歳を重ねていくと、人生の豊かさが深まる一方で、体にはさまざまな変化が生じます。加齢に伴い、動脈硬化やがん、認知機能の低下などの疾患や障害発生のリスクは避けられません。しかし近年では、“再生医療”によって疾患や障害の予防や治療が可能になってきています。
今回は、北青山D.CLINIC 院長の阿保 義久先生に、加齢による体の変化と再生医療の可能性について、詳しくお話を伺いました。
加齢に伴う変化は、さまざまな疾患や障害の原因になります。たとえば動脈硬化もその1つです。症状が進行した場合には、心筋梗塞や脳梗塞などの命にかかわる疾患にもつながり得ます。また、がんは細胞の修復機能が低下した結果生じることが明らかになっており、これにも加齢による細胞の老化が関連します。当然ながら細胞の老化は全身に生じるものですので、がんのみならず認知機能の低下なども加齢とは切っても切り離せない疾患です。
近年、この“老化”自体を病気の一種と捉えて、その進行を抑える医療への関心が高まっています。日本においては特に2000年代以降で、この考え方に基づいた研究が行われてきました。何らかの形で老化を抑制できれば、理論上は加齢性の疾患や障害の予防も期待できると考えられます。この効果を得るためには経年的に劣化した部分を補修する必要があるわけですから、その手段の1つとして再生医療に注目が集まっています。
再生医療とは、細胞や組織の再生能力を応用して、機能が低下したり失われたりした組織などの修復を図り、疾患や障害を治すアプローチです。
この“再生”に関わるのが“幹細胞”と呼ばれる細胞です。幹細胞は病気やけがで組織が損傷したときに、以下の2つの特性を生かして機能を修復します。
再生医療で用いられる幹細胞には、主に以下の種類があります。
体性幹細胞は私たちの体内に広く存在しており、血液や脂肪、骨、軟骨、筋肉、血管などの細胞のもとになっています。基本的には特定の細胞にしか分化できない特徴があります。
ES細胞は子宮に着床する前の受精卵を人工的に培養することによって生成可能です。体性幹細胞と異なり、どのような細胞にも分化することができます。
iPS細胞は体の細胞から人工的に生み出す幹細胞であり、開発者である山中 伸弥先生がノーベル賞を受賞したことでも知られています。2014年にはiPS細胞から作られた網膜の移植手術が実験的に行われ、今後も広い分野の治療への応用が期待されています。
これらの幹細胞のうち、ES細胞やiPS細胞は一部を除いて体内のどのような細胞にも分化できる能力を持っており、“多能性幹細胞”とも呼ばれます。もともとは「これらの多能性幹細胞を活用して臓器を再生できないか」という仮説のもと、再生医療は発展していきました。しかし、多能性幹細胞にはがん化するリスクや、生殖に関わる細胞を使用するために倫理的な課題があり、実際の治療として広く利用されるにはまだ慎重に議論を重ねていく必要があります。
このような課題があるなかで、安全性や倫理的な観点から現在特に注目されているのが“間葉系幹細胞”です。これは体性幹細胞の一種で、骨髄・脂肪・歯髄・へその緒・胎盤などに存在し、骨細胞・軟骨細胞、脂肪細胞、神経細胞、幹細胞などさまざまな細胞に分化できます。
治療に間葉系幹細胞を用いる場合、採取した幹細胞を培養して、血管などに投与するのが一般的な流れです(当院における詳しい治療の流れはこちらで解説します)。
このとき、投与された幹細胞はどのように治療が必要な箇所に到達し、組織の修復を行うのでしょうか。これには“ホーミング現象”と“パラクライン効果”という2つのメカニズムが関係しています。
損傷を受けた組織や臓器では、“接着因子”や“サイトカイン”と呼ばれる情報伝達物質が放出され、SOS信号として機能します。幹細胞はこの信号を受け取ると、血流を介して損傷部位へと移動し、集積するという特性を持っています。これがホーミング現象と呼ばれる仕組みです。
幹細胞は損傷部位へ到達すると、単にそこへ留まるだけではなく、周囲の細胞にはたらきかける“パラクライン効果”を発揮します。これは、幹細胞が修復を促す成長因子や抗炎症物質などを分泌することで、患部の細胞が活性化し、自己修復を促進するメカニズムです。なお、間葉系幹細胞から分泌される情報伝達物質の中でも、特にエクソソームはさまざまな疾患や障害に対して修復改善効果を発揮することが期待されています。
この2つの作用によって、幹細胞は細胞の補充にとどまらず、周囲の細胞の再生を助ける役割を果たし、老化に伴う疾患や障害の治療や予防に応用されています。
北青山D.CLINIC 院長
阿保 義久 先生の所属医療機関
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