インタビュー

エイズ(HIV感染)予防のための3つの柱—新薬・性感染症治療・包茎手術

エイズ(HIV感染)予防のための3つの柱—新薬・性感染症治療・包茎手術
川村 龍吉 先生

山梨大学医学部皮膚科学講座 教授

川村 龍吉 先生

この記事の最終更新は2017年10月31日です。

エイズ(HIV感染)はこれまで「不治の病」というイメージがありましたが、現在では継続的な治療薬服用によって患者さんの余命が徐々に延びています。しかしながらHIVは一度感染すると治ることがなく、一生涯にわたって治療薬を飲み続けなければなりません。そこで重要になるのが、HIV感染の予防です。HIV予防における3本の柱について、山梨大学医学部皮膚科学講座の川村龍吉(かわむら たつよし)先生にお話を伺いました。

これまで(2017年現在)に、世界中で8,000万人のHIV感染者が報告されています。HIVは多くの場合、性交渉から2日後には感染が成立します。現在では、HIV感染の症状を抑える薬や治療法の実用化が進み、患者さんの余命は徐々に延びています。天寿を全うされる方も少なくありません。

実は8,000万人のHIV感染者のうち、唯一1名の方が治った(抗ウイルス薬を飲まずにAIDSが発症しない状態になる)ケースがあります。この方はエイズ発症ののちに白血病になり、骨髄移植をしました。調査の結果、骨髄のドナー(提供者)がたまたまCCR5を持たない遺伝子タイプの白人だったことが判明しています。その後、同じ原理で骨髄移植を試みた研究もありましたが、必ずしもエイズ完治には至りませんでした。このようにかなり特殊なケースを除き、基本的にエイズは感染したら一生涯にわたって治療が必要な疾患と考えるべきでしょう。HIV感染を減らすためには、まず予防が大切です。

※詳しくは『HIV・AIDS(エイズ)とは?感染経路から潜伏期間、初期症状まで』

これまで、HIV感染を予防するおもな方法としてコンドームが使われてきました。しかしながらコンドームは男性が装着する避妊具ですから、女性自らが身を守るという視点においては不十分です。実際に一部の諸外国などでは、エイズ陽性の男性に乱暴された女性がHIVに感染するケースがあとを絶ちません。その被害者のなかには、幼い子どもも含まれます。このような悲惨なケースを断つべく、2006年のエイズ国際会議では、新たな予防方法の開発が示唆されました。

記事1『エイズ(HIV感染症)にかかわるランゲルハンス細胞』でお話ししたように、HIV感染にはランゲルハンス細胞がかかわっています。私たちは2000年に、HIV感染において最初に感染する細胞はランゲルハンス細胞であることを解明しました。それからは、ランゲルハンス細胞をターゲット細胞として、HIV感染を予防する薬の開発を試みています。

記事1『エイズ(HIV感染症)にかかわるランゲルハンス細胞』でお話ししたように、HIV感染において日本では異性間よりも同性間の性行為による感染者が多くみられます。そして、男性同士の性行為で肛門を使う場合には、粘膜を介して容易にHIVが細胞へ感染することがわかっています。そのため、男性同士の性行為においてHIV感染を予防する方法としては、コンドームが有用です。

HIV感染を予防するための世界的な戦略として、ランゲルハンス細胞がかかわる3本の柱があります。

  1. マイクロビサイド(殺菌剤)の実用化と普及
  2. 梅毒・クラミジア・性器ヘルペスなど性感染症の治療
  3. 包茎手術

マイクロビサイドとは、膣や肛門に塗る殺菌剤のことです。2010年にアメリカ国立衛生研究所(NIH)のグループが『サイエンス』(米学術雑誌)に発表した内容によれば、テノホビル(飲み薬をジェル状の塗り薬にした殺菌薬)を膣内に塗ると、HIV感染を6割弱抑えられることがわかりました。2017年現在、テノホビルは実用化に向けていくつかの治験が進行中です。

世界でもっとも多い性感染症は性器ヘルペスですが、現在、日本では梅毒の感染者が急激に増加しています。クラミジアや性器ヘルペスなどの性感染症があると、ランゲルハンス細胞がHIVに感染しやすくなることがわかっています。そのため、梅毒、クラミジア、性器ヘルペスなどの性感染症を予防または治療することで、HIV感染を予防することが重要です。

男性の場合、包茎手術をすることでHIV感染を6割ほど抑えられることがわかっています。包皮(陰茎の亀頭部分を覆う薄い皮膚)には、ほかの皮膚に比べて数倍のランゲルハンス細胞がいます。そのため、包茎手術はランゲルハンス細胞を減らすことにつながり、HIV感染のリスクを下げるのではないかといわれています。

近年、HIVに対して「EFdA」という新薬が開発されました。EFdAは1週間に1回服用する経口薬で、エイズ治療薬のなかでも格段に効果が高く、各学会から「世界を変える」と期待されています。また徐放剤(有効成分の放出を遅らせることで服用回数を減らし、副作用を回避する)であれば、半年に1回の服用も可能といわれます。

我々は2017年現在、日本におけるウイルス学の第一線で長らく活躍されている満屋裕明(みつや ひろあき)先生との共同で、EFdAを塗り薬にする研究を行っています。今は前臨床試験の段階ですが、HIV感染にかかわるランゲルハンス細胞のはたらきを100%に近い形で抑えることができることがわかっており、HIVを予防する有力な塗り薬として今後、実用化を進めていきます。

2017年現在、研究段階ですが、HIV感染を予防する経口薬が開発されつつあります。一般名「マラビロック」という飲み薬は、HIVが細胞に感染するのを防ぐはたらきをもつ薬で、3日続けて飲むことで感染リスクをほぼゼロにできることがわかりました。

HIV感染予防のためのおもな塗り薬は毎日塗る必要があるのですが、飲み薬、特にEFdAならその成分が細胞に入ってから1週間ほど維持できるため、より高い予防効果が期待できます。

川村龍吉(かわむら たつよし)先生

近年はエイズ国際学会において、予防の観点が重要視されています。

先に繰り返しご説明した通り、エイズに一度かかると治ることがなく、一生治療薬を飲み続けなくてはなりません。そのような状況を回避するためには、HIV感染を予防し、エイズにならないように対処することが重要です。2017年現在、開発・実用化されつつあるHIV感染予防のための薬などをうまく活用し、世界一体となってHIVを予防しましょう。

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