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アルツハイマー病は治療によって症状を緩和させることも可能~薬による対処療法とリハビリテーション~

アルツハイマー病は治療によって症状を緩和させることも可能~薬による対処療法とリハビリテーション~
内門 大丈 先生

医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授

内門 大丈 先生

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アルツハイマー病は認知症の原因疾患の1つです。認知症とは記憶力や判断力が低下することで社会生活に支障が出る状態を指し、アルツハイマー病はその状態を生じる原因の1つということになります。医療機関でアルツハイマー病であると診断された場合は、薬による対処療法や、リハビリテーションなどの治療が行われます。アルツハイマー病をはじめとする認知症の中には早期治療によって症状の進行を遅らせることができるものもあるため、気になる症状がある場合は早期段階で治療を行うとよいとされています。

本記事では、アルツハイマー病の治療について詳しく解説します。

現時点でアルツハイマー病を完全に治す根本的な治療法は存在しません。しかし、脳の神経細胞がなくなることで起こる直接的な症状(中核症状)と、それに伴って起きる周辺症状をそれぞれ緩和させる薬や治療法はあります。

治療のほかにも、必要に応じてリハビリテーションやデイケアの利用が推奨されることもあります。さらに、パズルをする、新聞を読むなどの頭を使う活動をすることで、アルツハイマー病の進行を遅らせることができる可能性があります。そのため、アルツハイマー病をはじめとする認知症の場合は早期発見・早期治療を行うことは非常に重要だといえるでしょう。

また、アルツハイマー病ではなく別の認知症の場合、早期発見・治療によって治すことが可能なケースがあります。治療によって治る認知症の例として、脳腫瘍(のうしゅよう)、ビタミン欠乏、甲状腺機能低下症、硬膜下血腫、水頭症に関連するものが挙げられ、これらの一部は元の病気を治療することによって治る可能性があるとされています。

アルツハイマー病において、脳の神経細胞が減少することで起こる直接的な症状を中核症状と呼びます。中核症状にはもの忘れや、時間や場所などが分からなくなるといった認識力の低下などが当てはまります。現在日本で中核症状に対して承認されている薬は、ドネペジル塩酸塩、ガランタミン、リバスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬に加えて、メマンチン塩酸塩の4つです。

コリンエステラーゼ阻害薬脳内の神経伝達物質(アセチルコリン)の分解を抑えることで記憶障害の進行を遅らせる効果が期待できます。一方、メマンチン塩酸塩にはグルタミン酸のはたらきを抑えて神経伝達を整える、神経細胞を保護するといった効果が期待できます。これは、アルツハイマー病では脳内でグルタミン酸のはたらきが乱れて神経細胞が障害されているため、はたらきを抑えることで症状緩和を目指せるとされています。さらには、気持ちを穏やかにするはたらきも期待できるといいます。

アルツハイマー病において、中核症状が原因となって起こる精神症状や問題行動などを周辺症状と呼びます。周辺症状は人によってさまざまで、たとえば物盗られ妄想や夜間せん妄睡眠障害、落ち込むなどの抑うつ状態などが挙げられます。物盗られ妄想は自分が物を置いた場所を忘れて“盗まれた”と思い込むことで、アルツハイマー病の患者の半数以上に生じるとされています。一方、夜間せん妄(過活動型)は夜間に興奮して騒ぐことを指します。こういった症状には抗精神病薬が処方されることがあるほか、睡眠障害には睡眠薬、抑うつ状態には抗うつ薬などが処方されることがあります。このような向精神薬の使用に関しては、副作用などの点から注意が必要であるため、主治医の指示に従って正しく使用するようにしましょう。

また、周辺症状では非薬物療法として以下のようなリハビリテーションなどが実施されることがあります。

  • RO(リアリティオリエンテーション):自分が置かれた状況を理解する力を訓練するために、周囲の人が「雪が降っていますね、冬ですね」のような声かけを行い会話する。
  • 回想法:過去の体験を振り返り他人に伝えることで、心の安定や人格の統一を目指す。
  • 認知刺激療法:絵を描くなどして脳に刺激を与える。
  • 運動療法:散歩やストレッチをすることで、血流改善や生活習慣病予防などにつながる。
  • 音楽療法:音楽を聴くことでリラックスや脳への刺激につながる。

アルツハイマー病を根本的に治す治療法はありませんが、中核症状と周辺症状をそれぞれ緩和する薬は存在します。また、リハビリテーションなどによって症状が改善したり、進行を遅らせたりすることも可能とされています。そのため、医師の指示を守って薬を服用するとよいでしょう。

また、患者は穏やかな気持ちで日常生活を送ることが、アルツハイマー病による問題行動を減らすことにつながるとされています。そのため、家族や周囲の人の対応も非常に重要となります。ポイントとしては、アルツハイマー病患者と接する際には、可能であれば患者の認識に合わせるようにするようにしましょう。たとえば、家にいるのに「帰る」と言うときは、「送りますね」と言って一緒に家を出て、しばらく散歩をして帰ってくるといった行動を取るようにします。具体的な患者への接し方や治療に関しては、あらかじめ担当医に相談するとよいでしょう。

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  • 医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授

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  • 医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授

    日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医

    内門 大丈 先生

    1996年横浜市立大学医学部卒業。2004年横浜市立大学大学院博士課程(精神医学専攻)修了。大学院在学中に東京都精神医学総合研究所(現東京都医学総合研究所)で神経病理学の研究を行い、2004年より2年間、米国ジャクソンビルのメイヨークリニックに研究留学。2006年医療法人積愛会 横浜舞岡病院を経て、2008年横浜南共済病院神経科部長に就任。2011年湘南いなほクリニック院長を経て、2022年4月より現職。湘南いなほクリニック在籍中は認知症の人の在宅医療を推進。日本認知症予防学会 神奈川県支部支部長、湘南健康大学代表、N-Pネットワーク研究会代表世話人、SHIGETAハウスプロジェクト副代表、一般社団法人日本音楽医療福祉協会副理事長、レビー小体型認知症研究会事務局長などを通じて、認知症に関する啓発活動・地域コミュニティの活性化に取り組んでいる。

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