インタビュー

パーキンソン症状やレム睡眠行動障害への対応-レビー小体型認知症の症状と適切な対応(2)

パーキンソン症状やレム睡眠行動障害への対応-レビー小体型認知症の症状と適切な対応(2)
(故)小阪 憲司 先生

横浜市立大学医学部 名誉教授

(故)小阪 憲司 先生

この記事の最終更新は2016年02月03日です。

前の記事「レビー小体型認知症の症状と適切な対応(1)-認知機能の変動や幻視への適切な対応とは」で、レビー小体型認知症の特徴的な症状について述べました。本記事では、前回に続き、特徴的な症状(パーキンソン症状やレム睡眠行動障害など)とその適切な対応方法について述べていきます。

※本記事は、レビー小体型認知症の発見者である、横浜市立大学医学部名誉教授 小阪 憲司先生にご監修いただいております。

レビー小体型認知症では、パーキンソン病に特有の症状が現れることがあります。パーキンソン症状では、動きが鈍くなる、表情が乏しくなる、筋肉や関節がこわばる、歩行が前かがみで小股になる、転倒しやすくなるといった症状が出ます。歩行障害の主な特徴として、すり足になる、小股で歩く、前かがみになる、腕の振りが小さくなる、一歩目の足が出にくい、歩きだすと止まれない、曲がれないなどです。この歩行障害によって、段差のない平らな床面でもつまづくことがあり、注意が必要です。筋肉や関節が固くなるといった症状もあり、体のバランスがとりづらく容易に転んでしまうのです。骨折などの大けがを負うこともあり、その結果寝たきりになる例もあります。 

パーキンソン症状では、特に転倒しないように気をつけることが大切です。歩行やイスからの立ち上がり、階段の上り下りなどの動作に注意したり、玄関マットをなくす、電気のコードを整理する、家具などの凹凸をなるべくなくす、廊下や室内に手すりをつけるなどの生活環境を整えたり、ズボンの裾を短めにする、サンダルは避け、安定する履物を履く、両手が自由になるリュックサックや斜めがけの鞄を持ってもらうなど、服装に気を配ることも重要です。その他、巻き爪を治すといった心配りも大切です。 また、パーキンソン症状のある人に、後ろから不用意に声をかけないようにしましょう。ご本人を驚かせたり、振り向きざまにバランスを崩し、転倒させてしまうことがあります。 

レビー小体型認知症の初期症状として、レム睡眠行動障害がみられる場合があります。レム睡眠行動障害では、睡眠中に大きな声で寝言を言う・奇声をあげる・怒る・怖がる・暴れるなどの行動がみられます。これは、追いかけられたり暴力をふるわれるなどの悪夢を見ていることが原因である場合が多いです。多くの場合、こういった症状は中期以降にはみられなくなります。 

  • 危険がなければ見守る

睡眠は眠りが浅く夢を見やすい「レム睡眠期」と、眠りが深く夢を見にくい「ノンレム睡眠期」からなり、レム睡眠は睡眠中に周期的にやってきます。最初のレム睡眠は就寝してから約90分後に訪れ、その際に大きな寝言や奇声などがみられることがありますが、おおよそ10分以内には治るため、危険な行動がなければ見守りましょう。朝方のレム睡眠では、長く続くことが多く、10分以上待っても治らなければ、部屋の照明を明るくしたり、目覚まし時計を鳴らすなど、自然に目が覚めるように働きかけます。身体を揺すったり、急に起こすと、悪夢と現実が混同し、興奮してしまうことがあるため避けましょう。 

  • 睡眠の質を整える

日中に不安や嫌なことがあると悪夢を見やすくなるため、日中は穏やかに過ごせるように心がけましょう。昼夜のリズムを規則正しく整えることや、体調を崩さないよう身体の管理をしっかりすることも大切です。 

レビー小体型認知症では交感神経と副交感神経といった自律神経がうまく働かず、様々な不調が現れます。自律神経症状では、失神・起立性低血圧・頭痛・下痢・便秘・めまい・倦怠感・多汗・寝汗など様々な症状が現れます。

  • 起立性低血圧

自律神経症状で多く見られるのが、起立性低血圧です。起立性低血圧とは、急な起き上がりや立ち上がりにより、「立ちくらみ」が起こる症状のことです。これにより、転倒や失神の危険があります。高齢者では筋力が衰えているため、より注意が必要になります。起立性低血圧への対応として、特に重要なのは、急な動作を避けることです。起き上がる時には、体の向きを変えながら、ゆっくりと時間をかけて行いましょう。起き上がったその場で、足の上げ下げや、足踏みを行うのも効果的です。また、食後にも低血圧を起こしやすいため注意が必要です。 

  • 体温調節が困難になる

レビー小体型認知症では、体温調節がうまくいかず、多汗や寝汗といった発汗障害が起こることがあります。また、低体温症により手足が冷えやすくなり、免疫機能や代謝機能の働きが弱くなります。対応としては、入浴や手浴により、心身を温めリラックスさせ、自律神経の働きを整えることです。また、室内の温度や湿度を調整したり、居室と別の部屋との温度変化を少なくし、快適な室温を維持することも有効です。 

便秘や頻尿・尿失禁などが多く見られます。高齢者では脱水を起こしやすいため、適度な水分を取る必要があります。頻尿や尿失禁があるからといって、水分を控えるのは良くありません。ただし、眠前の飲水は夜間頻尿を増長するため控える必要はあります。 

レビー小体型認知症では身体がふわふわと揺れているように感じる「浮動性めまい」が多くみられます。めまいが起きたら、転倒しないように注意しなければなりません。浮動性めまいは数分で治ることも多く、起き上がったり、立ち上がった時にすぐに歩いたせず、しばらくしてから動くようにすることが大切です。 

レビー小体型認知症の初期に、約5〜6割の人に抑うつ症状がみられます。気分が落ち込んだり、悲観的になることに加え、意欲や自発性が低下します。幻視や認知機能の変動などといったレビー小体型認知症にみられる他の症状からくる不安感が影響を及ぼすこともあります。ご本人と接する上で大切なのは、孤独な状態・環境に置かず、安心感を持ってもらうこと、ご本人の言う事を尊重・受容しつつ、負担にならない程度に、意思決定を促していくことです。 

  • 横浜市立大学医学部 名誉教授

    (故)小阪 憲司 先生

    レビー小体型認知症の発見者として世界的に有名な認知症疾患のスペシャリスト。長年、認知症治療や研究の第一線で活躍し、レビー小体型認知症の家族会を開催するなど、家族のサポートにも力を注いできた。「認知症治療には早期発見と早期診断、さらには適切な指導と薬剤選択が欠かせない」とし、現在も全国各地で講演やセミナーなども行い、認知症の啓発活動に努めている。

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