けっかんせいにんちしょう

血管性認知症

脳

目次

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概要

血管性認知症(Vascular Dementia: VaD)とは、脳卒中(脳血管障害:脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)によって脳内の神経組織が破壊され、そのことが要因となって現れる認知症のことを指します。単なる動脈硬化ではなく、脳血管障害により急性もしくは慢性の脳虚血により脳機能が低下することで認知症を来たすという考えが主流となっています。

診断に際して重要な点は、認知症と血管障害の間に明確な因果関係があることを確認することです。血管性病変が出現したタイミングと認知症が生じたタイミングに時間的な矛盾がないことを確認することが重要ですし、血管性病変の部位と大きさが臨床症状を説明するに妥当なものである必要もあります。

日本の認知症患者数は462万人と推定され、そのうち血管性認知症は約92万人(20%程度)であり、認知症の代表的疾患であるアルツハイマー型認知症と比較すると、血管性認知症は男性に多いと報告されています。

原因

多くは、脳梗塞などが原因で脳の血管が詰まり、脳へ酸素が運ばれず、その結果神経細胞や神経線維が壊れることが原因です。また、脳卒中の別のタイプである「脳出血」の後遺症として、血管性認知症になることもあります。

そのほか、海馬、視床、角回など、「記憶」に関係する部位への血管が破綻して発症するケースもあります。心停止や呼吸不全などによる脳虚血が原因となることもあります。また、直接的な原因ではありませんが、血管性認知症を招く危険因子もあります。それは、脳血管障害(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)の危険因子と同じく、以下のようなことです。

  • 高血圧
  • 脂質異常症
  • 糖尿病
  • 高尿酸血症
  • 心房細動などの不整脈

さらに悪影響を与える生活習慣として、以下が挙げられます。

  • 喫煙
  • 過度の飲酒
  • 肥満
  • ビタミン・ミネラルなど必要な栄養素の不足
  • バランスの悪い食事
  • 運動不足
  • ストレス
  • 放射線
  • 大気汚染物質
  • 遺伝的素因

など

症状

血管性認知症の症状は、日常生活に支障を来すような記憶障害や認知機能障害を認めます。具体的には、「物覚えが悪くなった」、「今までできていたことができなくなった」、「時間や物の名前、においや味がわからない」、「自分で服を着ることができない」、「自分の家に帰ることができない」など様々な症状が現れます。これらの症状は必ずしも血管性認知症に特徴的なものではなく、アルツハイマー型認知症を代表とするその他の認知症でも認めます。

血管性認知症でより特徴的なのは、突然症状が悪くなったり落ち着いたりなど、症状に変動が見られる点です。また特定の分野のことはしっかりできるのに、他のことになるとからっきし出来なくなるといった、「まだら認知」と呼ばれる症状を示すのも血管性認知症における特徴の一つです。

その他の症状として血管性認知症では、抑うつ状態になったり、その場の状況に関係ない感情(突然泣き出したり笑い出したりする)を表したりすることもあります。また、「加速歩行」といったパーキンソン病によく似た症状も出ます(これを脳血管性パーキンソニズムといいます)。血管性認知症はアルツハイマー病と比較すると記憶障害(認知障害)や人格障害は軽度な傾向にありますが、遂行機能低下と抑うつ症状・感情失禁などの精神症状はより高度だと考えられています。

また、血管性認知症では片麻痺や構音障害などの神経症状をともなうことが多いです(アルツハイマー型認知症ではこれらは末期にならないと出現しません)。同時に、早期から歩行障害や尿便失禁をきたすこともよく見受けられます。ただし、血管性認知症は病態認識がはっきりしており、自分が病気であるという意識は末期まで保たれます。

検査・診断

血管性認知症の診断はアルツハイマー型認知症とオーバーラップが多いため、分類が非常に難しいとされています。そのため特定の検査だけでは血管性認知症と判断しづらいのが特徴です。ただし、臨床診断基準として、血管性認知症は、1) 認知症がある、2) 脳血管障害がある、3) 両者の間に因果関係(時間的関連性)がある、の3点を満たしていることが前提です。

血管性認知症では、頭部CTやMRIなどの画像検査は有用な情報になります。認知機能や記憶に関与する部位に一致して梗塞が存在することが確認され、こうした梗塞巣の位置が症状の出現と妥当であるかどうかを確認します。その他、MRAにて血管の評価をすることもあります。生活習慣病の評価のために、一般的な血液検査や心電図検査、骨密度など幅広い検査も併用されることがあります。

治療

血管性認知症で障害を受けた脳の神経細胞を回復させることは出来ません。したがって、治療の基本は、脳卒中の再発予防と、認知機能に応じた対症療法が中心になります。時に、アルツハイマー型認知症の治療薬である「コリンエステラーゼ阻害薬」や「NMDA受容体拮抗薬」などが処方されることもあります。脳卒中再発予防には、生活習慣病に対するアプローチが必要になります。動脈硬化を進行させうる糖尿病や高血圧などに対する治療は重要です。脳卒中予防を目的として抗血小板薬や抗凝固薬など、血液をサラサラにする薬物療法も有効です。

また、認知症症状に対してのリハビリテーションも重要であり、各分野の医療従事者の関与や地域連携の観点も必要不可欠です。もし興奮や妄想、抑うつなどの症状が強い場合には、症状に対処するための内服薬(例えば、クエチアピンやオランザピン、ニセルゴリンなど)の使用を検討することもあります。

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