インタビュー

血管性認知症(VD)の治療は?―生活習慣病の予防がカギ。地域連携をうまく活用した総合的な治療を

血管性認知症(VD)の治療は?―生活習慣病の予防がカギ。地域連携をうまく活用した総合的な治療を
板東 邦秋 先生

ばんどうクリニック 院長

板東 邦秋 先生

この記事の最終更新は2015年08月08日です。

認知症はメディアでたびたび取り上げられており、世間でも有名な病気です。認知症のひとつ、血管性認知症脳梗塞などが原因で脳の血管が詰まり、脳へ酸素が運ばれず、その結果神経細胞や神経線維が壊れることが原因となって発症します。それでは、血管性認知症はどのように治療していくでしょうか。地域連携とサポートという観点を含め、脳神経外科専門医でありばんどうクリニック院長の板東邦秋先生にお話をお聞きしました。

血管性認知症(VD)を根本的に治療する確実な方法は現在のところ確立されていません。そのため、治療の中心は再び脳卒中を起こさないように再発防止(2次予防)に努めることと、認知症症状への対症療法となります。具体的には、内服と生活習慣の改善やリハビリテーションなどです。

血管性認知症(VD)の患者さんに対しても、ばんどうクリニックではアルツハイマー型認知症の薬と同じものを処方しています。たとえばドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン(以上コリンエステラーゼ阻害薬:ChEI)、メマンチン(NMDA拮抗薬)などが血管性認知症(VD)にはよく処方されます。

血管性認知症(VD)ではコリン神経機能の低下が示されているため、第一選択としてコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)を処方します。また、NMDA拮抗薬(メマンチン)はChEIと相乗効果があるため、これを併用することもあります。
さらに、興奮や妄想、幻覚、憤怒など心理的症状が激しい人には、積極的なメマンチンの追加やクエチアピンやオランザピンなどの非定型抗精神病薬、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリギンなど抗痙攣剤、抑肝散などの漢方薬を短期間・集中的に投与することもあります。やる気が起こらない人にはニセルゴリンなどの脳代謝賦活薬が効果を示すこともあります。

また、認知症の予防は脳梗塞の予防ですから、抗血小板薬や新型の抗凝固薬(NOACs、ワルファリンカリウム)なども処方します。同時にコレステロールを下げる工夫や投薬、とくにDHA、EPAの処方も積極的に行います。

医学界では、高コレステロールと認知症には関係があるという考えの医師も無関係であるという考えの医師もおり、むしろコレステロール値を下げてはいけないと考える医師もいます。

コレステロールは細胞膜やステロイドホルモンを作る大切な成分です。そのため、いたずらにコレステロール値を下げ過ぎるのは好ましいことではありません。体質的に低コレステロールの人は脳出血を起こしやすいとも言われています。しかし、コレステロール値があまりにも高いと血管閉塞を起こしてしまいます。当然ながら、アルツハイマー型認知症に対しても血管性障害に対しても、コレステロールが高すぎるのは、動脈硬化の観点からして好ましいことではありません。脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈閉塞症などの一次、二次予防にはコレステロールを下げることが大切だとも言われています。結局のところ、コレステロールにこだわりすぎることに意味があるのかどうかについては、議論があります。

一時期、総コレステロールが悪者のように扱われていた時代がありました。
しかし現在では、コレステロールにはHDL(善玉コレステロール)とLDL(悪玉コレステロール)、TG(中性脂肪があり、コレステロールのなかでもLDL(悪玉コレステロール)とTG(中性脂肪)の値が高い場合に問題があるのだという認識に変わってきています。

実は、このLDLは脳の中には存在しません。脳血液関門(BBB)が破たんでもしてないかぎりLDLもHDLもTGも脳内には入れないのです。脳の中にはHDL(善玉コレステロール)だけがあり、脳の中で産生されています。ですから脳内と行き来のない血中物質(LDL、TG、HDL)に関して是非を議論することがそもそも無益だという考えもあります。

そのうえ、LDLを下げ過ぎると元気がなくなったり倦怠感を感じやすくなったりすることがあります。生活習慣病の既往がなく、家族的にも閉塞性血管障害(脳や心臓、末梢の血管が詰まる病気)の既往も無い方で、特に閉経後の女性では、コレステロール値が高いからといってむやみやたらに薬などを使って下げるのは良くありません。

コレステロールに限らず、認知症に関わる生活習慣病の予防については、食事制限や有酸素運動、良質な睡眠の確保に努め、やむを得ない場合に限り薬を飲むようにすることが大切です。しかし、家族性高コレステロール血症と診断された場合は、抗高脂血症剤の絶対的適応となります。

認知症とは加齢に伴って発症する生活習慣病の一種です。そのためばんどうクリニックでは、生活習慣に関わるすべての検査項目を定期的にチェックしています。
血管性認知症(VD)の特別な治療法はいまだに確立されていないため、対症療法が中心となります。まずは高血圧糖尿病脂質異常症・高ホモシステイン血症・運動不足など、危険因子が何であるかを解明し、それらを取り除くことが大切です。

いずれにしても、基本的な治療はアルツハイマー型認知症の治療とほぼ同じです。どちらの認知症も血液検査、脳画像検査はもとより、骨年齢(骨密度)、血管年齢(動脈硬化の程度)、神経年齢(認知機能検査)、ホルモン年齢(採血)、筋肉年齢(筋力測定・MRIなどでの筋量測定)、を検査します。心電図も見る必要があります。
何よりも、症状が出ていない未病の段階でおさえることが大事であり、治療のメインになります。

高血圧は脳梗塞の危険因子ですが、頚部や頭蓋内に血管閉塞のある人は、健側の血管から側副血行を介して、病側の脳実質の血流を受けていますから、いたずらに血圧を下げ過ぎると、反対側(健側から病側)への血流低下の危険性があるため、通常よりやや高めの血圧を維持することが大切です。

旧来の医療介護の体制は医師を頂点として、その下に看護師、テラピスト、さらにその下にその他のコメディカルや介護士やといったピラミッド型の指示系統になっていました。医師を始め、医療関係者の中にはそういった意識を今も持っている方が沢山いらっしゃるかもしれません。

今の医療でなされるべきことは、このピラミッド型からフラットテーブル型へ医療体制を移行することが重要だと考えます。
認知症の患者さんを診察していると、私自身、コメディカル(医師以外の医療従事者。看護師やセラピスト、歯科医師や薬剤師など)や介護関係者、時には患者さんやご家族から教えられることが多々あります。

たとえば、認知症の患者さんでは上着の脱ぎ方や椅子の座り方がわからない方がよくいらっしゃいます。こういう患者さんに対して、介護者がちょっと上着の襟を持上げてあげるとか、椅子をちょっと引いてあげると、患者さんが体で覚えていて(手続き記憶)、すんなりと上着を脱いだり、椅子に座ったりできるようになります。コツは患者さんに気付かれないようにサポートしてあげることです。そして、上手にできたら「できた! できた!」とオーバーに喜んで褒めてあげることです。

こういったことを繰り返して、患者さんの残った機能を生かして、日常生活の改善や患者さんの自信をつけることで、認知症患者の予後が随分と良くなってきています。昨今の認知症患者の生活障害や予後が改善してきているのは、こういったコメディカルや介護者関係者のケアの質の向上よるところ大なのです。そのような方々は、我々医師のように机上の学問(知識)にのみ頼るのではなく、日々常に「どうすれば患者さんにとって役立つか」を念頭に置き、その体験から、患者さんをよくする介護のコツを沢山体験して知っているのです。このような具体的な知見を多くの関係者に紹介し、みんなで検証したり実践することが地域連携の意義であると、私は考えています。

地域で連携しながらリハビリテーションやサポートを行うと、患者さんの精神的ストレスが非常によく解消されます。誰にでも当てはまることですが、認知症の患者さんも、褒められたり笑ったりすると安心します。意外なことに、それによって脳の血流が良くなったり、記憶力(情動記憶)が改善することもあるのです。また、BPSD(周辺症状)といった問題行動等は、こういった対応によりかなりなところまで改善します。

つまり、私が言いたいことは「医者の力で出来ることなんて実際はちっぽけなことしかない」ということです。地域で連携して、皆で知恵を絞りあって、一人一人の患者さんを支えてあげることが重要です。医師の手を借りずとも、「こんなことやったらよくなったよ」と経験を共有し合えるのが地域連携の強みです。

これからの私たち医師の役割は、看護師やセラピスト、介護福祉士などのコメディカルが得た知見を謙虚に受け止めて、これらを世間に広くお知らせすることにあるのでしょう。医師とコメディカルが連携しあい、治療を行う「キュア」と、症状を緩和したり、悪化しないようにする「ケア」の両方を大切に行っていくことが重要なのです。

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