現在、日本ではHIV感染症に対しての教育や啓発が行われていますが、患者数は増加の一途をたどっています。しかし、先進国で患者さんが増加しているのは日本だけで、まだまだ不十分であるといえます。今回はHIVについて尾上先 生にお話を伺いました。
HIVウイルスの感染原因には、性行為による感染、注射器の使いまわしなどによる血液感染、母体や母乳などを介する母子感染、非加熱製剤による感染があります。入浴やプールなど水を介してなど、日常生活で感染することはありません。
HIVウイルス感染後の症状は主に3期に分類することができ、感染初期、無症候性期、エイズ期と次第に進行していきます。
性行為等を通じて体内に侵入したHIVウイルスは、増殖をしようとするためリンパ節を目指します。このHIVウイルスが体内侵入してからリンパにたどり着くまで2~6週間程度かかるのですが、このHIV感染初期の代表的な症状としては、39℃以上になることもある発熱や、咳や咽頭の痛みを伴う咽頭炎・頭痛・嘔吐・下痢、
風邪をひいたときのような関節や筋肉の痛みがあります。ほかにもHIVウイルスがリンパに侵入することにより、左右対称のリンパ節腫大を認めることも多いです。
また、手・足・顔・体幹などに、急性期皮診や帯状疱疹・単純ヘルペス・脂漏性皮脂炎など皮膚症状があらわれます。この皮膚症状はCD4陽性リンパ球数が100/ч以下になると急速に症状があらわれやすくなります。
HIVに感染したときの皮膚症状について。詳しくはこちら「HIVに感染すると発疹ができることがある-HIVの皮膚症状について」
こうした症状は、数日から数週間で自然に治ってしまいます。そのため風邪と勘違いしやすいため、HIVウイルスに感染していることがわからないまま放置してしまい、数年後エイズ期を迎え発症してからはじめて感染していたことに気づくケースも多くあります。
HIVは、感染すると病気から身体を守る免疫機構を破壊してしまいます。すると、健康なときには何の影響も与えなかった細菌やウイルスに対しての抵抗力を失ってしまいます。その結果、起こる症状をエイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)といいます。HIVに感染すると様々な感染症や悪性腫瘍といった疾患にかかりやすくなり、死に至るケースも多々あります。
厚生労働省による性感染症報告数の年次推移をみると、2015年におけるクラミジアの定点報告数は約25,000人にのぼり、STI(性感染症)のなかで感染者数が最も多いといわれています。性感染症のなかでもクラミジアは自覚症状が乏しいため、感染したことに気づかないままパートナーへと感染をさらに広げてしまいます。特に女性の場合感染に気がつかず放置してしまうと、子宮外妊娠や子宮付属器炎などの病気の原因となり、妊娠が難しくなる可能性もあります。
HIVと診断された方のうちMSM(男性間性交渉者のこと。Men who have sex with men)がほかにどのような性感染症に感染しているかを調べたデータがあります。このデータでは、HIVと重複感染を起こしていた性感染症としていた性感染症として、B型肝炎、梅毒、クラミジア、A型肝炎、赤痢アメーバがあがっています。特にB型肝炎、梅毒、クラミジアは重複感染をおこしていた割合が60%以上と他の性感染症に比べて高いことから注意する必要があるといえるでしょう。
またクラミジアに感染していると、HIVへの感染率が3~5倍の高さになるというデータもあります。
クラミジアも感染者が多い代表的な性感染症のひとつです。クラミジアについて、くわしくはこちら
HIV感染症は主に精液や腟分泌液、もしくは血液などを介して感染します。日本では、異性間・男性の同性間での性行為、アナルセックスなどの性的行為が主な感染経路です。
HIVウイルスの感染経路は血液や体液です。握手など人と人が触れることや、同じ部屋にいるなどといった空気感染では感染しません。そしてHIVウイルス自体は感染力が弱いので、プールやお風呂、洗濯、スポーツなどによって流した汗、蚊にさされるなどでも感染することはありません。
HIVウイルスに感染するとエイズを発症する原因になりますが、感染経路は大きく分類すると4つに分けることができます。
腟性交、アナルセックス、オーラルセックスなどにより、体液が粘膜に直接触れることが原因です。HIV感染者の8割以上が性行為感染によるものと考えられます。
覚せい剤使用時の注射器の使いまわしのほか、タトゥー用具やピアスの穴開けを消毒しない状態での使用が原因です。通常であれば、HIV感染者のひげそりや歯ブラシを使うだけでは感染しません。しかし、使用者に傷がある状態や、使いまわした器具に血液が付着していると感染の可能性が高くなります。
HIVに感染している女性が妊娠、もしくは妊娠中の女性がHIVに感染すると、妊娠中胎児に感染する可能性があります。 もしHIVに感染していることが分かった場合、妊娠初期から適切な治療を行うことで、感染の確率を下げることができます。 産後は母乳により、赤ちゃんに感染する可能性があるので、母乳による育児を避けるなどの工夫が必要になります。
1982年~1985年に、加熱処理されていない状態の血液製剤を使用したことによりHIVウイルスに感染する事件がありました。
ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus)の原因HIVウイルスは、体液や血液を介して感染します。HIV感染を起こしそのまま治療しない場合、CD4陽性細胞、Tリンパ球などの破壊が進行していき、免疫力が低下していきます。
HIV感染イコールエイズ発症という誤った認識がありますが、免疫機能が低下することによりエイズ指標疾患の日和見感染症をひとつ以上発症した場合にエイズと診断されます。HIV ウイルスは、免疫細胞の中で増殖することにより、免疫細胞を破壊していきます。感染してから1ヶ月後くらいに、一時的にインフルエンザに似た症状が出て筋肉痛を伴う発熱や喉の痛み、発疹などがあり、倦怠感を感じるようになります。しかしこれら初期症状は2~3週間程度の期間が過ぎると自然に治まります。その後は無症状期が続き免疫力の低下が進むとエイズ期を迎えます。この無症候期は個人差があり、1年ほどでエイズを発症する方もいる一方、15年経過しても無症状の人もいます。
HIV感染後の寿命ですが、近年ではHIVウイルスの増殖を抑制する薬の開発も進み、感染初期から治療を開始すれば、HIVウイルス感染後数十年間は普通の生活ができるようになっています。
HIV検査では、まずスクリーニング検査を行います。スクリーニング検査とは 、HIVに感染している疑いがあるものを陽性としてふるいをかける検査です。スクリーニング検査で陽性となった際には、確認検査を行います。確認検査によって陽性であると判断された場合にHIV感染症と診断します。
スクリーニング検査の陽性には、本当にHIVに感染しているもの以外にも、本当は感染していないのにも関わらず陽性として判断されるものも含まれるので 、確認試験は必ず行う必要があります。スクリーニング検査には、酵素抗体法(ELISA)、粒子凝集法(PA)などが使われています。確認検査では、核酸増幅法とウエスタンブロット法を同時に行います。
HIV感染症は、一度感染すると完治することはありません。そのため、HIVの治療は、症状を抑えることにあります。治療薬には抗HIV薬を使います。抗HIV薬を投与することで、身体の中のHIVの増殖を抑え、免疫機能を回復させ、エイ ズによる死亡の可能性を減らしていきます。
現時点ではHIV感染者に有効なワクチンはありませんが、研究開発は続けられています。HIVは連続して突然変異が起こることにより、抗体で抑制することが難しいといわれています。
人のからだは、ウイルスの一部を抗原として取り込むと体内で抗体という物を作り出して、抗原に対抗することで健康を保っています。ワクチンは人為的に抗体を体内に入れることにより、抵抗力をつけていくという目的があります。
HIVウイルスは人にしか感染しないといわれてるため、インフルエンザのワクチンのように動物以外を使用して生産することができません。ほかにも毒性を弱めたウイルスを使用する生ワクチンという可能性があるのですが、抗原を直接体内にいれるのは副反応が出やすいという欠点があります。加熱処理するなどしてウイルスを不活性化させたワクチンもありますが、生きている状態ではないウイルスを使用した不活化ワクチンは安全性が増す反面、十分な効果が期待されない欠点があります。
HIV検査で陽性と診断されると、身体障害者福祉法に基づき免疫機能障害として身体障害者手帳が交付されます。認定された障害の程度により、さまざまな福祉サービスを受けることができます。
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者の認定基準は1級~4級まであります。
免疫機能障害としてからだの状態により、身体障害者手帳を取得することができます。
※ 社会での日常生活が著しく制限されるものを除く
身体障害者手帳の取得によって受けることができるサービスの例として、医療費の助成、税金の減免、福祉タクシーの利用、交通機関の割引、特別障害者手当て、ハローワークや人材派遣での就労支援や相談、ジョブトレーニングなどがあります。これらの内容や詳細は、地方自治体によって異なることがありますので、詳細についてはお住まいの地域の地域の福祉課に問い合わせるようにしましょう。
HIV感染症の患者さんの多くは、自分がHIVに感染していることに気づかずに他の人に移してしまい、感染を拡げてしまいます。そのため、予防として不特定多数の人と性的行為をしないようにしましょう。また、セックスをする際はコンドームを最初から最後まで着用しましょう。
HIVは、他の性感染症に感染していると数倍感染しやすくなるといわれています。そのため、他の性感染症に感染しないようにすることが結果的にHIV感染症を予防することにつながるといえます。また、他の感染症に感染してしまった際にも早期に診断してもらい治療を受けることを心がけましょう。
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
関連の医療相談が12件あります
HIV感染の初期症状について
日本に住んでいる外国の方と性行為をすることがありそのときにオーラルセックスもしました。 一ヶ月くらいに39度代の発熱がありました。熱は病院の薬で2日ほどで治りました。そのあとからエイズではないのかと悩んだいます。 可能性は高いでしょうか?
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