「HIVを予防するための基礎知識—HIVの予防(1)」では予防のポイントについてお話しました。近年では感染予防のポイントは「感染に気をつける」よりも「感染者を早く見つける」ことにシフトしつつあります。HIVは治療さえ行えば「検出限界未満」というウイルスがほぼ全くない状態にまで抑えることができるからです。そうすることにより、感染している人が感染源にならなくなります。この記事では川崎医科大学血液内科教授の和田秀穂先生に、検診によるHIVの早期発見と早期治療の重要性についてお話し頂きました。
HIVにかかっていたとしても、ご自身が感染していないと思っていて「セーファーセックス」(安全なセックス)を怠ってしまうケースは多々あります。今までさまざまな研究が行われてきましたが、コンドームを始めとするセーファーセックス教育によって予防啓発することはかなり難しいとされています。予防の啓発を中心に据えるよりはむしろ検査の敷居を下げることが重要なのではないかと近年いわれています。検査を受け、早期発見・早期治療する。そうすることで感染が広がるのを防ぐことができるのです。
検査による早期発見が重要になったのはHIVの治療が非常に充実してきたからです。HIVに感染したとしても適切な治療を行えばウイルス量はコントロールできます。つまりHIVは「慢性」のウイルス性疾患と考えることができるようになったのです。この「慢性」の意味するところは、糖尿病のような慢性疾患という認識です。糖尿病で一生薬を飲み続ける場合も少なくありません。しかし、しっかりと薬を飲めば寿命を全うできるくらいのコントロールができる病気で、HIVも同様の病気になりつつあります。このような情報が正しく行き渡っていないことが問題なのです。
20年以上前は「HIVを見つけても治療ができない」という考え方が主流でした。HIVを見付けたところで治療を全く施すことができないと諦められていたのです。しかし今やHIVの診療は、重症の日和見感染症を起こしている状態でなければ外来診療で行われます。診療は3ヶ月に1回の通院、つまり年に4回だけ。それ以外の期間は薬を飲み続けることで治療ができてしまいます。一般的に皆さんが思われるほど大変ではないのです。
現在では上記のようにHIVへの治療が有効になっています。しかしそれでも早期発見・早期治療によって、爆発的な感染を防ぐことはとても重要です。
なぜなら抗HIV薬には国の税金などが投入されており、医療経済的な負担が増えてしまうからなのです。現在のところ抗HIV薬の自己負担は限定的で、自分自身で高額の治療費は支払わずに治療することができます。例えば1人の患者さんが抗HIV薬による治療を40年間行ったとします。すると生涯医療費は1億円以上はかかってしまいます。ですから、1人でも多くの方の感染を阻止することが大事で、それが薬品代の節約にも繋がるのです。HIV検査は全額自己負担の場合でも、1回5~6000円程度ですみます。患者さんが1人増えることを考えると、HIV検査を無料にしたり健康診断の必須項目に加えたりする方が、医療経済的にも効率的であると考えられます。
川崎医科大学 血液内科学 教授 、川崎医科大学附属病院 血液内科部長/輸血部部長
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