HIVの治療は日々進歩しています。そのためHIV感染者の血中HIVを、薬剤を服薬することで限りなく減らし、症状を抑えることができるようになりました。今回はHIVの治療法であるART(多剤併用療養)について、臨床経験豊富な尾上泰彦先生に伺います。
HIVの治療では、たとえ免疫機能のいくつかの指標が改善されたとしても、治療を中止することはありません。それは、治療を一時的でも中断してしまうこ とで予後が悪化してしまうことが明らかになっているからです。
HIV感染症の治療には、抗HIV薬を3剤以上併用した強力な「ART(多剤併用療法)」を行います。少し前までは「Highly Active Anti-Retroviral Therapy」の頭文字をとって「HAART」と呼ばれていましたが、最近ではARTと略されるよう になりました。
ARTは長期間にわたって血中のHIV量を検出限界以下まで抑え続けることを目標としています。血中のHIV量を抑えることにより、免疫機能を回復した状態を維持することで日和見感染を防ぎ、HIV感染の関連症による死亡を減らすことを目指します。また、HIV感染症患者さんのHIV量を抑えることによってパー トナーへの二次感染を減らすことも期待できます。
近年、好ましいアドヒアランスの維持を目的とした1日1回の内服のみでよい薬剤が多数存在します。これらの薬剤は、半減期が長く、長時間にわたって薬剤が作用しています。また、1日1回の投与のみでよい薬剤の増加と合剤の開発が進んだことで服薬しなければならない薬剤の数が軽減されてきています。このことによって1日の服薬する薬剤の数が1〜5剤と少なくなり、アドヒアランス (※)が向上し、患者さんのQOLを高めることを期待することができます。しかし、もし1日1回の服薬を忘れてしまった場合、次の服薬までの期間が長く空いてしまい、薬剤の効果が不十分になり、耐性ウイルスが出現するリスクが懸念されます。
※アドヒアランス…積極的に患者さんにも治療方針の決定に参加してもらい、その決定に従った治療をうけること
アドヒアランスが低下し適切な服薬が行われない場合、薬剤による効果が維持できずHIVの増殖を十分に抑えることができなくなります。また、十分な服薬が行われないと耐性ウイルス出現の要因となることがあります。そのため、ARTの目標を達成するためには、良好なアドヒアランスを維持することが重要です。
医師は患者さんに対して、その時点での最新かつ最良の治療の情報を提供しなければいけません。それらをすべて含めて患者さん個々人の状態や環境に応じた治療計画をたて、患者さんと検討しなければいけないのです。
抗HIV薬を選択する際には、起こりうる併用禁忌や併用注意などの薬物相互作用について考慮する必要があります。相互作用に関しては、各薬剤に添付して いる文書で確認できるので、参照して最も相互作用を引き起こさない組み合わせを選ぶ必要があります。すでに飲んでいる薬がある場合には、医師に相談するようにしましょう。
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
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