アルツハイマー病は認知症の原因疾患の1つです。認知症とは記憶力や判断力が低下することで社会生活に支障が出る状態を指し、アルツハイマー病はその状態を生じる原因の1つということになります。医療機関でアルツハイマー病であると診断された場合は、薬による対処療法や、リハビリテーションなどの治療が行われます。アルツハイマー病をはじめとする認知症の中には早期治療によって症状の進行を遅らせることができるものもあるため、気になる症状がある場合は早期段階で治療を行うとよいとされています。
本記事では、アルツハイマー病の治療について詳しく解説します。
現時点でアルツハイマー病を完全に治す根本的な治療法は存在しません。しかし、脳の神経細胞がなくなることで起こる直接的な症状(中核症状)と、それに伴って起きる周辺症状をそれぞれ緩和させる薬や治療法はあります。
治療のほかにも、必要に応じてリハビリテーションやデイケアの利用が推奨されることもあります。さらに、パズルをする、新聞を読むなどの頭を使う活動をすることで、アルツハイマー病の進行を遅らせることができる可能性があります。そのため、アルツハイマー病をはじめとする認知症の場合は早期発見・早期治療を行うことは非常に重要だといえるでしょう。
また、アルツハイマー病ではなく別の認知症の場合、早期発見・治療によって治すことが可能なケースがあります。治療によって治る認知症の例として、脳腫瘍、ビタミン欠乏、甲状腺機能低下症、硬膜下血腫、水頭症に関連するものが挙げられ、これらの一部は元の病気を治療することによって治る可能性があるとされています。
アルツハイマー病において、脳の神経細胞が減少することで起こる直接的な症状を中核症状と呼びます。中核症状にはもの忘れや、時間や場所などが分からなくなるといった認識力の低下などが当てはまります。現在日本で中核症状に対して承認されている薬は、ドネペジル塩酸塩、ガランタミン、リバスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬に加えて、メマンチン塩酸塩の4つです。
コリンエステラーゼ阻害薬脳内の神経伝達物質(アセチルコリン)の分解を抑えることで記憶障害の進行を遅らせる効果が期待できます。一方、メマンチン塩酸塩にはグルタミン酸のはたらきを抑えて神経伝達を整える、神経細胞を保護するといった効果が期待できます。これは、アルツハイマー病では脳内でグルタミン酸のはたらきが乱れて神経細胞が障害されているため、はたらきを抑えることで症状緩和を目指せるとされています。さらには、気持ちを穏やかにするはたらきも期待できるといいます。
アルツハイマー病において、中核症状が原因となって起こる精神症状や問題行動などを周辺症状と呼びます。周辺症状は人によってさまざまで、たとえば物盗られ妄想や夜間せん妄、睡眠障害、落ち込むなどの抑うつ状態などが挙げられます。物盗られ妄想は自分が物を置いた場所を忘れて“盗まれた”と思い込むことで、アルツハイマー病の患者の半数以上に生じるとされています。一方、夜間せん妄(過活動型)は夜間に興奮して騒ぐことを指します。こういった症状には抗精神病薬が処方されることがあるほか、睡眠障害には睡眠薬、抑うつ状態には抗うつ薬などが処方されることがあります。このような向精神薬の使用に関しては、副作用などの点から注意が必要であるため、主治医の指示に従って正しく使用するようにしましょう。
また、周辺症状では非薬物療法として以下のようなリハビリテーションなどが実施されることがあります。
アルツハイマー病を根本的に治す治療法はありませんが、中核症状と周辺症状をそれぞれ緩和する薬は存在します。また、リハビリテーションなどによって症状が改善したり、進行を遅らせたりすることも可能とされています。そのため、医師の指示を守って薬を服用するとよいでしょう。
また、患者は穏やかな気持ちで日常生活を送ることが、アルツハイマー病による問題行動を減らすことにつながるとされています。そのため、家族や周囲の人の対応も非常に重要となります。ポイントとしては、アルツハイマー病患者と接する際には、可能であれば患者の認識に合わせるようにするようにしましょう。たとえば、家にいるのに「帰る」と言うときは、「送りますね」と言って一緒に家を出て、しばらく散歩をして帰ってくるといった行動を取るようにします。具体的な患者への接し方や治療に関しては、あらかじめ担当医に相談するとよいでしょう。
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医
1996年横浜市立大学医学部卒業。2004年横浜市立大学大学院博士課程(精神医学専攻)修了。大学院在学中に東京都精神医学総合研究所(現東京都医学総合研究所)で神経病理学の研究を行い、2004年より2年間、米国ジャクソンビルのメイヨークリニックに研究留学。2006年医療法人積愛会 横浜舞岡病院を経て、2008年横浜南共済病院神経科部長に就任。2011年湘南いなほクリニック院長を経て、2022年4月より現職。湘南いなほクリニック在籍中は認知症の人の在宅医療を推進。日本認知症予防学会 神奈川県支部支部長、湘南健康大学代表、N-Pネットワーク研究会代表世話人、SHIGETAハウスプロジェクト副代表、一般社団法人日本音楽医療福祉協会副理事長、レビー小体型認知症研究会事務局長などを通じて、認知症に関する啓発活動・地域コミュニティの活性化に取り組んでいる。
関連の医療相談が10件あります
ここ数週間にわたる体調不良
適応障害で休職し、転職現在医療従事者 として働いています。 コロナ対応に追われて少し疲れているのか、 下記のような体調不良に見舞われております。 ・耳鳴りを伴うめまい、立ちくらみ ・動悸による吐き気、食欲不振 ・寝ている時の突然の動悸 先週かかりつけ(内科・精神科)を受診し疲れと診断され様子を見ておりますが、 昨日から吐き気とめまいがひどく食事も まともに取れていません。 今日は朝からベットで横になり何もできておりません。 転職したてで職場にも相談しづらいし、 病院も受診してそんなに時間が経って おらずただただ不安な日々を送っております。 病院を受診すべきでしょうか。
騒音性難聴と耳鳴り
1年くらい前から耳鳴りがきになり耳鼻科を受診したら騒音性難聴とのことでした。その後テレビがついていたり雑音があると会話が聞き取りにくく、仕事中どうしてもなんかしら雑音があるため聞き取りにくく聞き返すことが増えてこまっています。時々耳抜きができないような詰まった感じがすることも増えました… 加味帰脾湯という薬を処方されましたが改善しません… ほかの病院を受診してみるべきですか? あと、耳の感じはとても説明しにくいです。症状を伝えるのになにかアドバイスあったらおしえてほしいです…
直前に聞いたことを忘れてしまう
母の介護のため帰省してきた63歳の妹についてのご相談です。帰省した翌日のきょう、スマホのメモに自分で記していたことが急に分からなくなり、私が説明しても1分後には忘れて「何のことか分からない」と何度も聞き返します。しかし、すぐに忘れてしまうようです。このような症状は初めてのことです。自分の名前や生年月日等は覚えていて、車も普段どおり運転しました。体調に変わりはなく、頭の痛み等もないようです。妹の体形は中肉中背で持病は特に聞いていません。妹は現在、夫と次男の3人家族で、普段はPCのインストラクターの仕事をしています。妹自身「自分は一体どうしたんだろう」と不安がっています。初期の認知症でしょうか?精神科か脳神経内科の受診が必要かどうかも合わせて、ご教示いただければ幸いです。
睡眠について
適応障害で休職中です。 10日くらい前まではむしろ過眠で、昼夜逆転ぽくはなってましたが、継続して6時間以上は眠れてました。 10日くらい前から、 1〜2時間で目が覚めるようになりました。 一瞬目が覚めてまた眠るという感じではなく、完璧に目が覚めるので活動してます。 1日24時間の間では、合計6時間は眠れてるとは思いますが、 継続して眠れないのは、問題ですか? 主治医には話してないですが話すべきでしょうか?
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「アルツハイマー型認知症」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。