リハビリテーション(以下、リハ)栄養とは、障害を持った方や高齢者などに対し、「リハの内容を考慮した栄養管理」と、「栄養状態を考慮したリハ」を行うことを指します。栄養状態が悪い場合には、適切な診断・評価によってその原因を追究し、リハ内容を検討する必要があります。つまり、「栄養ケアなくしてリハなし」といえるのです。
リハビリテーション栄養の総論と重要性について、横浜市立大学附属市民総合医療センターの若林秀隆先生にお話を伺います。
リハ栄養とは、リハを必要としている患者さん(障害を持った方、高齢者)に対し、「リハの内容を考慮した栄養管理と、栄養状態を考慮したリハを行うこと」を指します。簡潔に表現するなら、スポーツ栄養のリハ版といえるでしょう。なぜなら、スポーツ栄養は、選手の種目やトレーニング内容を考慮して栄養管理を、栄養状態を考慮してトレーニングを行うものだからです。
このように、「リハ栄養」の考え方はシンプルです。ところが、これまで実際の医療現場ではほとんど実行されておらず、現在でも決して徹底されていません。私はこの現状に、強い危機感を覚えています。
リハを行なっている患者さんの中には、低栄養(必要な量のタンパク質やエネルギーなどの栄養素が摂れていない状態)やサルコペニア(加齢、活動、栄養、病気によって筋肉量と筋力、身体機能が減少すること)の方が非常に多いです。たとえばある調査では、低栄養の高齢者の割合が、リハ施設で5割、病院で4割ほどでした。
リハをしている方々について、本人やご家族、そして医療者さえも「あとはリハをすれば状態がよくなる」と考えがちです。しかし、実際には栄養管理をしながらリハをしなければ、患者さんは十分によくなりません。むしろ、十分でない栄養管理でリハだけを続ければ、逆に悪化してしまう可能性があります。最悪の場合、患者さんが餓死してしまうこともありうるのです。このような状況を、早急に改善することが求められています。
低栄養によって筋力が低下すると、嚥下障害を引き起こす、人工呼吸器を離脱できない、寝たきりになるといった状態につながります。一見、リハそのものの問題に思われるケースが、実は低栄養を原因として起こっている場合もあると考えられます。そういったケースは、当然ながら、いくらトレーニングをしても回復に結びつきにくいのです。
現在でも、一部を除いた急性期病院では、すべての入院患者さんの栄養管理が適切に行われているとはいえません。たとえば、誤嚥性肺炎の患者さんが禁食(病態により食事ができないと判断された状態)で経管栄養もしておらず、1日に300kcalにも満たない点滴のみを受けている状態が続くことも少なくないといわれています。
患者さんが高齢者の場合、若年の方に比べて予備力が低いです。そのため、入院中に長い時間ベッドで安静に過ごし、摂取エネルギーが極端に少なければ、あっという間に筋肉量や筋力が低下して、嚥下障害や寝たきりになってしまう可能性があります。
このように、医師による不適切な栄養管理でサルコペニアを生じることを「医原性サルコペニア(医療を原因とするサルコペニア)」と呼びます。
医療機関で医原性サルコペニアを出さないためにも、すべての医療従事者が「リハ栄養」の考え方をきちんと理解していただくことが必要であると思います。
リハ栄養では、まず、患者さんが痩せている原因を追究することがもっとも大切です。その原因には、以下の通りさまざまな要素が考えられます。
さらに、原因が1つとは限らず、複合的な原因によって痩せている場合もあります。
患者さんが痩せている原因を明らかにしたうえで、それぞれのケースに応じた栄養管理をすることが、適切なリハ栄養には必要不可欠です。
現在、リハ栄養では「リハ栄養ケアプロセス」に沿って、以下のマネジメントサイクルを回すことが推奨されています。この「リハ栄養ケアプロセス」は、2017年に作成したあたらしい方法です。(2018年時点)
ICFとは・・・人間と環境との相互作用を含めて、人間の健康状態を系統的、全人的に評価するツール。健康状態、生活機能(心身機能・身体構造、活動、参加)の、背景因子(個人因子、環境因子)から構成される。
SMARTとは・・・Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:重要・切実、Time-bound:期間が明記の頭文字をとったものを指す。たとえば、栄養改善ではSMARTなゴールではないが、1か月後に体重1㎏増加であれば、比較的SMARTなゴールといえる。
リハ栄養診断では、低栄養や過栄養(肥満もリハの阻害因子になりえます)の有無と原因、サルコペニアの有無と原因、栄養素摂取の過不足と原因、という3つの点をチェックします。従来の栄養ケアマネジメントとの違いのひとつは、きちんと原因を診断するようにしたことです。
リハ栄養診断を行うことで、適正な目標設定、大まかな予後の予測が可能になります。
リハ栄養ゴール設定では、目標値を明確にします。たとえば、「1か月に体重を2kg増やす」というゴールを設定した場合、体重を維持する場合と比べて「1日にエネルギー摂取量をプラス500kcal」する必要があります。
私はこれを「攻めの栄養管理」と呼んでいます。低栄養やサルコペニアの場合には、明確なゴールを設定し、攻めの栄養管理を行うことで、リハの効果を向上させることが可能になると考えています。
臨床(患者さんを実際に診療すること)の現場において、患者さんの低栄養を評価するためには、おもに以下の数値を測定します。
アメリカ静脈経腸栄養学会(ASPEN:アスペン)とアメリカ栄養士会(AND)が発表した「低栄養診断のための観察すべき6項目」では、以下の6項目のうち、2項目に該当する場合「低栄養」と診断することを推奨しています。
リハが重要であることは、多くの医師が認識しています。実際に、動けない方がいたらリハを、食べられない方がいたら嚥下リハを、といったように、ケースに応じてリハビリテーション科へ相談が寄せられます。
しかし、栄養に関する相談はまだまだ少ないと感じています。一部の医師に関しては、低栄養やサルコペニアをみる目が不十分であるゆえに、現状の栄養管理が不適切かもしれないという疑問を持つことさえ難しい可能性があります。
栄養サポートチームは徐々に浸透しつつあり、期待が持てます。ぜひ、栄養に関することは、もっと栄養サポートチームや管理栄養士に相談していただきたいです。多職種で患者さんの栄養をみれば、よりよい栄養管理ができる可能性が高いです。
東京女子医科大学病院 リハビリテーション科 教授
関連の医療相談が11件あります
誤嚥性肺炎について質問です。
96歳の父が、誤嚥性肺炎で入院しました。 酸素や人工呼吸器を付けながら、なんとか命を取り止めてきました。入院して2週間が経過した昨日、医師から胃ろう等の方法では高齢のためリスクがあり 無理ではないかと言われました。その前にゼリーを食べさせましたが表向きはちゃんと食べられているように見えましたが、誤嚥していたとの事でした。よって口から食べ物を入れる事は無理であると言われました。 今は点滴だけを頼りにしている状態ですが、点滴も一度刺した所はもう刺す事はできないと言われ、今は刺す所があまりない状態です。点滴を刺す所がなくなったら、その後2週間位しか命を保つ事ができないと言われました。何とかして命を繋ぐ方法はないでしょうか。
父が食事の時に咳をするようになりました
同居している義父なのですが、1年くらい前からよく食事の最中に咳こんでいます。喉に詰まったりするわけでもなく、食欲もあり、ばくばく食べます。早食いで丸のみするように食べるので少し心配しています。寝転んでおせんべいやジュースを食べるのが好きなのですが、そのあとはごろごろと痰が絡んでいる感じがします。本人は自覚なく、なんの問題もないといって元気に過ごしています。これってほおっておいて大丈夫なのでしょうか。
白い痰がよく出ます
84歳になる母が10年程前からよく痰を吐き出します。 昔は茶色っぽいものでしたが、現在は白いネバネバした痰です。 要介護5であり自分で寝返りがうてないため、 ティッシュにだすのが面倒くさくて夜中は飲み込んでしまうこともあるそうです。 ・何科で相談すればよいですか? ・痰が詰まって窒息することは考えられますか? 良いくすり、または痰を出す方法はありますでしょうか? ・病気は考えられますか? よろしくお願いいたします。
急性膵炎で胃管留置
以前、お酒の飲み過ぎで急性膵炎だと診断され、入院になったときに胃管を挿入されました。 ですが、胃管は気持ち悪く好きではありませんでした。 調べてみると、急性膵炎で胃管の留置はしない医師もいると書いてありました。 そこで ・急性膵炎の場合、胃管の留置はどのような医学的根拠があるのか? (ガイドラインなどで推奨されているのか?) ・急性膵炎の場合、胃管の留置に伴うデメリットとメリットは何か? ・どのような重症度の場合、急性膵炎での胃管の留置はするべきなのか? の以上三点について、専門家の方に医学的な見解をお伺いしたいです。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
「誤嚥性肺炎」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。