概要
A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus:HAV)に感染することで肝臓に炎症が生じる病気です。
A型肝炎患者の糞便と共に体外へ排出されたA型肝炎ウイルスにより汚染された水や食材を口にすることで感染します(糞口感染、経口感染)。また、性行為など濃厚な接触によっても感染します。感染すると平均4週間の潜伏期間を経て発症します。一度感染すると終生免疫ができるため、再び感染することはありません。 A型肝炎の多くは重症化することなく治癒しますが、まれに劇症肝炎を発症して命に関わることもあるため注意が必要です。
A型肝炎は主に上下水道の整備が進んでいない発展途上国での感染が多くみられます。わが国での発症例は厚生労働省の発生動向調査報告によると、2010年347例、2014年433例、2018年926例、2019年425例を除き、近年は年間100~300例程度です。
原因
A型肝炎の主な感染経路は糞口感染、経口感染です。感染者の糞便に含まれるA型肝炎ウイルスに汚染された水や食材(魚介類、肉、野菜、果物など)を口にすることで感染します。そのため、上下水道の整備が進んでいない南アジアやアフリカなどの発展途上国での発生率が高く、糞便に汚染された水や食材を十分に加熱しないまま口にすることで感染するケースが多くみられます。日本では生または加熱不足の魚介類などの食材が主な感染源となっています。海外では肉類や野菜、果実などによる感染も報告されているため、輸入食材にも注意が必要です。 また、先進国で増加しているのは、性行為で感染者と密な接触を持つことによる感染です。特に男性間に多いことが知られています。
症状
A型肝炎は、A型肝炎ウイルスに感染してから平均4週間の潜伏期間を経て発症します。
症状としては発熱、食欲不振、全身倦怠感、吐き気・嘔吐、腹痛、黄疸、褐色尿(尿が濃くなる)、白色便(便が白くなる)などがあります。症状の現れ方は年齢によって異なり、年少者(特に6歳未満の子ども)では目立った症状はほとんど現れません。一方、年齢が上がるにつれて症状は重くなり、大人では多くが黄疸を伴います。患者の多くは、2~3週間で症状が徐々に改善し、B型肝炎やC型肝炎のようにウイルスが肝臓内にとどまって慢性肝炎へ移行することはありません。
検査・診断
A型肝炎の診断は、血液検査で行います。A型肝炎ウイルスに感染すると、体内でウイルスを排除する抗体という物質が産生されるため、血液検査で抗体の有無を確認します。また、肝細胞が壊れて肝障害が起こるため、肝臓の機能を評価するために、主にASTやALT、ビリルビン、プロトロンビン時間などを調べます。さらに、A型肝炎は肝臓が腫れて肝腫大を起こすことが多いため、肝臓の状態を把握し、ほかの病気と鑑別する目的で、腹部超音波検査や腹部CT検査などの画像検査を行います。
治療
治療はベッド上での安静が必要なため原則的には入院で行います。多くは1~2か月で回復します。現在のところ、A型肝炎ウイルスに有効な抗ウイルス薬はないため、糖質が多く含まれる補液や肝臓の炎症を抑える肝庇護薬の投与などの対症療法を行います。まれに重症化し、劇症肝炎に移行した場合には、血漿交換*や血液ろ過透析による人工肝補助療法が行われたり、肝臓移植が検討されたりします。
*血漿交換:血液を体の外に取り出して血漿という成分だけを分離・除去し、代わりに新しい血漿成分を補充することで病気を悪化させている物質を除去する治療法。
予防
A型肝炎ウイルスの感染は不衛生な環境で起こるため、衛生環境が整っていない発展途上国などの地域では、非加熱食品や生水は控えて、十分に加熱した食材やミネラルウォーターを口にするようにしましょう。また、果物を摂取する場合には他人の手が触れているカットフルーツではなく、丸ごと購入して自分で皮を剥いて食べるほうが安全です。
A型肝炎はワクチンでの予防も期待できます。感染リスクが高い発展途上国などへ渡航する際は、予防接種を受けることが大切です。
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