HIV・AIDS(エイズ)は長年の研究を経てその治療法が進歩し、かつてほとんどのHIVの患者さんが亡くなっていた状況から、現在では早期段階(免疫機能が大きく低下していない状態)で治療を開始すれば、比較的安定した状態で生きていけるまでに改善しており、治療薬の服用を続ければ、一般の方とほとんど同じ寿命まで生きることが可能です。しかし、一生薬を飲み続けなければならないことや患者数の増加、治療費などの課題も多く残されており、さらなる治療法の発展が望まれている領域でもあります。引き続き熊本大学エイズ学研究センター病態制御分野(現:松下プロジェクト研究室)教授の松下修三先生にご解説いただきます。
HIVに感染すると、通常数週間(1~2か月程度)経過して、血液中にHIV抗体が検出されます(陽性反応)。自分がHIVに感染しているか否かは、HIV検査を受けない限り確認できません。
初感染時には約半数の症例で、発熱、リンパ節腫脹、全身倦怠感などのインフルエンザ様症状を呈するといわれていますが、特別な症状があるわけではありません。一方、無症候感染期には特に症状がないので、症状からHIV感染を疑うことは困難です。
最近はHIV治療法の進歩によって、感染後できるだけ早期に検査を受けて治療が開始できれば、合併症なく治療することが可能です。さらに、急性期に治療を開始することができれば、治療効果も高くなることが報告されています。
HIV検査を躊躇している方もいらっしゃいますが、これは、現在のHIV治療法が発展を遂げており、副作用もなく、発症を抑えられるようになっていることが知られていないことも理由のひとつといえるでしょう。
これまで検査を受けられていなかった方に検査を受けていただくことが喫緊の課題だと考えます。
ただし、コンドームを使用しない性行為など、感染リスクの高い行動をとっている方の場合、HIVの検査結果が陰性だったとしても、それで安心することは望ましくありません。これまで感染していなくても、感染するリスクはいつでもあると考えるべきです。
記事1『HIV・AIDS(エイズ)とは?感染経路から潜伏期間、初期症状まで』で少し触れた、同性間の性行為におけるコンドームの使用率の低さはHIV治療における大きな課題であり、検査の重要性とともに啓発していく必要があると考えています。
HIVウイルスは1983年に発見されて以降、増殖のメカニズムや治療薬について様々な研究が重ねられてきました。1985年にはAZT(アジドチミジンというエイズの治療薬)が開発され、現在ではさらに効果的な治療法が確立されています。
HIVの現在の治療法は、抗HIV薬を3剤以上併用した強力な「ART(多剤併用療法)」が標準的です。ARTの利点は、長期間にわたり血中のHIVウイルスの量を抑制し続けることで免疫機能を正常範囲に保ち、合併症の発症防止を目指す治療で、1日1回の服用だけで行える点にあるといえます。
ただしARTでは、ウイルスの増殖を阻止することはできても、根本的にウイルスを排除することができないため、患者さんは一生涯に渡って治療薬を飲み続けなければならないという問題があります。
また、ARTによる治療では患者さんの老化スピードが速まるともいわれており、HIVに対する抗ウイルス療法にはまだ課題が残されています。
さらに、2017年現在、世界には約3700万人のHIV感染者がいて、毎年約100万人が亡くなり、200万人が新規に感染しているといわれます。つまり、毎年100万人のペースでHIV感染者は増え続けていることになります。ところが、HIV感染者で治療を受けられている方の割合は現時点で46%と半分以下にとどまっているのが現状です。この大きな理由のひとつに治療費が挙げられます。
発展途上国では高額な治療薬が患者さんに行き届かず、お金の問題で治療を受けられない方が多くいます。また、日本においても毎年1500人がHIVに感染しているなかで、抗ウイルス薬の費用が1人あたり年間250万を要しています。
こうした観点からも、HIVの感染予防は世界的な課題になっており、予防のための研究が非常に重要であると考えます。
抗ウイルス薬による治療が開始されてから現在までの20年に渡り、私はHIVウイルスがどのように体内に残るのか、どうすればウイルスを完全に排除できるかについて研究を重ねてきました。現在は、ウイルスを標的にして感染細胞を排除する中和抗体の研究を中心に行っています。
現在の治療薬では、ウイルスを完全に体内から排除させることはできません。逆転写酵素などの抑制によって、未感染細胞への新たなウイルス感染を阻止できても、残存するHIV感染細胞には効果がないからです。ですからこれからは、体の中に残存している感染細胞を排除する治療薬の開発が求められてきます。
HIVワクチンの開発は長く望まれてきており、多くの研究者が様々なアプローチでワクチン開発を目指してきました。しかし、HIVのワクチン開発は非常に難しいことが知られており、現在でも有効性のあるワクチンはありません。ワクチンの開発は我々専門家の急務であり、世界の喫緊の課題といえます。
ARTによってウイルスを長期間抑制することにより、HIVの細胞を中和する働きを持つ抗体が出現する患者さんが一部にみられたことから、私たちは治療用中和抗体の開発を行っています。
現在、人に応用できると予測される中和抗体が完成し、動物モデルによる実験を計画している段階です。
HIV感染症では、感染してからエイズを発症するまでに長期的な時間を有し、長期的に病態が進行しない症例もみられます。
このことから、患者さん自身の力でウイルス増殖を抑制できる免疫反応があると考えていますし、中和抗体はその重要な因子のひとつであるはずです。体には常にウイルスが出入りしていますが、抗体や細胞性免疫の力により、こうしたウイルスが出てこないようコントロールされています。将来的にはHIVをこれと同じ状態に持っていきたいと考えています。
治療法のさらなる発展によって、強力な薬を一生涯飲むことなく患者さんが健康に生活できるようになることを目指し、研究を続けていきたいと考えます。
松下 修三 先生の所属医療機関
関連の医療相談が12件あります
HIV感染の初期症状について
日本に住んでいる外国の方と性行為をすることがありそのときにオーラルセックスもしました。 一ヶ月くらいに39度代の発熱がありました。熱は病院の薬で2日ほどで治りました。そのあとからエイズではないのかと悩んだいます。 可能性は高いでしょうか?
保健所検査にて
HIV検査を受けて、要確認検査となりました。ゴムを付けない性交渉を1ヶ月半前にしてしまい、その2週間後に38.5の発熱を10日間程、持病の扁桃炎、切れ痔と重なりました。 この症状が気になり、検査を受けた次第です。初期症状としてみてよいものでしょうか?
脇のしこり
昨日ふと脇を触ると皮膚がポコっとなっているところがありました。脇の下というと広範囲なのですが私の場合は脇毛など毛が生える丸い範囲内です。小豆サイズでなにか中のものに引っ付いてる感じです。妊娠中ですが上の子がまだ左乳を飲んでいます。ですがこのしこりがあるのはもう全く飲んでいない右側です。リンパのがんや乳がんでしょうか?
左臀筋内脂肪腫における普段の生活、手術、入院期間等について。
骨盤内がんドックをうけたところ、癌の結果は問題なかったのですが、左臀筋内脂肪腫疑いと結果が出ました。「左腸骨の外側、臀筋内に脂肪と等信号の腫瘤あり。脂肪腫と思われます。サイズは大きいが脂肪以外の軟部組織など脂肪肉腫を積極的に疑う所見は指摘できず。」画像を見るとかなり大きいようで、半年前くらいから時々ある下腹部、子宮周辺の痛みの原因はこれだとわかり早く手術をしたいと思っていますが、なかなか病院の予約が取れず、まして緊急性もないようでこのご時世では手術するのも先になりそうです。サイズは10cm以上はありそうな感じです。①一般的に手術、入院期間、等はどのくらいか例などありますでしょうか。②また普通に生活で破れたり問題はないのでしょうか。③体力維持、ダイエット目的でストレッチ、筋トレ水泳等を行っていますが問題はありますでしょうか。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「エイズ」を登録すると、新着の情報をお知らせします