概要
嗅覚障害とは、においを感じる感覚(嗅覚)に異常が生じて、においを正しく感じ取れなくなる症状を指します。
嗅覚とは、空気中に漂うにおい成分が鼻の奥にある嗅細胞を刺激し、脳の嗅覚中枢に伝わることでにおいを感じる感覚です。嗅覚障害を生じると、においを感じにくくなったり(またはまったく感じない)、本来のにおいとは違うにおいを感じたり、食事の味が分からなくなったりするなどして、生活の質に大きな影響が生じるほか、食べ物の腐敗やガス漏れに気付けないなど日常生活に危険が及ぶこともあります。嗅覚障害は慢性鼻副鼻腔炎に伴い発症することが多いものの、新型コロナウイルスを含む感冒ウイルス感染症や頭部外傷、加齢などさまざまな原因により発症します。
嗅覚障害を発症した場合は、原因に応じて薬物療法や外科的手術が行われます。
原因
嗅覚障害は異常が生じる場所によって気導性嗅覚障害・中枢性嗅覚障害・嗅神経性嗅覚障害の3つの病態に分類され、それぞれ原因が異なります。
気導性嗅覚障害
鼻腔が塞がるなどし、におい成分が嗅神経まで到達できないことで嗅覚に異常が生じるタイプです。
鼻腔内に鼻茸と呼ばれるポリープを伴う慢性鼻副鼻腔炎に伴って多くみられるほか、アレルギー性鼻炎などが原因になります。
中枢性嗅覚障害
においを嗅ぐと、におい成分が鼻の奥にある嗅細胞を経て脳の嗅球へと刺激が伝わり、処理された情報が大脳に伝わることでにおいを感じ取ることができます。中枢性嗅覚障害は嗅球から大脳までの回路(嗅覚中枢)に異常が生じて発症するタイプです。
頭部外傷による脳挫傷が原因となることが多く、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍などでも脳の嗅覚中枢の回路が損傷して発症します。このほか、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患でも嗅覚障害を伴うことがあります。
嗅神経性嗅覚障害
嗅神経細胞が障害されてにおいを感じなくなるタイプです。
ウイルス感染によって嗅神経細胞がダメージを受けるものと、顔面や頭部の外傷によって嗅いだにおいを鼻の奥にある嗅細胞から脳の嗅球へと伝える嗅神経軸索が損傷されて生じるものがあります。
症状
嗅覚障害は量的嗅覚障害と質的嗅覚障害の大きく2つに分類され、それぞれ症状が異なります。
量的嗅覚障害
量的嗅覚障害には、においを感じにくくなる嗅覚低下と、においをまったく感じなくなる嗅覚脱失があります。嗅覚障害の患者の多くは量的嗅覚障害だといわれています。
質的嗅覚障害
質的嗅覚障害は自発性異嗅症と刺激性異嗅症に分けられます。
自発性異嗅症は、実際にはにおい成分がないにもかかわらず突然においを感じたり、常に何かのにおいを感じたりする状態です。一方、刺激性異嗅症では、何かのにおいを嗅いだときに本来のにおいとは異なるにおいを感じたり、嗅いだ物全てに同じにおいを感じたりします。
検査・診断
嗅覚障害が疑われる場合には、問診や視診、嗅覚の程度を調べる検査、CTやMRIなどの画像検査が行われます。
問診
食べ物などのにおいの感じづらさを数値で表すアンケートなどを行い、嗅覚障害の種類や程度などを調べます。
視診
先端にカメラが付いたファイバースコープを鼻の中に入れ、鼻腔内に異常が生じていないかを調べます。
嗅覚検査
静脈性嗅覚検査や基準嗅力検査という検査を行います。
静脈性嗅覚検査では、ニンニクや玉ねぎのようなにおいがするプロスルチアミンを静脈内に注射し、においを感じるまでの時間と消失するまでの時間を測定します。基準嗅力検査では検査キットを使用し、5種類の異なるにおいを嗅いで何らかのにおいを感じ始めたときの濃度、また何のにおいかが特定できたときの濃度を調べます。
画像検査
嗅覚障害の原因を特定するために行います。CT検査では副鼻腔炎やポリープなどの有無を確認し、脳腫瘍などの脳の病気が疑われる場合にはMRI検査を行います。
治療
原因に応じて薬物療法や外科的手術が検討されます。
薬物療法では、ビタミン製剤や副腎皮質ステロイド薬、代謝改善薬、漢方薬、亜鉛製剤などが用いられます。慢性鼻副鼻腔炎が原因の場合には、薬物療法を行い、改善が期待できない場合には外科的手術が検討されます。このほか、近年では嗅ぎ慣れたにおいを意識的に嗅いで嗅神経の修復を促す嗅覚刺激療法という治療も行われています。
参考文献
- 一般社団法人 日本鼻科学会.嗅覚障害診療ガイドライン.日本鼻科学会会誌.2017,vol.56,No.4,p.487-556.
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