インタビュー

レビー小体型認知症の症状と適切な対応(1)-認知機能の変動や幻視への適切な対応とは

レビー小体型認知症の症状と適切な対応(1)-認知機能の変動や幻視への適切な対応とは
(故)小阪 憲司 先生

横浜市立大学医学部 名誉教授

(故)小阪 憲司 先生

この記事の最終更新は2016年02月02日です。

レビー小体型認知症にはひとによりさまざまな症状があらわれます。本記事では、そのなかでもレビー小体型認知症に特徴的な症状と適切な対応方法について述べていきます。

※本記事は、レビー小体型認知症の発見者である、横浜市立大学医学部名誉教授 小阪 憲司先生にご監修いただいております。

レビー小体型認知症の可能性を調べるチェックリストがあり、その項目は次のとおりです。 

  • もの忘れがある 
  • 頭がはっきりしているときと、そうでないときの差が激しい 
  • 実際にはないはずのものが見える 
  • 妄想が見られる 
  • うつ的である 
  • 動作が緩慢になった 
  • 筋肉がこわばる 
  • 小股で歩く 
  • 睡眠時に異常な言動をとる 
  • 転倒や失神を繰り返す 

以上の項目のうち、5個以上該当すれば、レビー小体型認知症の可能性があります。 

頭がはっきりしているときとそうでないときの差が激しいことを「認知機能の変動」といいます。レビー小体型認知症では、この変動が1日の間や、1週間、または 1ヶ月の中でみられるのが特徴です。初期にはもの忘れなど記憶障害の症状は目立ちませんが、この認知機能の変動が起こると、頭の働きが鈍くなり、集中力や注意力が低下し、ボーッとした状態になります。認知機能の変動に伴い、機能が回復したときに「今まで自分は何をやっていいたんだろう」とご本人が気づくことがあります。そのほか、言葉がうまく出てこなかったり、着替えや歯磨きができなくなるなど、特定のことが行えなくなるという例もあります。また、認知機能の変動のパターンは様々なため予測しにくいことも特徴です。 

実際にはないものがご本人には実在するものとして、「ありありと」見える幻視という症状があります。例えば、「ネズミが這い回っている」「知らない人が隣に座っている」「床に水が流れている」などです。これはレビー小体型認知症に特徴的な症状です。見えるものは人によって様々ですが、虫や小動物、人が動いている姿が見える場合が多いようです。

幻視以外にも、聞こえるはずのないものが聞こえる「幻聴」が起こったり、「人がいる気配を感じる」といったこともあります。アルツハイマー型認知症とは違い、もの忘れといった記憶障害の症状が軽い方が多く、後になっても見えたものの様子を正確に覚えていることがよくあります。 

レビー小体型認知症では、「錯視」という見間違いをしてしまうことも特徴です。目に入ったものを違うものとして感じたり、周囲の物が歪んだり、曲がって見えることもあります。例えば、「ハンガーにかけてある洋服が人に見える」「光の反射が水に見える」「廊下や道路が波打って見える」などです。健康な人でも日常の暮らしの中で見間違いをすることはありますが、レビー小体型認知症の人では、それが強く、また頻繁に現れます。 

レビー小体型認知症では、幻視や見間違いによる「思い違い」が特徴的です。例えば、「ハエがたくさん飛んでいるのが見えるため殺虫剤を撒く」「子供が見えるので世話をしなくてはいけない」などです。また、「夫が見知らぬ女性と仲良くしている」「ネコが私の大事な物を持っていく」など、被害妄想もみられることがあります。これに対し、アルツハイマー型認知症ではもの忘れを原因とした「もの盗られ妄想」などの被害妄想がよくみられ、妄想の種類が違います。 

介護者など周囲の人は、認知機能の変動が生じることを念頭に置き、ご本人の頭の働きの状態を把握しておくことが重要です。状態を把握することで、大切なことは頭がはっきりしているときに伝える、ボーっとしているときには一人で歩かせない、そばにいて見守ってあげるなどのメリハリのある対応が可能になります。人によっては、認知機能が悪くなる前に、「急にソワソワする」「テーブルを何度もコツコツ叩く」などのサインが現れるので、小さな変化を見逃さないことも大切です。 認知機能の低下に対して、他人との対話、散歩、折り紙などが良いとされています。簡単な作業でも普段から続けることが大切です。 

● 室内環境を整える 

幻視や見間違いは、室内の環境が関係することも多く、中でも室内の照明は重要です。照明が暗いことで見間違いは起こりやすいため、室内の明るさを統一し、蛍光灯を白熱灯に変えることで幻視や見間違いを減らすことに繋がります。また、壁に洋服をかけない、周囲に目立つ物を置かない、壁紙の模様をシンプルなものにする工夫なども効果的です。 

● ご本人が安心できるような対応をとる 

幻視はご本人にとって現実のものとして映っているので、そのことを理解し、受け入れることが大切です。「何も見えない」「錯覚だ」などと一方的に強く否定したり、感情的な対応はご本人が混乱するだけではなく、「妄想」へ発展することもあります。そのため、はぐらかしたり、ごまかしたり、一方的に否定したりすることは避けましょう。「悪さはしないから大丈夫」などと安心できるよう対応することが大切です。また、多くの幻視は近づいたり触ったりすると消えてしまうため、ご本人や介護者が近寄り、触ってみるのも効果的です。 

● 身体の不調に注意する 

脱水や風邪、便秘などにより幻視が多くなることもあるため、体調を崩さないように気をつけることも大切です。 

妄想はご本人の思い込みが強いため、周囲の言葉で理解してもらうのはとても困難です。妄想は怒りやイライラを伴うことが多いため、優しく手を握ったり、軽く背中をトントンしてあげるなどのスキンシップを図ることで、心が落ち着く場合もあります。また、家族や介護者が妄想の対象となった場合には、無理に関わらず、少し距離をとることで妄想が軽くなることがあります。 

 

  • 横浜市立大学医学部 名誉教授

    (故)小阪 憲司 先生

    レビー小体型認知症の発見者として世界的に有名な認知症疾患のスペシャリスト。長年、認知症治療や研究の第一線で活躍し、レビー小体型認知症の家族会を開催するなど、家族のサポートにも力を注いできた。「認知症治療には早期発見と早期診断、さらには適切な指導と薬剤選択が欠かせない」とし、現在も全国各地で講演やセミナーなども行い、認知症の啓発活動に努めている。

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