概要
誤嚥性肺炎とは、誤嚥(食べ物や唾液などが誤って気道内に入ってしまうこと)から発症する肺炎のことを指します。
誤嚥性肺炎の発症には、飲み込みに関係する機能が低下している(嚥下機能障害)ことが背景にあります。
肺炎は、近年日本人の死亡原因第3位という高い割合を占めています。入院を要した高齢患者の肺炎の種類を調べたデータによると、80歳代の約8割、90歳以上では9.5割以上が誤嚥性肺炎であったと報告されています。つまり、後期高齢者の肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎だと考えられます。
原因
誤嚥性肺炎は、食べ物などの飲み込みがうまくできなくなることを背景にして発症します。こうした飲み込みに関する障害のことを、嚥下障害と呼びます。
嚥下障害が存在すると、唾液や食べ物などと共に細菌が誤って気道内に入り込み、肺炎が誘発されることになります。口腔内に常在する多数の細菌に肺炎を起こす可能性があることが、こうしたことからも容易に想像されます。
嚥下障害が起こる原因
嚥下障害を引き起こす原因は、いくつか知られていますが、代表的なものは寝たきりの患者さんに多くみられる廃用症候群や脳血管障害です。
廃用症候群
廃用症候群とは、長期ベッド安静など、体を動かさない状態が続いたときに筋萎縮や褥瘡など、さまざまな症状が現れる状態を指します。寝たきりになるということは、全身状態や意識レベルが低下しているということであり、嚥下に関わる筋肉量の減少にもつながります。
脳梗塞などの脳血管障害
嚥下反射には大脳の島皮質と呼ばれる部分が深く関連しています。そのため、脳梗塞を起こした場合は、嚥下反射が鈍くなり、誤嚥を起こしやすくなるのです。
閉塞性肺疾患や心不全
閉塞性肺疾患や心不全などの呼吸状態が悪い場合も原因になりえます。呼吸と嚥下は同じ空間を共有している関係から、協調運動を正確に行うことが必要です。呼吸状態が悪いと、この協調運動も障害されてしまうことから嚥下障害が発生し、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクになりえます。
そのほかにも、認知症、胃食道逆流症、円背・亀背、胃切除後、パーキンソン病などの神経変性疾患など、数多くの状況が嚥下障害や誤嚥性肺炎の原因となることがあります。
症状
肺炎の名前から想像される通り、誤嚥性肺炎においても発熱、咳、痰などが代表的な症状となります。
一方で、不顕性誤嚥による誤嚥性肺炎もよくみられます。肺炎症状は明らかではなく、熱はあっても微熱程度であり、何となく元気がない、食欲がない、などといった重症感がない症状が主体です。
不顕性誤嚥は嚥下とは無関係に続くことから、不顕性誤嚥による誤嚥性肺炎も見落とさないようにする注意が必要です。
誤嚥をした際、嚥下機能が正常な人であれば咳をして誤嚥物を吐き出そうという防御反応が働きます。
しかし嚥下機能が低下している場合には、誤嚥をしても咳反応が乏しいことがあります。そのため、誤嚥性肺炎で咳がない状況というのは、誤嚥が引き続き生じる可能性のある危険な状況といえます。
検査・診断
胸部単純レントゲン写真や胸部CT写真といった画像検査が行われます。重力の関係から、誤嚥されたものは背中側に流れ込むことが多いです。したがって、特に寝たきりの患者さんにおいては、背中側に肺炎が起こっていることが確認される場合が多いです。
また、血液検査では白血球の増加やCRPの上昇といった、炎症を示唆する検査所見が得られます。さらに、痰を顕微鏡や培養で検査すると、肺炎を引き起こしている細菌が確認されることもあります。
そのほかにも、実際に食事をしている状況を確認し、誤嚥を起こしうるような嚥下をしていないかどうかを確認することもあります。
治療
急性期においては抗生物質の投与が重要になります。また、誤嚥のリスクを軽減させることを目的として、嚥下リハビリテーションが行われることもあります。
誤嚥を引き起こしやすい食事の形態があるため、食事内容の指導を行うこともあります。さらに、口腔内の細菌が誤嚥性肺炎の原因であることから、口腔内ケアをしっかりと行うことも重要です。
ときに、ACE阻害薬と呼ばれる薬剤が使用されることもあります。ACE阻害薬の副作用として咳が生じることがありますが、咳を誘発することで誤嚥を起こしにくくなることが期待されます。
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