インタビュー

世界アルツハイマーデーに向けてレビー小体型認知症(DLB)を考える―「物忘れ」から始まる認知症がすべてではない

世界アルツハイマーデーに向けてレビー小体型認知症(DLB)を考える―「物忘れ」から始まる認知症がすべてではない
(故)小阪 憲司 先生

横浜市立大学医学部 名誉教授

(故)小阪 憲司 先生

NPネットワーク研究会

NPネットワーク研究会

この記事の最終更新は2016年08月25日です。

世界アルツハイマーデーは、もともとはアルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)を啓発する世界大会でしたが、最近では認知症全般を対象にした世界大会へと変化しています。世界アルツハイマーデーは長年にわたって行われてきた活動であり、毎年8月ごろにはニュースなどでたびたび取り上げられているトピックです。とはいえ、世界アルツハイマーデーで取り上げられるのはやはりアルツハイマー病に関することがほとんどで、認知症のなかで2番目に多いレビー小体型認知症のことはあまり取り上げられていません。今後はレビー小体型認知症をより多くの方に知ってもらう必要があるといえます。世界アルツハイマーデーに先駆け、世界で初めてレビー小体型認知症を発見した横浜市立大学名誉教授の小阪憲司先生に、レビー小体型認知症の早期診断の重要性についてお話し頂きます。

2013年の厚労省の研究班の報告によると、認知症の患者さんは全体の70%程度がアルツハイマー病、20%程度が脳血管型認知症、4%がレビー小体型認知症と診断されています。しかし、実際にはレビー小体型認知症の割合は約20%を占めており、アルツハイマー病は50%、血管性認知症は10%強といわれます。

レビー小体型認知症は「第二の認知症」でありながら、これほど見過ごされてしまっているということになります。(関連記事:「レビー小体型認知症を正しく認識してもらうために」

認知症と聞いた多くの方は「アルツハイマー病のこと」「物忘れがひどくなる」とイメージするのではないでしょうか。しかし、認知症はアルツハイマー病だけではありません。主なものは、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、血管性認知症が三大認知症と呼ばれています。

最近になり、日本の認知症専門医の間ではレビー小体型認知症が知られるようになりつつあります。

私はレビー小体型認知症を発見した当時からレビー小体型認知症の早期診断の重要性を強く訴えており、2015年には講演を100回行うなどして啓発活動に努めてきました。こうした活動が実を結び、ようやく現在では、レビー小体型認知症が日本全国に知られつつあります。また、イギリスやアメリカを中心に、世界的にもレビー小体型認知症は認識されてきています。

しかし、専門医以外の医師にまでは伝わっていないため、多くの方が誤診されてしまっているのが現状です。

レビー小体型認知症の初期症状は物忘れではなく、幻覚や妄想、抑うつといった精神症状やパーキンソン症状、自律神経症状が中心となり、認知障害が出るのは病状が進行してからになります。そのため、早期段階では認知症と気づかれずに、統合失調症や老人性精神病、パーキンソン病など他の疾患と誤診されてしまうケースが多くあります。

一般社会だけではなく医療者間にも、「認知症では物忘れの症状がまず現れる」という考えが強く根付いているため、レビー小体型認知症が見逃されてしまっているのです。このことは大きな問題といえます。

 

【レビー小体型認知症】

初期の症状:幻視、妄想、うつ、手の震え、前かがみ姿勢、小股歩行、動作緩慢

主な症状:認知障害 + パーキンソン症状(記億障害は比較的軽い)

特徴的な症状:幻視、認知の変動、睡眠時の異常行動、便秘、頻尿、起立時のふらつき

経過:ゆるやかに進行するが、 経過が速いこともある

 

【アルツハイマー型認知症】

初期の症状:もの忘れ

主な症状:認知障害(記億障害が中心)

特徴的な症状:物盗られ妄想、徘個、異食

経過:ゆるやかに進行する

アルツハイマー病とレビー小体型認知症の症状の違い(レビー小体型認知症サポートネットワークより引用)

なお、パーキンソン病はレビー小体病の一種であり、レビー小体病のなかにレビー小体型認知症とパーキンソン病のふたつが含まれます。認知症を伴うパーキンソン病をPDD(Parkinson's disease with dementia)と呼びます。

レビー小体型認知症では、認知障害が起こる前段階から治療をすれば認知障害を予防できるかもしれません。ですから、早期診断をして、早いうちから手を打つことが大切になります。

私は医療従事者を含め、皆さんにこのことを知っておいて頂きたいと考えます。

私が診察する方の70~80%はレビー小体型認知症に該当する患者さんであり、多くの場合、患者さんのご家族が「本人の様子が変だ」と気づいたことがきっかけで受診されます。また、ほとんどの患者さんはすでに他の病院で診察を受けており、そこで誤診(誤った診断)を受けています。

勿論、なかにはかかりつけの先生に「レビー小体型認知症の疑いがある」といわれて受診される方もいるのですが、ここにも一つ問題があります。

それは、現時点では認知症ではないにもかかわらず「レビー小体型認知症」といわれてしまうケースが多くみられるということです。ご本人は認知症ではないと自覚しているのに、医師が「認知症」とはっきり言ってしまえば、非常に大きなショックを受けてしまいます。

そのような患者さんがいらした場合、私は「現在は認知症ではありませんが、レビー小体病とは呼ぶことができます。ただし将来的に認知症をきたしてしまう可能性はあるので、今のうちに手を打ちましょう」とアドバイスしています。

このように、ご家族の視点はレビー小体型認知症の早期発見のために最も大切な観点といえます。ご家族は患者さん本人をずっと見ているので、様子がおかしいということに気づくことができるのです。

2014年、世界で初めてレビー小体型認知症を取り上げたノンフィクション映画「妻の病」が公開されました。

「妻の病」のなかでは主人公である小児科医・石本浩市氏と、レビー小体型認知症を発症したその妻・弥生さんの闘病が描かれています。実は私もこの制作に少し関わっており、実際に石本氏に相談を受けていました。

弥生さんは、最初のうちは統合失調症と誤診され、約7年間にわたり不適切な治療を受け続けていました。そのため、自分で食事が摂れないほど容態が悪化してしまいました。「これはおかしい」と思った石本氏は、インターネットの情報を頼りに私のもとに相談に訪れます。弥生さんの症状を伺ったところ、レビー小体型認知症の症状に当てはまったため、適切な治療へとつなげることができたのです。

弥生さんがもっと早期段階でレビー小体型認知症と診断されていれば、より早い段階で症状の進行を抑えることができ、状況も大きく変わっていたかもしれません。だからこそ、レビー小体型認知症は早期診断が重要なのです。

日本では、2014年9月よりレビー小体型認知症の公的治療薬としてドネペジル塩酸塩が使用されています。認知障害が起こる前からドネペジル塩酸塩で治療することで、認知障害を予防できる可能性が高まります。また、投与前からすでに認知障害を伴っている場合は、ドネペジル塩酸塩による認知障害の進行抑制が期待できます。

しかし、繰り返しになりますが、認知障害が起こってから治療を開始したのでは遅いのです。認知障害の予防あるいは発症の進行抑制のためには早期診断をして、認知障害が起こる前に治療を開始しなければなりません。

関連記事:「レビー小体型認知症の治療」

最近はアルツハイマー型認知症においても早期発見の重要性が説かれており、MCI(軽度認知障害:物忘れが目立ってきた時期)の段階から早期治療を行うことが目指されています。ただし、医療費の問題から、国は軽度認知症の段階からドネペジル塩酸塩の投与を推奨していません。

前述のとおり、レビー小体型認知症の病態は専門医の間では知られてきています。今後は、更に広く一般の方や専門医以外の先生方にもレビー小体型認知症という病気を理解してもらわなければなりません。

医師がレビー小体型認知症を診断しづらい一方で、ケア従事者の方は早い段階で患者さんがレビー小体型認知症であることに気づく場合が多いようです。診断に関して医師に意見を述べることはなかなか難しいかもしれませんが、その主張によって少しでも早く正しい診断ができる可能性もあります。ですから、ケア従事者の方は遠慮せず、積極的に医師へ自分の主張をしてほしいと願います。

繰り返しになりますが、レビー小体型認知症には早期診断が非常に大切であり、認知障害が起こる前に治療を開始しなければなりません。

周囲に抑うつやパーキンソン病様の症状、自律神経障害などの症状がみられる方がいた場合は、レビー小体型認知症の可能性を疑ってください。「もしかしたら」と考えるだけで見通しが大きく変わってきます。一人ひとりがレビー小体型認知症のことを知り、意識することが大切です。

関連記事:「レビー小体型認知症が世界中で認められるまで」

*家族会について

現在ではレビー小体型認知症の家族会が21箇所で発足しており(レビー小体型認知症サポートネットワーク)、徐々に規模が拡大してきています。

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  • 横浜市立大学医学部 名誉教授

    (故)小阪 憲司 先生

    レビー小体型認知症の発見者として世界的に有名な認知症疾患のスペシャリスト。長年、認知症治療や研究の第一線で活躍し、レビー小体型認知症の家族会を開催するなど、家族のサポートにも力を注いできた。「認知症治療には早期発見と早期診断、さらには適切な指導と薬剤選択が欠かせない」とし、現在も全国各地で講演やセミナーなども行い、認知症の啓発活動に努めている。

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