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サルコペニアに対する治療とケア――リハ栄養とその重要性

サルコペニアに対する治療とケア――リハ栄養とその重要性
若林 秀隆 先生

東京女子医科大学病院 リハビリテーション科 教授

若林 秀隆 先生

目次
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サルコペニアとは、主に加齢によって起こる全身の筋肉量減少と、それに伴う筋力低下、身体機能の低下を指します。サルコペニアのケアと治療においては、リハビリテーション(以下、リハ)だけではなく栄養面のサポートが必要不可欠です。

リハと栄養の2つの側面からアプローチして患者さんの生活機能を高める“リハ栄養”という考え方を提唱し、日々の診療に尽力される若林秀隆先生(前・横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科 准教授)に、サルコペニアに対する治療とリハ栄養の重要性についてお話を伺いました。

サルコペニアとは?――その原因、診断、適切なケアと治療の重要性』でお話ししたようにサルコペニアの原因は以下の5つに大別でき、それぞれの原因に応じた治療を行います。

  • 加齢
  • 低活動
  • 低栄養
  • 疾患
  • 医原性

加齢によるサルコペニアには、運動療法と栄養療法の併用が有効とされています。筋力トレーニングを含めた包括的な運動介入を行い、さらに、たんぱく質(なかでも分岐鎖アミノ酸であるバリン、ロイシン、イソロイシン)の摂取量を調整します。

低活動(活動量が少ないこと)でサルコペニアになっている場合は、まずは活動量を増やします。また、低栄養によるサルコペニアに対しては、体重や筋肉を増やすことを目的とした適切な栄養管理を行います。

病気によるサルコペニアと医原性サルコペニアに関しては、まずは医療従事者が注意して、原因となる状況を回避することが重要です。さらに、患者さんやそのご家族にもサルコペニアの知識を持っていただき、入院時などに注意していただければと思います。

次項ではこのような観点から、医療従事者および患者さんとご家族に気をつけていただきたいことについてご説明します。

サルコペニアの治療にあたって気をつけるべきこと

不必要な安静や禁食を避ける

医原性サルコペニアを防ぐためには、不必要な“安静・禁食”を行わないことが重要です。点滴の中身をチェックすることも診療の基本です。医師は、現状の医学教育の影響から、命に関わる可能性のある電解質異常や脱水、むくみには気を配る一方で、エネルギー欠乏に関しては見落としがちです。医原性サルコペニアをなくすためにも、入院中の患者さんが低栄養になっていないか確認しましょう。

低栄養に関して、まずはGLIM基準(国際的な低栄養診断基準)を用いて診断することが必要です。医療従事者は、以下の5つのポイントに注意しましょう。診療の際は、最低限この5つのポイントを意識し、低栄養への認識をさらに高めていくことが重要です。

  • 体重減少(半年で5%以上)
  • BMI(70歳未満は18.5未満、70歳以上は20未満)
  • 筋肉量(骨格筋量)減少
  • 食事摂取量減少
  • 炎症

悪液質に気付き適切な治療をする

患者さんが(あく)(えき)(しつ)であるという状態に気付くことも重要です。炎症で食欲がないのであれば、食欲を改善するための薬剤や漢方を処方したり、適度なトレーニングを行ったりすることで、改善を試みます。医療従事者が、患者さんの悪液質に気付くことができれば、できることはたくさんあるのです。

悪液質に気付くためのポイントとしては、以下のものが挙げられます。

  • 6か月で5%以上体重が落ちている
  • BMIが20未満
  • CRP*が0.3〜0.5mg/dl以上

特に、がんや慢性臓器不全、リウマチ、炎症性腸疾患などの方で、体重が減少しているうえに、CRP*が0.3〜0.5mg/dl以上の場合には、悪液質の存在を疑っていただきたいです。悪液質に伴い低栄養状態が続くと、サルコペニアにつながる可能性があるからです。

*CRP:C反応性たんぱく。炎症が起こった患部の組織を修復するために、血液中に放出されるたんぱくの1つで、炎症反応の指標に用いられる。

患者さんとそのご家族には、点滴の内容に注意していただきたいです。点滴の袋には、カロリーや栄養成分が表示してあります。点滴の内容を確認していただき、もし0kcalなど、カロリーがごくわずかであれば念のため医師や看護師に確認することが大切です。「管理栄養士から栄養指導を受けたい」と提案するのもよいでしょう。サルコペニアにならないためには、リハだけではなく栄養も大切だと知っていただければと思います。

リハビリテーション栄養(以下、リハ栄養)とは、国際生活機能分類(ICF)*を用いて行う栄養状態も含めた評価の結果にもとづき、リハと栄養管理の両方の側面からアプローチをしながら、患者さんの生活機能、たとえば嚥下(えんげ)機能(飲み込む機能)や日常生活活動(ADL)などの改善を目指すことで、QOL(生活の質)をできるだけ高めるという考え方です。リハ栄養は、トレーニングと栄養管理を車の両輪として考えるところから始まっており、複数の原因を有するサルコペニアに有用とされています。

具体的なリハ栄養の進め方については、“リハ栄養ケアプロセス”という手法を使うことをおすすめしています。リハ栄養ケアプロセスは、次の5つのステップで構成されています。

*国際生活機能分類(ICF):2001年にWHO (世界保健機関)で採択された、人間の生活機能と障害の程度を示す分類法のこと。

はじめに、リハ栄養アセスメント・診断推論というステップがあります。国際生活機能分類(ICF)を用いて栄養障害やフレイル(加齢により心身のはたらきが弱まった状態)を推測し、患者さんを全人的*に評価します。

*全人的:病気だけでなく、病気を抱える患者さんの人格や社会的背景を含めて包括的に診ること。

2つ目のステップは、リハ栄養診断です。まず、栄養状態が過栄養や低栄養ではないかをチェックします。低栄養を認める場合には、エネルギー摂取不足による飢餓なのか、急性炎症や慢性炎症によるものなのか、その原因を明らかにします。次にサルコペニアの有無を確認し、あった場合は原因を調べます。最後に、栄養素摂取の過不足(年齢、性別に応じた必要なカロリー摂取量に足りているか)の有無とその原因を調べます。

3つ目のステップは、リハ栄養ゴール設定です。リハでは、通常、“1か月後に一人で歩けるようになる”といったゴール設定をします。しかし、栄養に関しては、これまでは詳細なゴールを設定しないことが一般的であり、目標達成までの道のりが不明瞭でした。このような課題を解決するために、患者さんの栄養状態をどこまで改善したいのかを具体的に設定し、たとえば“1か月で体重を1kg増加させる”といったゴールをきちんと立てます。

4つ目のステップは、リハ栄養介入です。たとえば“1か月で体重を1kg増やす”というリハ栄養ゴールを立てた場合は、栄養管理を変更します。通常の栄養管理では、基本的には体重を維持することしかできません。そのため、1日のエネルギー消費量にエネルギー蓄積量(1日200~750kcal程度)を加味して、目標とする体重の増加に見合ったエネルギーやたんぱく質の必要量を設定します。これを “攻めの栄養療法”と呼びます。

最後はリハ栄養モニタリングです。リハ栄養モニタリングでは、リハ栄養介入の効果を判定し、これまで行ってきた介入を継続するか否かを判断します。たとえば“1か月で体重を1kg増やす”というリハ栄養ゴールを立てた場合には、定期的に体重の増減をモニタリングします。そして体重増減の要因を分析し、次のリハ栄養アセスメント・診断推論につなげます。

この5つのサイクルを何回か繰り返すことで、質の高い栄養管理とリハができるようになっていきます。

高齢になるにつれて、自然と筋力は落ちていきます。当院では、サルコペニア予防の観点から、75歳を過ぎたら痩せることに目を向けるのではなく、運動療法と栄養療法で健康的に体重を維持、増加させることに発想を転換するよう伝えています。

外来を受診される患者さんの中には、食べなくても運動さえすればいくらでも筋肉がつくと考えている方もいらっしゃいます。しかし、運動だけ頑張っても、栄養補給を行わなければ筋肉はつきません。まずは、運動だけではサルコペニアは解決しないということと、運動と栄養の両方が大事であることを知っていただきたいです。

入院されている患者さんに関しては、お一人で自立して歩けないようであれば、基本的にはリハに取り組んだほうがよい状況と判断します。もしリハを行っていない場合には、医師や看護師にリハを開始したい旨を伝えるとよいでしょう。

また、栄養とリハだけではなく、服用されている薬の内容を確認することも大切です。薬の副作用で生活機能が落ちることもあります。もちろん治療上、必要な薬は飲むべきですが、もしやめても差し支えない薬であれば、服用を中止したほうが快方に向かうこともあります。薬の服用に関して分からないこと、心配なことなどがあれば、かかりつけの医師、薬剤師に遠慮なくご相談ください。

残念ながら、急性期医療の現場では適切な栄養管理がされていないケースが多いのです。そして、そのような状況と関連して医原性サルコペニアが起こっている現状を認識していただけたら嬉しいです。

もしリハ栄養に興味のある医療従事者の方は、日本栄養リハビリテーション学会にも参加していただけると、この領域の盛り上がりを分かっていただけると思います。患者さんのQOLを上げるために、病気だけではなく、適切な栄養管理、リハ栄養にも力を入れていきましょう。

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  • 東京女子医科大学病院 リハビリテーション科 教授

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