インタビュー

“認知機能の低下により日常生活に支障が出る”状態が認知症――​​認知症の概要やタイプごとの特徴、検査と治療について解説

“認知機能の低下により日常生活に支障が出る”状態が認知症――​​認知症の概要やタイプごとの特徴、検査と治療について解説
秋山 治彦 先生

横浜市立脳卒中・神経脊椎センター 臨床研究部 部長

秋山 治彦 先生

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認知症とは、“脳に変化が起こることにより認知機能が低下して、日常生活に支障が生じている状態”を指します。横浜市立脳卒中・神経脊椎センターの秋山(あきやま) 治彦(はるひこ)先生は、「認知症は病気の名前ではなく、“状態”を表す言葉です」と言います。

また、認知症を引き起こす病気には大きく分けて五つのタイプがあり、それぞれ現れる症状の特徴が異なります。では、その五つのタイプには、どのような違いがあるのでしょうか。

今回は、秋山先生に、認知症の概要やタイプごとの特徴に加え、検査と治療についてお話を伺いました。

認知症を病名だと思っている方も多いですが、実際には“状態”を表す言葉です。つまり、認知症とは、“脳血管障害やアルツハイマー病などによって脳に変化が起き、記憶、日時や場所についての感覚、理解、判断などの認知機能が低下して、日常生活に支障が生じている状態”のことです。また、その“日常生活に支障が生じる状態”が続きます。それらの状態が続かずに、ある一定の時間あるいは日数だけ生じて、やがて回復するようであれば、“せん妄*”などが考えられます。

*せん妄:意識障害の一種で、一見、覚醒しているように見えるが、記憶、注意力や思考力の低下、見当識障害などの変動が見られる状態

認知症が現れるまでに、多くの場合、軽度認知障害といわれる状態を経過することが分かっています。軽度認知障害とは、認知機能が正常であるとは言えないが、認知症と診断するほどには認知機能低下が強くなく、生活上の支障も軽い状態のことです。認知症予備軍などと呼ばれることもあります。

たとえば、“自分で買い物もできるし料理も作るが、小銭を上手に使えず毎回お札で支払ってしまう” “作る料理は簡単なものだけになって市販の惣菜を使うことが増える”など、日常生活を送るうえで大きな支障はないとはいえ、複雑な作業が苦手になり、もの忘れも強くなります。その軽度認知障害の状態がさらに進行すると、認知症と診断されます。

一般の方の中には、単に加齢のみが原因で生じるようになる“もの忘れ”と“認知症”との違いが気になる方も少なくないでしょう。しかし、加齢による“もの忘れ”と軽度認知障害の(とりわけ)早期における記憶低下とを明確に区別するのは難しいことです。一方、軽度認知障害がある程度進行した状態、さらに認知症になってしまった状態では、加齢による“もの忘れ”との違いが明らかになります。認知症の方の記憶低下は、出来事があったこと自体を忘れてしまい、そのうえヒントがあっても思い出せないのが特徴です。昨日の晩ご飯のおかずが何であったのかを思い出せないのは、脳に病変がない方でも加齢のせいで起こるかも知れません。その場合でも何かヒントがあれば「そうだ、○○だった」と思い出すこともあります。認知症を起こす病気は何年もかけて少しずつ進行するものが大半です。早い段階においては症状だけで区別するのは難しいので、年単位で経過を見て変化を捉えるようにすることが大切です。

認知症には、アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症血管性認知症前頭側頭型認知症、そして高齢者タウオパチーによる認知症などがあります。これら以外にも頻度の低い認知症疾患はいくつもありますが、ここでは省略します。認知症のタイプにより症状や経過が違いますが、特に発症して間もない時期には、今の医療技術では正確に診断できないこともしばしばあります。認知症を起こす病気については、まだたくさんの研究が必要です。

アルツハイマー型認知症は、認知症の中でも一番多いタイプの認知症です。

もの忘れが目立つのが特徴で、同じことを繰り返し尋ねる、物をどこに置いたか忘れてしまうといった、記憶低下の症状から始まります。会話の中で自分の記憶低下が目立たないように上手に話すことができるので、ちょっと世間話をしただけでは周囲の方は気づかないことがあります。記憶低下に続いて、日時の感覚がはっきりしなくなったり、料理などの複雑な段取りがいる作業が苦手になったりします。

レビー小体型認知症は、アルツハイマー型認知症とパーキンソン病を足したようなタイプの認知症です。最初のうちは記憶障害よりも、注意力の低下が目立つ場合があります。また早い段階から、実際にはないものが見える“幻視”、あるものが別のものに見える“錯視”などが生じます。大きな声で寝言を言ったり、眠ったまま夜中に起き上がって歩き回ったりするといった睡眠行動障害もよくみられます。初期には、抑うつが強く認知機能低下が目立たない方もいます。動作がゆっくりになったり歩行が不安定になったりするなどのパーキンソン病に特徴的な症状は早い段階から現れる方もいますし、進行してから現れる方もいます。

血管性認知症は、血管が動脈硬化などで細くなったり詰まったりして、脳の血流が足りなくなって生じる場合が多いです。また、脳出血が原因となる場合もあります。脳卒中の発作を繰り返すなかで認知機能が段階的に低下していく場合もありますし、ほかの認知症と同じように徐々に進行していく場合もあります。認知機能低下の症状は、障害される脳の部位によって違ってきます。高血圧糖尿病脂質異常症など、動脈硬化が進行しやすい持病のある方は早い段階で治療を開始するなど、日頃から注意をすることが大切です。

前頭側頭型認知症は、行動障害型前頭側頭型認知症、意味性認知症、進行性非流暢(りゅうちょう)性失語の三つのタイプに分けられます。行動障害型前頭側頭型認知症では、他人の目を気にせず自分の思い通りに行動する、毎日決まった時刻に同じことをする、食べ物の嗜好が変わったり同じ物ばかり食べたりするようになる、他人の行動につられて衝動的に同じことをしてしまう、といった行動の変化が見られます。どのタイプも遅かれ早かれ言葉の障害が起こりますが、意味性認知症は、言葉や物、人物の意味を忘れてしまうのが特徴です。進行性非流暢性失語では喋るのが難しくなり、言葉数も少なく途切れ途切れに話すようなり、その方の発する言葉が聞き取りにくくなります。

高齢者タウオパチーは聞き慣れない病名かも知れません。80歳以上の高齢者で割合が増してくる認知症のひとつのタイプです。今はまだ、症状や検査だけでアルツハイマー型認知症と区別するのが難しく、亡くなった後に脳を調べて診断がつくことも少なくありません。高齢になってからもの忘れが現れ、アルツハイマー型認知症などと比較してゆっくりと進行する場合に、高齢者タウオパチーである可能性を考えます。

認知症が疑われる場合には、まず“認知機能”と“生活機能”を評価します。記憶の低下が明らかであっても生活上あまり問題が生じていなければ、軽度認知障害ではないかと考えます。頭部MRIなどの脳画像検査により、血管性認知症や脳神経外科疾患による認知機能低下かどうかが分かります。また、萎縮の分布と症状、認知機能低下の特徴から、どのタイプの認知症疾患かを診断します。この段階で、脳神経外科疾患、精神疾患、甲状腺機能低下症など、治療法が異なる病気を見逃さないようにすることが大切です。

認知症に対する治療として、デイケア・デイサービスなどの介護保険サービスや、認知症カフェをはじめとするさまざまな介護予防活動の利用により、認知症の方に活動的に過ごしていただくことをすすめています。もちろん、必要であると判断された場合には薬物療法も行いますが、人の輪に交わって会話をしたり運動したりする毎日を過ごせるようになると、ご本人の気持ちも落ち着き、日常生活における能力を引き出すことができます。

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