HIVの治療薬は増加していますが、HIVを完全に排除する薬はまだ登場していません。そのため現在のHIVの治療とは、ウイルス量を減らすことを意味しています。効果的にウイルス量を減らすためには、適切な治療薬の適切な投与が必要不可欠です。今回はHIVの治療を行う上で重要になる2つの指標について尾上泰彦先生に伺います。
HIV感染症の病態や経過を把握する指標となるものには、CD4陽性リンパ球数と血中ウイルス量(HIV RNA量)があります。これらの値もとに治療の開始を判断したり、抗HIV薬 がどの程度効いているかを確認します。またこの数値により治療法の変更を決定することもあります。
CD4陽性リンパ球とは、免疫機能をコントロールしている細胞です。HIVはヒトのCD4陽性リンパ球に感染し破壊します。そのためHIVに感染すると免疫機能が低下し、日和見疾患を発症してしまうのです。HIVの治療においてCD4陽性リンパ球数を測ることは、その時点においての病態の程度や経過を把握する指標となります。
また抗HIV療法(ART)の開始を考える上でも、このCD4陽性リンパ球数は重要な指標になります。なお、測定値は検査ごとに変動があるので、複数の検査結果から判定する必要があります。健康な方であれば、CD4陽性リンパ球数は血液1μl中に約700〜1300個ありますが、HIVに感染すると次第に減少していきます。血液1μl中の数が200個未満になると、 様々な日和見感染を引き起こしてしまいます。
HIV RNA量とは、血液中にHIVの遺伝子であるRNAがどのくらい存在するかを測定したものです。このHIV RNA量は、HIV感染症の進行を予測する指標になり、「コピー」という単位が使用されます。
HIVに感染したことがない方の体内にはHIVに対する抗体がないので、HIVが侵入すると体内で急激に増加していきます。しかし、体内でHIVに対しての抗体が作られ始めると、抗体がHIVを攻撃し除去していくので、次第にHIVは減少していきます。
HIVが増殖していく速度と抗体によって除去される速度が釣り合うとHIV RNA量は一定のレベルに保たれます。この一定に落ち着いた時のHIV RNA量を「セットポイント」と呼びます。セットポイントの値はかなり個人差があり、高い数値で落ち着いている方もいらっしゃれば、低い数値で落ち着いている方もいらっしゃいます。女性の方が男性に比べてセットポイントが低いという報告もあるようです。セットポイントが高いほどウイルスの量が多いので、病気の進行は早くなります。
HIV RNAの検出限界とは、HIV RNAを検査できる最小の限界のことです。検出する方法によって検出限界は異なりますが、現在のHIV RNAの検出限界の最小値は、血液1ml中に20コピーであるようです。抗HIV治療の目標は、HIV RNA量を検出限界以下まで下げることであり、治療を受けている大半の方は検出限界以下のレベルまで下げることができている ようです。
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
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