インタビュー

レビー小体型認知症のパーキンソニズムとは? 症状と早期発見のポイント

レビー小体型認知症のパーキンソニズムとは? 症状と早期発見のポイント
浦上 克哉 先生

鳥取大学医学部 保健学科生体制御学講座 教授

浦上 克哉 先生

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認知症をきたす病気のひとつであるレビー小体型認知症は、脳だけでなく全身に多様な症状が現れる病気です。その中でも、手の震えや緩慢な動作が特徴的な“パーキンソニズム”という症状を早期発見し、適切に対応することは、レビー小体型認知症の診療における重要なポイントのひとつだといいます。

レビー小体型認知症の概要、その中でも特にパーキンソニズムについて、鳥取大学医学部保健学科生体制御学講座環境保健学分野教授の浦上(うらかみ) 克哉(かつや)先生に伺いました。

レビー小体型認知症とは、名前の由来である“レビー小体”という構造物が、主に脳の中に現れ、さまざまな症状を引き起こす病気です。認知症の原因となる病気のひとつで、脳の細胞がゆっくりと死んでいく神経変性疾患に分類されます。神経変性疾患による認知症の中では、アルツハイマー病に次いで患者さんが多くいらっしゃいます。

レビー小体型認知症は脳の病気に分類されてはいますが、脳という中枢神経系以外にも、心臓などの末梢交感神経節、消化管などの内臓自律神経系に至るまで幅広く障害がおよびます。つまり、全身性の(全身に症状が出る)病気だといえます。

レビー小体の主要な構成成分は、α-シヌクレインというたんぱく質です。これが蓄積して、レビー小体をつくることが分かっています。ただし、α-シヌクレインがどのようにたまってくるのか、そのしくみはまだ明らかになっていません。また、レビー小体型認知症の一部は遺伝により発症するといわれていますが、遺伝性のないレビー小体型認知症については、発症のメカニズムを完全には解明できていません。レビー小体型認知症の原因や発症のしくみについては、さまざまな分析がなされ、研究が進められているところです。

レビー小体型認知症認知症のひとつであり、患者さんには必ず認知機能の低下が見られます。

レビー小体型認知症の患者さんは、状態がよいときと悪いときで大きな差が見られます。これを認知機能の変動といいます。変動の仕方には個人差がありますが、午前は調子がよいけれど午後は調子が悪いといった日内変動が顕著です。そのため、認知機能のテストを実施する場合は1日2回行うなど、認知機機能の変動が生じることを踏まえて診療にあたることが大切です。

幻視とは幻覚のひとつで、実際には存在しないものを見る症状です。レビー小体型認知症は、非常にありありとした生々しい幻視を見ることが特徴で、患者さんは「ほら、そこに小人がいるだろう。どうして見えないんだ?」というように話すことがあります。また、幻視が妄想につながることがあり、誰かに物を盗まれたと思い込む物盗られ妄想や、配偶者が浮気をしていると思い込む嫉妬妄想のある患者さんもいらっしゃいます。

レビー小体型認知症では、寝ているときに大きな声で寝言を叫んだり、暴れたりするといった、レム期睡眠行動異常が見られます。このような睡眠時の行動異常は、病気を発症した早い段階で起こってくるといわれています。しかし、患者さんご自身はもとより、同居しているご家族も、寝室が別だったり「ただの寝言だろう」と思ったりして、気付かない場合があります。レビー小体型認知症の初発症状である可能性が考えられるため、周囲の方に注意して見ていただきたい症状のひとつです。

パーキンソニズムとは、パーキンソン病という病気で見られる症状に似た、運動系の症状です。診療においては、次のような3つの徴候(トリアス)を見逃さないことが重要だと考えられます。

動作緩慢

動作が非常にゆっくりしたものになることを、動作緩慢(どうさかんまん)といいます。この症状が進行すると、歩行が遅くなったり、うまく動けなくなってきたりします。

安静時振戦

初期の段階では、何もしていないときに震える安静時振戦(あんせいじしんせん)が見られます。安静時振戦は、何か動作をしているときには目立たず、たとえば字を書いたり、コップにお茶を注いで飲んだり、箸で豆をつまんだりすることも、おおむね問題なくできます。進行すると、動いているときにも震えが出てくるようになります。

筋強剛

筋肉がこわばって固くなる状態を筋強剛(きんきょうごう)といいます。患者さんご自身では気付きにくい症状ですが、診察の際に医師が患者さんの手首などを持って動かすと、カクカクという抵抗を感じ、発見することができます。

先生

神経内科の医師としては、初期の段階でパーキンソニズムを見逃さないことが重要だと考えています。初期の段階ではまだ、日常生活で困る場面は少ないかもしれません。しかし、たとえばパーキンソニズムの徴候のひとつである“動作緩慢”が進行すると、眠っているときに寝返りを打つのが難しくなったり、運動機能が衰えて寝たきりの状態になったりして、生活の質(QOL)に影響します。また、日中の活動が低下すると、認知機能の低下につながる恐れもあります。生活の質を維持するとともに、認知機能の低下を抑制するという観点からも、パーキンソニズムに対する対策をできるだけ早く始めることが重要です。

パーキンソニズムを早期発見するためには、次のようなことがポイントになります。

動作緩慢が生じると、歩行が遅くなったり、前かがみで小刻みな歩き方になったりします。そこで、たとえば私が診察するときは、患者さんが診察室に入ってくるスピードや歩き方を確認するようにしています。また、それほど問題なく歩けている患者さんでも、寝返りを打つ動作に症状が現れる場合があるため、血圧測定の際などに横になっていただき、寝返りや起き上がりの動作がスムーズにできるかどうかを確認しています。

安静時振戦の生じている患者さんは、何も動作をしていないときに手の震えが見られます。中には、震える手をポケットに入れたり、震えていないほうの手で押さえたりして隠そうとされる方もいらっしゃいますが、気にせず医師に見せていただければと思います。医師としては、そうした小さなサインを見逃さないよう注意しています。

筋強剛の診察
筋強剛の診察

筋強剛は、医師が患者さんの手首などを持ってゆっくりと動かすことで確認できます。パーキンソニズムの主要な症状のひとつであるにもかかわらず、患者さんご自身では気付くことが難しいため、対面でお話しするだけではなく神経学的な診察が必要です。

もの忘れとともに幻視やパーキンソニズムがあるなど、レビー小体型認知症の可能性が考えられる場合、まずはMRI検査やCT検査を行い、脳の海馬(かいば)という部分の萎縮度合いを調べます。レビー小体型認知症が強く疑われる患者さんには、血流が低下しているかどうかを調べる脳血流SPECTという画像検査もお願いすることがあります。

そのうえで、発症初期の段階から幻視やパーキンソニズムが出ているなど、レビー小体型認知症の疑いが非常に濃厚だと考えられる場合、MIBG心筋シンチグラフィ検査、DATスキャン(ドパミントランスポーターシンチグラフィ)といった、より詳しい検査を予約していただくことがあります。

アルツハイマー病と診断された患者さんの中にも、経過を見ているなかで幻視やパーキンソニズムなどが生じてきて、診断名がアルツハイマー病からレビー小体型認知症へと変わる方がいらっしゃいます。レビー小体型認知症の患者さんはアルツハイマー病変を持っているケースが多く、そうではないピュアなレビー小体型認知症(純粋型)は少数であり、初期の段階では診断ができない場合もあるためです。これは誤診ではなく、診断名が変更されたと考えていただければよいでしょう。

レビー小体型認知症は、初期症状を見逃さないことが早期診断のポイントになります。たとえば、初期に現れることがある症状のひとつとして、便秘が挙げられます。ほかの病気の患者さんにも見られるものですが、レビー小体型認知症の便秘は非常に頑固なことが特徴です。そのほかの初発症状として、嗅覚障害、睡眠時の行動異常なども挙げられ、診断の参考になります。

レビー小体型認知症の治療において、現在、認知症症状の進行抑制が期待できる治療薬として保険適用されているのはドネペジルという薬剤のみです(2020年3月時点)。用量としては10mgの有効性が確立されています。消化器系の副作用が出る場合などは、減量を検討します。海外では、欧米を中心にリバスチグミンという貼り薬の有効性も報告されていますが、日本では現在保険適用されていません。

BPSD*に対しては、薬物療法を行って症状の緩和を図ることがあります。ただし、レビー小体型認知症は薬に対する過敏性があり、薬物療法により症状が悪化する恐れがあります。また、効きすぎて過鎮静になってしまう場合もあるため、投薬は慎重に行います。

*BPSD:認知症に伴う行動・心理症状(幻覚、うつ症状、睡眠障害など)のこと

パーキンソニズムの治療ではレボドパ(L-ドパ)を用います。ただし先述のように、レビー小体型認知症の患者さんは薬に対する過敏性があるため、副作用を懸念して十分な量を投与できないことがあります。レボドパ(L-ドパ)の投与だけでは不十分な場合、ゾニサミドを併用することがあります。

レビー小体型認知症における幻視は、家族や周囲の方が対応に苦労されることの多い症状のひとつです。

患者さんが幻視について話されたときは、頭ごなしに否定しないようにしてください。だからといって「本当だね、あそこに小人がいるね」などと同調するのも、最適ではありません。患者さんの立場に立ってお話を聞くことが大切です。

たとえば、小人がいると言うなら「何人くらいいるの?」と質問します。また、患者さんの中には「鎧武者がいる」と言う方もたまにいらっしゃるので、そういう場合は“怖い”という気持ちに寄り添って、「怖いことはなかったの?」と尋ねます。

接し方を工夫しても改善しない場合、お薬を少し使って幻視を和らげると、接し方やケアの工夫次第でうまく付き合っていけることも期待できます。

パーキンソニズムについては、まずはご家族の方に症状を正しく理解していただくことが重要だと考えています。パーキンソニズムがある場合、単に筋力が落ちているのではなく、筋肉をうまく使えなくなっている可能性が考えられます。そこで、リハビリテーションを併用したり理学療法士から教わったりして、筋肉をスムーズに動かす訓練をするとよいと考えられます。

レビー小体型認知症の患者さんは、アルツハイマー病と比べて、初期の段階から転倒のリスクが高いといわれています。転倒により骨折すると、立ったり歩いたりすることが難しくなり、生活の質の低下につながる可能性があります。また、運動機能が衰えて寝たきりの状態になったり、認知機能の低下につながったりする恐れもあります。

レボドパ(L-ドパ)やゾニサミドなどの薬剤を適切に使用するとともに、住宅環境を整えるサポートも重要です。たとえば、患者さんが無理なく移動できるよう廊下や階段に手すりを設置することや、患者さんが掴まれそうな物の近くや床には物を置かないようにすることなどが、転倒予防に役立ちます。

レビー小体型認知症認知症は、全体としてゆるやかに進行していく病気です。変わった症状が急に出てくることもあるかと思いますが、1日や2日で急に悪くなることはありません。認知症が急激に悪化したという場合、風邪をひいているなど、体の調子が悪いことも考えられますので、まずは身体に合併症がないかどうかを確認することも大切です。

ご家族や周囲の方は、余裕をもって患者さんと接するようにしてください。ご家族が余裕の表情をしていることで、患者さんの安心にもつながるためです。また、「病気が進行したら面倒を見られなくなるかもしれない」と不安に思われている方もいらっしゃるかと思いますが、初期の頃のほうが接し方に工夫が必要で、病気が進行すると介護負担が落ち着いてくるケースもあります。落ち着いて患者さんと接し、不安があれば医師にご相談いただければと思います。

レビー小体型認知症は、入院して治す病気というよりも、生活の中でうまく付き合っていく病気だと考えています。身体合併症などにより入院が必要となる患者さんもいらっしゃいますが、できるだけ在宅生活を続けられるようサポートすることが大切です。在宅が難しくなった場合は、より家庭的な雰囲気を大切にしている施設への入居をおすすめします。

先生

パーキンソニズムの診療で必要とされる神経学的な診察は、口頭で話したり書籍で勉強したりするだけでは身につかない技術です。神経内科医だけでなく、レビー小体型認知症の患者さんが受診される可能性のある精神科医も、神経所見を取る技術を身につけることが大切です。

そこで私は、精神科医の診断力の向上を目指す啓発活動に取り組んできました。私が理事を務める日本老年精神医学会では、精神科医を対象とした“神経学的所見のとり方実践講座”を開催しています。理事長を務める日本認知症予防学会でも、同様の講座を実施しています。

適切に神経所見を取ることができれば、より早期の診断につなげられる可能性があります。また、患者さんやご家族が検査をためらわれている場合でも、検査する根拠を明確に示すことで、より理解が得られやすくなると考えています。

日本認知症予防学会では、認知症の進行に合わせた予防に力を入れています。具体的には、認知症の発症予防である第一次予防、早期発見して治療や対応を行う第二次予防、そして認知症の進行を予防する第三次予防、この3つの進行予防にしっかりと取り組むことを推奨し、病気の進行を抑える姿勢を大切にしています。病気を発症しても、病気によるさまざまなリスクを減らすよう行動すれば、進行はゆるやかになり、できるだけご自宅で長く生活を続けることが期待できるということです。

レビー小体型認知症だと診断された方も、治療を諦めることなく、ぜひ進行予防に取り組んでいただければと思います。

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