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間葉系幹細胞を用いた再生医療――適応や治療のゴールを解説

間葉系幹細胞を用いた再生医療――適応や治療のゴールを解説
阿保 義久 先生

北青山D.CLINIC 院長

阿保 義久 先生

目次
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近年、間葉系幹細胞を用いた再生医療が注目を集めています。間葉系幹細胞は、患者さん自身の骨髄や脂肪などに存在し、自ら細胞分裂を行って損傷した組織を修復する能力を持つ細胞です。この特性から、加齢に伴う疾患や障害などへの新たな治療法として期待されています。

今回は、北青山D.CLINIC 院長の阿保 義久(あぼ よしひさ)先生に、間葉系幹細胞を用いた再生医療のメリット・デメリット、どのような疾患や障害が適応となるのか、実際の治療の流れなどについてお話を伺いました。

当院では脂肪を採取し、そこに潜んでいる間葉系幹細胞を分離して培養します。ここでは、脂肪由来の間葉系幹細胞による再生医療のメリットを紹介します。

脂肪由来の間葉系幹細胞を用いた再生医療には、以下のようなメリットがあります。

拒絶反応がない

自己由来の幹細胞を使用することで、免疫拒絶のリスクがほぼないといわれています。

体への負担が少ない

脂肪組織の採取時には数mmほど皮膚を切開しますが、幹細胞の投与においては外科的手術を伴わず、点滴や局所注射など体への負担が少ない方法で行われます。高齢でもストレスなく治療を行うことができます。

写真:PIXTA
写真:PIXTA

倫理的な問題がない

ES細胞のように受精卵を使用せず、患者さん自身の幹細胞を用いるため倫理的な課題がなく、治療に適用しやすいことも利点です。

増殖能が強い

脂肪由来の間葉系幹細胞は増殖しやすいため、脂肪組織を少量採取するだけでも問題なく間葉系幹細胞を増殖させることができ、それにより十分な治療効果を期待できます。

増殖による老化(細胞の老化)が少ない

脂肪由来の間葉系幹細胞は、ほかの組織由来の間葉系幹細胞と比較して、低リスクかつ簡便に用いることができ、増殖に伴う老化の影響や骨分化能の低下が少ないとされています。

間葉系幹細胞を用いた再生医療は、患者さん自身の再生力や修復力を引き出す治療法ですが、その効果には個人差があり、全ての患者さんにおいて期待どおりの結果が得られるとは限りません。また、医療行為に伴い、一定のリスクや副作用が生じる可能性があります。

具体的なリスク・副作用としては、以下のことが考えられます。

脂肪組織採取に伴う副作用

  • 出血・皮下出血(1~2週間程度で軽快)

極めて小さな切開で脂肪組織を採取しますが、採取直後に少量の出血がみられる場合があり、内出血が一時的に残ることがあります。

  • 感染・痛み(比較的まれ)

切開部位がまれに感染し、抗生物質や消炎鎮痛薬の投与が必要となる場合があります。

  • 麻酔の副作用(極めてまれ)

麻酔に対するアレルギー反応(動悸、蕁麻疹(じんましん)、呼吸苦など)が起こる可能性があります。

幹細胞の培養に伴うリスク

  • 培養中の細菌・真菌汚染(コンタミネーション)

細胞培養の過程で細菌や真菌が混入する可能性があります。万が一汚染が確認された場合、その細胞は廃棄され、投与が行えません。治療継続を希望される場合は、再度脂肪組織を採取して培養を行う必要があります。

幹細胞の投与に伴う副作用

  • 一時的な発熱(多くの場合は24時間以内に消失)

幹細胞の投与後、免疫反応により一時的に発熱することがありますが、多くの場合は24時間以内に自然に解熱します。

  • アレルギー反応(極めてまれ)

投与後に動悸、蕁麻疹、呼吸困難などのアレルギー症状が生じる可能性があります。重篤な場合には速やかに適切な対応を行います。

  • 血栓・脂肪塞栓(極めてまれ)

幹細胞の静脈投与により、ごくまれに血栓や脂肪塞栓が生じることが報告されています。リスクを最小限に抑えるため、事前検査や適切な予防措置を講じています。

幹細胞投与後、まれに肺塞栓症(肺の血管が詰まる状態)が発生する可能性があります。万が一発症した場合、当院では速やかに治療ガイドライン*に沿った対応を行い、必要に応じて提携医療機関への搬送を実施します。投与後に呼吸困難や胸痛、強い倦怠感を感じた場合は、速やかにご連絡いただくことをお願いしております。

なお過去に感染症の既往がある方は、治療後の免疫反応などを考慮し、再生医療の適応が制限される場合があります。さらに、未成年や妊娠中の方に対しては、安全性に関する十分なデータが確立されていないことから、治療の対象とはなっていません。

近年、再生医療を提供する医療機関は増えているものの、施設によって対応範囲に違いがあるのが現状です。加えて、現在間葉系幹細胞を用いた治療は自由診療(全額自己負担)**のため、治療費が高額になってしまうことも課題といえるでしょう。

*治療ガイドライン:肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)
**北青山D.CLINICにおける費用は以下の通りです。
【血清培地を使用した場合】
●脂肪採取+細胞培養・投与:165万円(税込)
●保管細胞の培養・投与:82.5万~110万円(税込)
【無血清培地を使用した場合】※無血清培地による培養の開始時期は2025年7月以降を予定しています。
●脂肪採取+細胞培養・投与:220万円(税込)
●保管細胞の培養・投与:110万~165万円(税込)
【細胞保管費用】
●長期保存を希望する場合の年間保管費用:22万円(税込)/年

再生医療は、損傷した組織の再生を促す治療であり、そのメカニズムを考えると、理論上はさまざまな疾患や障害に対して治療効果が期待できると考えられます。しかし、特定の疾患に対して再生医療を提供するためには、厚生労働省が定める法律の下で適切な手続きを行い、届出を行ったうえで治療の提供が可能となります。

当院では、動脈硬化慢性疼痛(まんせいとうつう)認知機能障害を含む15の疾患に対して再生医療の提供に関する届出を行っています。特に、既存の保存的治療や手術的治療では十分な改善が得られない方が対象となります。当院では、再生医療を専門とする医師に加え、それぞれの疾患治療を専門とする医師がそろっているため、患者さんの状態を総合的に評価し、適切な治療方針を相談しながら進めることが可能です。

当院の場合、慢性疼痛の治療を希望される方が多い傾向にありますが、動脈硬化や認知機能の低下を心配される方も少なくありません。認知機能に関しては、患者さんご自身ではなく、ご家族や身近な方が心配して患者さんを連れて受診されるケースもあります。

当院では、インフォームドコンセントを大切にしています。治療を希望される方には、まず医師とのカウンセリングを実施し、治療の適応や進め方、治療費について十分に説明を行います。患者さんが納得したうえで治療を選択できるよう、疑問や不安に丁寧にお答えしながら進めていきます。通常は、カウンセリングに1時間ほどの時間を用意して対応しています。

写真:PIXTA
写真:PIXTA

当院では以下の流れで治療を行います。

1)細胞採取……局所麻酔を行い、腹部などから米粒2個ほどの脂肪を採取する

2)細胞培養……細胞培養加工室にて幹細胞を培養する(培養期間:初期培養/約3~4週間、拡大培養/約2週間)

3)幹細胞の投与……点滴・注射・動脈カテーテル・髄腔内投与のいずれかで幹細胞を投与する(所要時間:1時間~1時間半)

4)経過観察……1・3・6・12か月のタイミングで経過をチェック

幹細胞の追加投与については治療の効果や経過を評価しながら随時検討していきます。また、終診の判断については患者さんに自覚症状などを伺って相談しながら行います。

治療において理想のゴールは、自覚症状が改善することや、検査の数値が正常化することなどが挙げられます。とはいえ、当院の場合は医師側が判断基準を示して、一方的に治療のゴールを設定していくスタンスではありません。医療を提供する側が持つ医学的な専門知識や情報を適切に提供しながら患者さんとの対話を重ね、よりよい治療計画を共に作り上げていく姿勢を大切にしています。

写真:PIXTA
写真:PIXTA

再生医療の分野では、治療のアプローチや治療後の評価方法について、医療側も試行錯誤を重ねながら適切な方法を模索しています。そのため治療の方針やゴールは、患者さんの思いや状況、治療後の自覚症状なども考慮して、二人三脚で協力しながら設定していくことが重要です。

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