インタビュー

レビー小体型認知症の患者さんとご家族に向けて——治療やケアのポイントとは?

レビー小体型認知症の患者さんとご家族に向けて——治療やケアのポイントとは?
數井 裕光 先生

高知大学医学部神経精神科学教室 教授

數井 裕光 先生

目次
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認知機能が低下してくる病気の1つであるレビー小体型認知症は、幻が見える症状、運動機能の障害など、多様な症状が現れることを特徴とします。レビー小体型認知症とうまく付き合っていくためには、服薬の継続と規則正しい生活を心がけるとともに、看護や介護の専門家によるケアを受けていただくことが大切です。

レビー小体型認知症はどのような病気なのか、治療やケアのポイント、症状との付き合い方などについて、高知大学医学部神経精神科学教室教授の數井(かずい) 裕光(ひろあき)先生に伺いました。

レビー小体型認知症は、高齢者に病的な認知機能低下が生じる病気の1つです。特徴として、認知機能の低下のほかに次のような症状が見られます。

  • 認知のよいときと悪いときが入れ替わる症状(認知機能の変動)
  • 幻が見える症状(幻視)
  • 動きが固くなったり、動きが少なくなったりする症状(パーキンソニズム)
  • 寝ているときに寝ぼけて大きく動いたり、大きな声で寝言を言ったりする症状(レム期睡眠行動異常症)

レビー小体型認知症では、“レビー小体”と呼ばれる構造物が認められます。

脳の神経細胞にレビー小体がたまってくると、脳の機能の低下が起こります。そのためにさまざまな症状が現れると考えられていますが、症状の出方や進行は患者さんによって異なります。

私たちのような精神科を受診される患者さんの多くは75歳以上の高齢の方で、認知機能の低下や幻視が最初に目立つことが多いですが、運動機能の障害のほうが先に出てくる方もいます。

精神科を訪れるレビー小体型認知症の患者さんは、多くの場合、次のような主訴(患者さんが訴える主な症状)で来院されます。

“もの忘れ”があるという主訴を持つ患者さんは多くいらっしゃいます。同じことを何度も言う、薬を飲み忘れる、といった症状です。ただし、レビー小体型認知症は、初期の段階ではもの忘れの症状は軽い場合があり、繰り返し伝えるなど工夫すれば覚えていただけることもあります。

幻視は、存在しない物が見えるという症状です。人や子どもなどの幻が見えることが多いです。幻を信じ込んで「襲ってくるかもしれない」「気持ち悪い」などと感じ、「そこに何かがいるだろう。追い払ってくれ」と恐怖感を持っている患者さんもいます。このような場合、まず訴えを傾聴し、安心感を持ってもらうことが大切です。また、脳の機能低下のために見えているので実在しないこと、だから患者さんに危害を加えることはないことを伝えると、安心していただけるケースもあります。

そのほか、服や木々が人に見えるといった見間違いの起こる“錯視”という症状も特徴的です。

人の幻が見えることに関連して、その幻が浮気相手で、配偶者が浮気しているなどと思い込む“嫉妬妄想”が見られる方もいます。

認知機能のよいときと悪いとき、つまり“分かるとき”と“分からないとき”があります。極端な場合には、ご家族を前にして話をしていても「家族ではない、他人だ」と言うことがあります。夕方から夜間にかけて認知機能が悪化することが多いですが、いつ認知機能が悪くなるかを予測することは難しいため、ご家族が対応に戸惑われることも多いです。

当院では、患者さんとご家族からお話を伺った後の検査・情報聴取は、患者さんとご家族とで別々の部屋で行います。患者さんには認知機能検査を受けていただき、ご家族には幻視、妄想、うつ症状などの精神症状、および実際の生活におけるADL(日常生活動作)について詳しく伺います。精神症状やADLを知ることは診断に役立つだけでなく、診断がついた後に患者さんをどのように支援していくかを考えるポイントにもなります。

頭部のMRI検査で、脳の形態学的異常(脳の萎縮など)の有無を調べます。レビー小体型認知症では特徴的な所見は乏しく、全般的な萎縮が認められることが多いです。アルツハイマー病で顕著な萎縮を認めやすい側頭葉内側部という領域の萎縮は比較的軽度です。

脳血流SPECT検査は、脳の血流の状態を調べる検査です。脳血流で脳の神経細胞のはたらきを間接的に評価できます。アルツハイマー病や前頭側頭型認知症など、ほかの認知症との鑑別に有用です。

また、レビー小体型認知症では脳の後頭葉に血流低下が認められます。後頭葉は視覚情報処理に重要な領域なので、この領域の機能低下は幻視の出現に関係していると考えられています。

ドパミントランスポーターシンチグラフィやMIBG心筋シンチグラフィは、レビー小体型認知症の診断に有用です。これらの検査における異常所見は、レビー小体型認知症の診断基準にも採用されています。主に、軽症の患者さんなど、診断が難しい患者さんに実施することが多いです。

“もの忘れがある”“幻が見える”といった症状があると気付いたら、まずはかかりつけ医にご相談ください。レビー小体型認知症の可能性が考えられたら、紹介された専門の医療機関を受診してください。「何かおかしいな」と不安に感じた段階で医師に相談することが大切です。

治療では、認知機能低下の進行を抑制する薬を用います。副作用が強く出て使用を控えたほうがよい方を除き、患者さんにはできるだけ服用していただいています。内科的な持病などのある方は、普段から服用している薬もしっかりと継続しましょう。

規則正しい生活をして、家に閉じこもらないようにしてください。転倒の危険がある場合は、ケアの専門家にサポートしてもらいながら運動するようにしましょう。食事については、しっかり取って栄養管理をするよう心がけ、体力をつけることが大事です。

また、レビー小体型認知症は睡眠の問題を抱えやすい病気ですが、薬に対する過敏性があるため、睡眠薬などは慎重に服用する必要があります。日中は十分に活動し、太陽にあたることで、夜は薬を飲まなくても眠れるようにしましょう。

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メモを持って受診すると診察の際に役立つ、という方は多いのではないでしょうか。診察が始まると、言おうと思っていたことを忘れてしまうものですから、メモを見ながら話すのはとてもよい工夫だと思います。

診察の際、ご家族に付き添ってもらうのは非常に大事なことです。レビー小体型認知症をはじめとする脳の機能低下が見られる病気では、患者さんに「調子はどうですか」と聞くだけでなく、ご家族から見た様子についての情報も欠かせません。患者さんが気付いていない不調もあるため、患者さんのことをよく知っている方に同席していただくのは重要です。

患者さんとご家族は同居しているか、別居か、あるいは独居かということは、患者さんに健やかな生活を送っていただくために重要な情報です。別居や独居の場合、ご家族がどれくらいの距離のところに住んでいるのか、何かあったときには来ていただけるのか、といったことも確認します。

レビー小体型認知症の患者さんに対して、ご家族が「しっかりして」「1人でこれくらいやってよ」などと自立を促そうとする場面がよく見受けられます。

しかし、認知症の患者さんは、診断がつく前からもの忘れや日常の不都合に気付いて、ご自身で努力して対処しているものです。ご家族が気付くのは、患者さんがご自分だけでは対処できなくなったときですから、そこで自立を促されても患者さんにとっては大きな負担となる可能性があります。

ご家族は、患者さんが困っていそうなときは支援する姿勢が大切です。できないことはサポートしてもよいと考えたうえで、頑張ってもらうのは患者さんの気持ちに余裕ができてからにしましょう。

レビー小体型認知症の患者さんにとって、手すりを付ける、段差をなくすといった住宅改修は有用なことがあります。特にパーキンソニズムがある方に対しては、可能であれば、お風呂の浴槽を浅いものに替える、玄関に低い段差を増やして座れるようにする、といった工夫を検討してください。

訪問看護を導入するのもおすすめです。精神科の訪問看護師は、精神症状への対応を心得ており、ご家族では対処が難しい場面でもサポートが可能です。

住宅改修も訪問看護も、介護保険の対象となります。介護保険は補助金が出るものもあるので、ぜひ活用してください。

患者さんと話すときは、見えないところから近づくと混乱させてしまうため、正面から、それも遠くからゆっくりと近寄るようにして、お話を聞くとよいでしょう。

認知機能が低下していると、言いたいことを分かりやすくまとめて言うことが難しくなるため、ご家族はもどかしく感じることがあるかもしれません。しかし、聞き手がすぐに「こうしたら?」などと言うと、患者さんは話をさえぎられたような気持ちになります。落ち着いて聞き、ゆっくりと確認してあげるような声かけが大切です。

患者さんの言うことが分かりにくいときは、「それはこういう意味かな?」と確認しましょう。

レビー小体型認知症の患者さんをご家族だけで支援するのは難しいものです。そこで、介護保険を利用して看護や介護といったケアの専門家の協力を得ることをおすすめします。担当のケアマネージャーをつけたり、食事の提供をサポートしてもらったりと、さまざまなサービスを受ける生活が基本になるとよいでしょう。

たとえば、介護保険サービスの中でもデイケア(通所リハビリテーション)を利用することで、次のようなメリットがあります。

レビー小体型認知症は、運動機能の障害や、めまいなどの自律神経症状により、ふらつきや転倒の危険がある病気です。できるだけ動かないようにすれば安全のように思われますが、長期間にわたり体を動かさないでいると、筋力が低下したり精神的な落ち込みが見られたりする、廃用症候群という状態になる恐れがあります。

週に何回か定期的に運動を取り入れた生活を送ることが大切です。その際、ケアの専門家に見守ってもらいながら、レクリエーションなどを通してより安全に運動を取り入れるとよいでしょう。

ご家族と患者さんだけで過ごしている環境では、お互いに遠慮がないこともあり、関係が悪化してしまうことがあります。

認知症の患者さんは、他人の前ではしっかりした対応をしようとするため、ご家族以外の方と接する時間を取り入れると過ごしやすくなることがあります。

患者さんのご家族は、さまざまな症状の対処についてお悩みになると思います。そこで、困ったことがあればすぐ相談できる存在は重要です。ケアの専門家が定期的に自宅を訪問する機会があれば、悩んでいることをその都度質問できます。

イラスト2

前述したような工夫をすることも大切ですが、全てを完璧に行おうとすると、介護疲れにつながる心配があります。そこで私は、患者さんのご家族にはよく「ご家族だけでいつまでも介護ができるほど甘いものではありません」とお話ししています。

たとえば、患者さんがデイケアに行っている間には、患者さんのことを忘れてリフレッシュしたり、家の用事をしたりしてください。患者さんを見捨てている、ご家族がさぼっているということはまったくありません。患者さんと長い時間を一緒に過ごすのはご家族であり、患者さんが帰ってきたときには、より余裕を持って接することができるようになるはずです。

患者さんの症状が比較的軽くても、ご家族が介護により疲弊していると考えられるときは、当院では“レスパイト入院”という形で2週間ほどの入院をご案内することがあります。これは早期かつ短期の入院です。患者さんの体や症状のチェック、薬の再調整などを行うとともに、ご家族には2週間ほど休んでもらうことができます。

入院による情報収集などによって、ご家族の生活に無理が生じていると判断したら、デイケアの日数を増やしたりショートステイを利用したりすることを提案し、患者さんもご家族も楽になるような状態を整えてから退院していただいています。

私が研究代表者を務めるコミュニティサイト“認知症ちえのわnet”は、認知症の方の実生活の中で、周囲の人が困ったこと、それに対して行った対応法、その対応法がうまくいったかどうかという情報を投稿によって集めるWEBサイトです。同じように認知症のケアで悩んでいる方と情報共有できます。また、投稿してくれた情報を私たちが集計することによって、よりよい対応法を見つけ、公開しようと考えています。

精神症状やADLについて困ることが多いレビー小体型認知症についても多くの投稿がありますので、同じ病気で悩む方の“ケア体験”を参考にしてみてください。

先生

認知症は“病気”です。発症しても、患者さん自身が変わってしまうわけではありません。病気によって少しものを覚えにくくなったり、幻が見えたり、歩行が不安定になったりするだけです。病気のことを理解したうえで、適切な治療やケアを行っていくことが重要です。

レビー小体型認知症は、適切に対応することで、より長く、よりよい時間を過ごすことが期待できる病気です。医師やケアを専門とする方々の助けを得ながら、一緒に頑張っていきましょう。

私たちはチーム一丸となって、レビー小体型認知症の患者さんやご家族を支えていきます。

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  • 高知大学医学部神経精神科学教室 教授

    數井 裕光 先生

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