現代では治療薬となるペニシリンの登場により梅毒はもはや「なおる病気」となりました。しかし、そもそも梅毒にかからないよう注意することが大切です。梅毒はどのような経路で体内に侵入するのでしょうか。臨床経験豊富な尾上泰彦先生に話を伺いました。
梅毒の原因であるトネポレーマ・パリダム(以降T.p.)が皮膚や粘膜などの小さな傷から体内に侵入すると、まず侵入部位周辺の初期硬結が始まります(第1期)。進行するにしたがって、紅色の斑点があらわれる「梅毒性バラ疹」(第2期)や深部組織を破壊してすすむ「ゴム腫」(第3期)などを引き起こします。その後、いろいろな臓器を壊死させるなどして死に至ります。
コロンブス一行がアメリカ大陸から持ち帰ったと考えられているこの「原住民の風土病」はその後爆発的に広がり、わずか20年足らずで日本にまで広まったと言われています。(通説)
ペニシリンの登場や治療方法の確立によって、2003年には梅毒の報告件数は509件と減りつつありました。しかし2013年に1228件、そして2014年には1683件と、国内で猛威をふるうようになったのです。
若い世代を中心に梅毒は広く拡大しているといわれていますが、性に対する意識が多様化したことによる性産業の複雑化や不特定多数間における性交渉、若年層間での性交渉の割合が増加したことが要因と言われています。特に近年の傾向としては早期顕症に加え、無症状の梅毒患者の増加があげられます。
梅毒の大半は性交渉を通じて感染するといわれており、とくに注意したいケースには以下のようなものがあります。
性感染症は性器同士の接触による感染が大半と言われています。ひとりが何らかの異変に気がつき検査・治療をして完治したとしても、そのパートナーが性感染症を放置していると、完治したパートナーはふたたび性感染症にかかってしまいます。このピンポン玉のやりとりのような感染を「ピンポン感染」と呼びます。
梅毒の場合はこのピンポン感染による経路をたどることは少ないです。いずれにせよ梅毒に限らず、性感染症にかかっていることがわかったときはパートナーに打ち明けて、一緒に検査・治療することが大切です。
梅毒の報告が増加していない米国と異なり、日本では女性の患者数も増加を続けています。もし女性がT.p.の感染に気が付かず妊娠、もしくは妊婦がT.p.に感染してしまうと、胎児にも感染する「母子感染」を引き起こす可能性があります。母子感染は流産や早産などの原因となるほか、梅毒疹、骨軟骨炎などの先天梅毒の原因や、成長の過程でなにかしらの障害を引き起こすと言われています。
なお母乳による母子感染は、可能性はあるものの限りなくゼロに近いと考えています。
近年梅毒が急増した背景には、MSM(男性間性交渉者。Men who have sex with men)の増加も一因にあると考えられています。国内でのMSMの正確な人数を把握することはできませんが、2013年に寄せられた1228件の梅毒患者数の報告のうち、450件ほどは同性間接触によるものであったと報告されています。
日本の場合、MSM間に限らず女性にも梅毒患者が増加傾向にあります。この背景としては、バイセクシュアルのように同性間・異性間両方の性的指向を持つ人を通じて波及していることも考えられます。
最近の性感染症にははっきりとした症状が出ないことも多く、病気の見極めが遅れて処置が遅くなる傾向にあります。患者さんにとって不快な状況が続くだけでなく、性感染症は罹っていることに気が付かず放置してしまうと大切なパートナーに移してしまう危険性があります。性感染症を予防するには
などをこころがけ「愛のある健康なセックス」をしましょう!
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
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