタミンCなどや良質なたんぱく質を取れるバランスのよい食事が推奨されています。
そのほかに筋肉に痛みが現れる病気としてウイルス感染によるもの、薬剤によって引き起こされる横紋筋融解症、筋性疾患などがあります。これらの病気は運動によって生じる筋肉痛とは異なり、専門的な治療を必要とします。そのため、“運動をした覚えがないのに筋肉に痛みを感じる”“なかなか痛みが改善しない”といった場合には一度医療機関を受診するようにしましょう。
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