認知症のひとつであるレビー小体型認知症は、認知症に特徴的な“物忘れ”とともに、さまざまな症状が見られる病気です。認知機能の変動、レム睡眠期の行動異常、繰り返し現れる幻視、パーキンソニズムという四つの症状が特徴的ですが、初期症状として便秘や嗅覚障害などが生じることもあるといわれています。
今回は、レビー小体型認知症とはどのような病気なのか、大阪大学大学院医学系研究科 精神医学教室教授の池田 学先生に伺いました。
認知症にはさまざまな種類があり、 “4大認知症”といわれているのが、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症です。その中でもレビー小体型認知症は、ゆっくりと脳が変性して認知症の症状が出てくる、神経変性疾患と呼ばれる病気のひとつです。認知症の15%前後を占めるといわれています。
レビー小体型認知症は認知機能の低下(物忘れ)が特徴的なアルツハイマー病とよく似ています。ただし、記憶障害よりも、注意力や集中力の障害、視空間の認知の障害が目立ちます。
レビー小体型認知症には特徴的な症状が四つあります(認知機能の変動、幻視、パーキンソニズム、レム睡眠時の行動異常)。この四つのうち二つが診療の中で認められれば、レビー小体型認知症と考えてよいとされています。認知機能の低下が目立つ前から、これらの症状が見られる場合もあります。
レビー小体型認知症の患者さんは、状態のよいときと悪いときが目まぐるしく変動します。同じ患者さんでも、認知がしっかりしているときもあれば、ほとんど会話が通じないときもあるということです。数分単位でスイッチが切り替わるように認知機能が変動する方もいれば、日によって劇的に状態が変わるという方もいます。
幻覚のひとつである幻視とは、何もないところに実際にはないものが見える症状です。たとえば壁に人の顔が浮かんで見えるなど、明らかな幻視が繰り返し出てくることがレビー小体型認知症の特徴です。その体験をありありと覚えていて、自分の見た幻視がどのようなものだったか話すことのできる患者さんも多くいらっしゃいます。
幻視が繰り返し出てくる病態には、意識障害のひとつである“せん妄”が挙げられます。レビー小体型認知症の幻視とよく似ていますが、患者さんがほとんど幻視の体験を覚えていないという点で主に区別することができます。
パーキンソニズムとしては主に、全身(特に手足)の筋肉が固くなる(筋強剛)、動きが緩慢になる(無動)、じっとしているときに震える(安静時振戦)、体のバランスを取りにくくなる(姿勢反射障害)といった症状が現れます。
レビー小体型認知症は、パーキンソン病*という病気と同じスペクトラム(連続体)に属しています。この二つの病気はどちらも、“レビー小体”と呼ばれる異常なたんぱく質が脳にたまることが原因で起こりますが、レビー小体のたまる場所によって生じてくる症状が異なります。レビー小体が大脳皮質にできるタイプをレビー小体型認知症、レビー小体が脳幹の運動機能を司るところにできるタイプをパーキンソン病と捉えます。
患者さんの多くは、その両方の性質が入り混じった、スペクトラム上のどこかに位置付けられます。レビー小体型認知症と診断された患者さんの中でも、認知機能の低下が軽度のうちからパーキンソニズムが目立つ方もいれば、認知機能の低下もパーキンソニズムも強く出るという方もいます。
*パーキンソン病:脳内の細胞の変性により震えや動作緩慢などの症状が現れる病気
私たちが眠っているとき、眠りがだんだん深くなった後で眠りの浅い“レム期”が訪れ、また深い眠りに入っていく周期が一晩で数回起こります。この周期の中で、夢を見るのは主にレム期というステージです。夢を見ている間は目だけが動いて体は脱力するように調節されており、夢のとおりに体が動かないようバランスが取れています。
その調整がうまくいかなくなることがあり、夢で見たことをそのまま大声で叫んだり、極端な場合は激しく体が動いたりします。これをレム睡眠時の行動異常といいます。たとえば、誰かと喧嘩する夢を見た患者さんが隣で眠っている人を叩いて骨折させてしまう、といったケースもあります。
レム睡眠時の行動異常は、2017年に改訂された診断基準で中核症状のひとつとして新しく加わった症状です。近年では、レム睡眠時の行動異常がある患者さんの一部がレビー小体型認知症を発症する可能性があると考えられており、認知機能の低下や幻視などが出てくる数年前にレム睡眠時の行動異常症が認められたという研究結果も報告されています。
先述した四つの特徴的な症状以外にも、レビー小体型認知症の患者さんにはさまざまな症状が見られます。
自律神経の調節がうまくできなくなることから、自律神経症状が早い段階から生じてきます。たとえば、頑固な便秘です。物忘れや幻視が生じる10年ほど前から、初期の症状として便秘が生じるという報告もなされています。起立性低血圧*によるめまいや頻尿も自律神経症状として出てきます。自律神経症状は診断のヒントとなり、患者さんのケアをするうえでも重要な症状です。
*起立性低血圧:急に立ち上がったり起き上がったりしたときに起こる、血圧低下による立ちくらみ
嗅覚障害も、早い段階で出てくる症状のひとつです。初めて受診されレビー小体型認知症を疑われた患者さんに尋ねてみると、「もう数年前から匂いが分からない」と言う方もいらっしゃいます。嗅覚はアルツハイマー病で低下することも知られていますが、レビー小体型認知症の患者さんのほうがより強く現れるため、診断のヒントになります。
“憂うつ”“気分が重い”などのうつ症状が見られる場合があります。特に、私たち精神科の医師を受診されるレビー小体型認知症の患者さんは、うつ病の可能性を考えて来られることがよくあります。私が高齢の方を診察するときは、うつ症状とともに軽微なパーキンソニズムや幻視があるようなら、それは一般的なうつ病ではなく、レビー小体型認知症の症状のひとつではないかと疑い、診察を進めます。
レビー小体型認知症のうつ症状は、薬が効きにくい、あるいは副作用が出やすいという特徴があります。
次のような、幻視以外の種類の幻覚を見る場合があります。
人が物を盗むと思い込む“物盗られ妄想”、嫌がらせをされるなどと思い込む“被害妄想”などが生じることがあります。これらは、認知症のひとつであるアルツハイマー病にも見られる症状です。
レビー小体型認知症の場合は、身近な人物を他人と間違える“人物誤認妄想”が見られることがあります。極端な例でいえば、夫のことを亡くなった親と間違えるという患者さんもいらっしゃいます。
また、身近な人物が別人と入れ替わっていると思い込む“替え玉妄想”が見られることもあります。たとえば、診察室に一緒に入ったご家族を別人だと思い込み、「家族は別のところにいます」と言う患者さんもいらっしゃいます。
レビー小体型認知症を診断するには精密な検査が必要になる場合がありますが、どのような医療機関でも導入することが可能な簡易的な検査方法もあります。私が診療するときに実施している検査方法には、次のようなものがあります。
レビー小体型認知症の、幻視とともに錯視を生じることが多いという特徴を利用した、錯視を人為的に誘発するパレイドリア(錯視誘発)テストという検査方法があります。
人の顔が写っているカードや、無意味な模様が描かれているカードなどを見せて、「カードに人の顔が見えたら教えてください」と質問します。レビー小体型認知症の患者さんは錯視が誘発されると、模様や図形でも「人の顔がある」などと解釈されます。
レム睡眠時の行動異常症を確定診断するときは、睡眠ポリグラフ検査で脳波や筋電図を測定する必要があります。レム期に入ったときに脱力するはずの体が動くと、筋電図の波形が激しく上下することを確認できます。ただし、頭に器具を装着して一晩かけて行う検査なので、患者さんにとっては負担が大きいと考えられ、全ての方に受けていただくわけではありません。
そこで、私が診察するときは、まずはご家族や介護者の方に「この1か月で飛び起きるような寝言に気づいたことがありますか?」といった質問をして、寝言の有無を確認しています。寝言の有無や内容を確認するだけでも、ほかの認知症との鑑別が期待できます。
レビー小体型認知症がどのように進行していくのかは個人差が大きく、経過を予測することは困難です。先述のように、嗅覚障害や頑固な便秘などからレビー小体型認知症の症状が始まるという経過をとることが多いものの、うつ症状だけが先に現れるケース、パーキンソニズムから始まるケースなどがあり、必ずしも物忘れから始まるわけではないからです。
レビー小体型認知症の進行の仕方を捉えるということは、レビー小体型認知症の診療における今後の課題でもあります。
レビー小体型認知症は、診断がつかないまま症状を治療せずにいると、事故やほかの病気などの身体的なリスクも高くなると考えられます。
たとえば、レビー小体型認知症の患者さんは転びやすいという特徴があります。起立性低血圧による立ちくらみ、パーキンソニズムによる体のこわばり、幻視で見たものから急いで逃げようとするなど、いくつかのリスクファクターがあるからです。
パーキンソニズムにより、嚥下障害(むせること)が出やすいことから、誤嚥性肺炎のリスクもあります。
しかし、早期に診断がついて、このような症状が出てきたときにきちんと対応できれば、さまざまなリスクを一つひとつ予防していくことにつながります。
レビー小体型認知症の症状の出方には、生活環境が一部関わっています。治療の効果が出にくい症状について、環境を変えることで症状が改善した例をお話しします。
レビー小体型認知症の患者さんの妄想の中に、配偶者の浮気などを信じ込んでしまう嫉妬妄想というタイプがあります。2015年に発表された研究によると、連続で200名以上の認知症の患者さんを診療した結果、レビー小体型認知症の26.3%に嫉妬妄想が認められたと報告されています。その研究では、アルツハイマー病よりもレビー小体型認知症の患者さんのほうが、より嫉妬妄想が出やすい可能性があるとされています。
嫉妬妄想が出ている患者さんの一例として、パーキンソニズムや自律神経症状により1人での外出が難しくなり、リハビリテーションやデイケアに通っているケースがあります。一方、配偶者は活発に過ごしていて、夫婦間の格差を感じたことが嫉妬妄想につながった可能性が考えられます。
嫉妬妄想が出ている患者さんのご家族に私がよくお話しするのは、「デイケアのバスが出ていくまで、にこやかに見送ってください。見えなくなったら好きなように出かけてください。ただし、患者さんが帰ってくる10分前には家に戻り、玄関で迎えてあげてください」ということです。それだけでも、患者さんが落ち着いて過ごせるようになることがあります。
数年前、「夫が夜中に興奮してしまい、介護する私も疲れ切っている。すぐ夫を入院させてほしい」と、思い詰めた様子で相談しに来られた方がいらっしゃいました。ところが、患者さんに入院していただくと自然に眠られるので、特にトラブルは起こらなかったのです。
そこで多職種の訪問チームがご自宅を訪問したところ、壁にご先祖様の遺影がずらりと並んでいました。恐らく、患者さんはその写真を見て錯視が誘発され、「知らない人が家にたくさん入って来た」と思い、興奮されたのだろうと考えられました。ご家族に写真をしまっていただくようアドバイスした結果、患者さんはご自宅で落ち着いて過ごすことができるようになりました。
レビー小体型認知症は、転んだり、むせたりしやすいという特徴があるので、早い段階からリハビリテーションやケアを行い、住宅改修して段差を減らすなどの工夫が必要です。しっかりと対応できれば、一人暮らしをしている患者さんも住み慣れた自宅で生活を続けられることが期待できます。ただし、その場合には、軽い認知障害に気づいた時点で受診し、リハビリテーションスタッフやケアマネージャーなどの専門職、離れて暮らすご家族などが協力して安全確保を徹底することが前提となります。
レビー小体型認知症は、認知症の中でも特に早期診断が重要な病気だといえます。
先述のように、日常生活で支障をきたす症状、事故のリスクになる症状、介護者の負担になる症状などが患者さんによって異なります。それらを冷静に見極めたうえで、どの症状に治療のフォーカスをあてるかが治療の鍵となります。
私たち医師がパーキンソニズムや自律神経症状、幻覚や妄想に関する知識を持っていなければ、せっかく受診してくださった患者さんの症状を見逃してしまったり、治療の必要な症状を見極められなかったりする恐れがあります。レビー小体型認知症は初期からさまざまな症状が出てくるのだということを認識したうえで、患者さんの症状に基づいた科学的な治療戦略を考えることが重要だと考えています。
レビー小体型認知症の可能性がある方や、気になる症状がある方は、日本老年精神医学会や日本認知症学会が認める専門医を受診するようにしてください。一度は専門医を受診して適切な診断を受け、患者さんもご家族も一緒に治療戦略をじっくりと考えていただければと思います。
日本では、レビー小体型認知症の認知機能低下やパーキンソニズムに対する効果の期待できる薬剤が、世界で初めて効能・効果を承認され、保険収載されています。小阪 憲司先生(現・横浜市立大学医学部名誉教授)によるレビー小体型認知症の発見をはじめ、この病気に関する日本の研究は世界の医療に貢献してきました。治療薬候補の治験も順次行われており、診断方法もより簡便なものが登場してきています。日本で行われているレビー小体型認知症の治療にぜひ希望を持って、患者さんの生活をよりよいものにしていただけたらと思います。
大阪大学大学院・医学系研究科 精神医学教室
日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医日本老年精神医学会 老年精神医学専門医・指導医日本認知症学会 認知症専門医・指導医
高次脳機能とその神経基盤の関連を研究する神経心理学を専門に臨床研究を進め、特に認知症における記憶や情動、幻覚、妄想などの神経基盤について研究を重ねる。また、愛媛大学においては、中山町研究と呼ばれている認知症の縦断的疫学研究を立ち上げ、熊本大学においては、認知症の熊本モデルと呼ばれている認知症疾患医療センターを中心とする認知症医療システムを発展させてきた。現職では人材育成の強化、AIと多職種訪問を組み合わせた独居認知症者の支援などにも力を入れている。
池田 学 先生の所属医療機関
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祖母の幻視について
1年程前から祖母に幻視が現れるようになりました。初めは草木が猫等の動物に見え、家族の誰かが確認しいないことを伝えると「そう、おかしいね」と言ってそれ以上は何も言わなかったのですが、一か月後には道路のポールが人間に見えるようになり、二か月後には一人だったものが複数人見えるようになりました。そのころから妄想のようなことも言うようになり家族に話して否定されるとむきになって正しいと言い張るようになりました。(例:本人は自宅にいるのに向かいの家の人の動きが見える、近視なのにめがねもかけずはっきりと100m先の物が見える、車の中で誰かが生活し子供が学校に行っている等)半年後には”隣人宅に誰かが侵入している”と隣家に電話をしたり、100m先にたい焼きが売っているからと買いに行き実際に行ったらなくなっていた、また自宅から200mほど離れた家で夜な夜な集会をやっているのはなぜか、などデイサービス(週2回)で職員さんや近所の方に話すなどし、周囲からちょっと最近おかしいのでは?と近所の方が教えてくださったこともあります。そして先月から幻視の人々が自宅の庭に現れるようになり寝泊りしており祖母にだんだん近くなってきているようで本人は怖がっています。また最近は被害を受けることが多くなり庭でいたずらをされているようです。見えるのは日中、本人が自宅に居る時のみで出先では見えません。またこの話をするときの祖母は人が変わったかのようです。 初めは目に問題があるのかと思い眼科に連れていきましたが年相応で特に異常なしだった為、内科で認知症のテスト(年相応で異常なし)とパッチを試しましたが効果なしでした。またMRIで小さな動脈瘤が見つかりましたが特に異常はなさそうとのことでした。 以上のことを踏まえて物忘れ外来に通っていますが精神科の先生曰く、認知症でも精神病でもまたレビー小体型認知症でもなさそうでわからない、と言われました。 今は精神科の先生のご指示通り祖母の話を否定も肯定もせず話題を変えて意識をそらし安心してもらうようにしていますが、本人は不安で怖い思いをしたままですし祖母の近くに住む母もどうしたらよいかわからずかなりストレスが溜まっており心配です。考えられる病気はありますでしょうか。また、何科を受診したらよいか等アドバイスを頂けたらと思います。 宜しくお願いします。
突然のボケ
今日夕方、実家の弟から母が出先で急に訳が分からなくなり帰れなくなり先方から電話があった。 話の途中で急にわからなくなり、誰と話しているか、自分がどこにいるかもわからなくなったようです。 私が県外で暮らしている事も忘れているとの事です。現在も状態変わらず。 以前、転んで頭を打った際にかかった病院に電話すると検査が明後日、診断は来週の予約しか取れないと言われたそうですが、すぐに病院に行かなくても良いのでしょうか?
認知症の薬について
認知症の薬についてお伺い致します。 検査等せずとも、親族の話を聞いただけで認知症の薬(アルツハイマー型➕レビーの混合型)を出すものなのでしょうか? 教えて下さい。
どんどん症状が悪化
認知症の症状がどんどん悪化していて心配です。治りますか?
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