インタビュー

アルツハイマー病とは-アルツハイマー病は数ある認知症の原因のひとつである

アルツハイマー病とは-アルツハイマー病は数ある認知症の原因のひとつである
山田 正仁 先生

国家公務員共済組合連合会 九段坂病院 院長

山田 正仁 先生

この記事の最終更新は2016年01月16日です。

アルツハイマー病は、ほとんどの方がその名前を聞いたことがある病気ではないでしょうか。また、「すべての認知症=アルツハイマー病」と思われている方も多いかもしれません。しかし、認知症の原因となる病気はいくつかもあり、アルツハイマー病のだけが認知症の原因ではないのです。本記事では、認知症の種類と認知症を正確に診断することの大切さについて、九段坂病院 院長 山田 正仁(やまだ まさひと)先生にお話しいただきました。

アルツハイマー病は、ドイツのアロイス・アルツハイマー博士の名前から命名されました。1907年、アルツハイマー博士は、進行性の認知症で死亡した50歳台の女性の脳に老人斑と神経原線維変化という特徴的な構造を発見しました。(参考:「アルツハイマー病の原因-アルツハイマー病には3つの特徴がある」)当初は、この病理学的特徴を有する病態は初老期(65歳未満)発症のまれな認知症と考えられましたが、老年期に発症する認知症にも同様の病理所見がみられることが判明し、発症年齢では区別されないことから、アルツハイマー病(AD)もしくはアルツハイマー型認知症と呼ばれるようになりました。すなわち、進行性の認知症症状を呈し、神経細胞脱落と共に老人斑や神経原線維変化を認める疾患がアルツハイマー病と定義されます。

「認知症」という用語は、一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を指します。まだ認知機能は低下しているものの、日常生活・社会生活に支障がない状態を軽度認知障害(MCI)と呼びます。すなわち、軽度認知障害は認知症でも正常でもないグレイゾーンの状態です。

アルツハイマー病は、老人斑や神経原線維変化といった、特徴的な脳の病変をもっている状態を指します。近年検査法の進歩により、死後に脳を解剖して調べなくてもアルツハイマー病の特徴的な脳の病変を検査で検出できるようになってきました。その結果、軽度認知障害の段階、さらには認知機能が正常範囲の段階でも脳にアルツハイマー病の変化がみられることがわかってきており、それらは認知症になる前の段階と考えられています。すなわち、アルツハイマー病は、①発症前の無症状の段階(発症前アルツハイマー病)、②軽度認知障害の段階(アルツハイマー病による軽度認知障害)、③認知症の段階(アルツハイマー病による認知症)の順に徐々に進行していきます。「アルツハイマー型認知症」という病名は、アルツハイマー病に特徴的な脳の病変をもち認知症の状態であること、すなわちアルツハイマー病による認知症を意味します。

厚生労働省によると、日本における65歳以上の認知症有病率は15%といわれています。そのうち約6割、つまり65歳以上の10人に1人がアルツハイマー病とされています。上記の認知症有病率を男女別・年齢別にみると、男女共に 75 歳未満では5%に満たないものの、75~79 歳では 10%を超えています。そして、80 歳からはさらに上昇して男女ともに高い割合となります。80~84 歳では男性は 6 人に 1 人、女性は 4 人に 1 人が認知症有病者となり、同年代で比較すると女性のほうが高くなる傾向にあります。さらに、認知症に匹敵する数の軽度認知障害の人がいます。すなわち、高齢者の3割近くは認知症あるいは軽度認知障害の状態にあります。そのうちの6割はアルツハイマー病と考えられます。

認知症」はひとくくりにされがちですが、以下に示すとおり、認知症を起こす原因となる病気にはアルツハイマー病以外にもさまざまな種類があります。

これらは病気そのものが異なるため、病理・症状・原因・検査・治療も異なります。ただし症状が似ている場合、アルツハイマー病ではない患者さんがアルツハイマー病と診断されてしまうことも少なくありません。しかし、もの忘れなどの記憶障害を中心とした認知機能の低下という典型的なアルツハイマー病の経過をたどっていても、脳には老人斑や神経原線維変化、神経細胞の脱落というアルツハイマー病の診断に不可欠な変化がそろっていない患者さんがいるということがわかってきたのです。これは、アルツハイマー病の脳の病変(病理)をみることができる検査(PETや脳脊髄液の検査)が出てきたということであり、近年の進歩といえます。

前述したとおり、アルツハイマー病の特徴は次の3つです。

  • 老人斑の出現
  • 神経原線維変化
  • 神経細胞(シナプス)の脱落

神経細胞の脱落はアルツハイマー病以外の認知症でもみられますが、その他の2つの特徴を確認できればアルツハイマー病と診断することができます。特徴がそろっていなければアルツハイマー病ではないということがいえるのです。

従来の診断法でアルツハイマー病と診断された患者さんを、脳の病理がわかる新しい検査法(アミロイドPET)で検査しました。その結果、老人斑の主要構成成分であるアミロイドが脳にたまっていない、すなわちアルツハイマー病ではない方が2〜3割いるということがわかりました。これは、あるアルツハイマー病の治験に参加した患者さんを詳しく検査した結果判明しました。アルツハイマー病と誤って診断されていたもののなかには、1996年に私が報告した神経原線維変化型の老年期認知症(神経原線維変化はみられるが老人斑がない)や、嗜銀顆粒(しぎんかりゅう)性認知症(中枢神経系に嗜銀顆粒と呼ばれる構造物が出現する認知症)が含まれていると考えられます。

ほかに、レビー小体型認知症も幻視やパーキンソン症状などの特徴的な症状がみられない場合、アルツハイマー病と間違われることも少なくありません。高齢発症になればなるほど、パーキンソン症状や幻視などのレビー小体型認知症に特徴的な症状がみられないことが多くなり、アルツハイマー病と診断されてしまうこともあります。血管性認知症だけではなく、アルツハイマー病とそれ以外の脳の変性型の認知症の鑑別を十分に行っていく必要があります。血管性の場合はもちろん、非アルツハイマー型の変性型の認知症では、病気の経過や対応法がアルツハイマー病とは異なることなどから正しい診断には大きなメリットがあります。

さらに、将来アルツハイマー病の脳に貯まるアミロイドに対する治療など、脳の病変そのものに対する治療法が出てきた場合、アルツハイマー病の正確な診断(脳にアミロイドがたまっていること)が前提になります。しかし、それらの変性型認知症とアルツハイマー病との鑑別を十分行うためには、現在保険適用されていない先端的な検査も必要となります。一般の診療で正確に診断することは現時点では難しいかもしれません。しかし一般の方々も医療従事者も、アルツハイマー病に類似した認知症があり、アルツハイマー病と臨床的に診断されている患者さんの中には、そうした認知症の患者さんが混ざっているということを念頭に置くことは重要です。

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