概要
サルコペニアとは、筋肉量の減少に伴って筋力や身体機能が低下している状態を指す言葉で、ギリシャ語の“サルコ(sarco)=筋肉)”と“ぺニア(penia)=喪失”を合わせた造語です。
一般的にサルコペニアの診断は、骨格筋量、握力、歩行速度の3つをもとに、骨格筋量と身体機能が一定以上低下している場合にサルコペニアと診断されます。
サルコペニアになると、特に抗重力筋(広背筋・腹筋・膝伸筋群・臀筋群など)の低下が多くみられることから、立ち上がったり歩いたりするのが困難になります。頻繁につまずく、立ち上がる際に手をつくような場合にはかなり症状が進行していると考えられ、進行するほど生活の質(QOL)の低下を招き、寝たきりになってしまうこともあります。
しかし、サルコペニアは筋肉量の減少が病態であるため、十分な栄養摂取や運動によって筋肉量を増やし、筋力を強くすることで進行をある程度、抑えることができます。
原因
サルコペニアは、加齢による“一次性サルコペニア”と、活動不足や病気、栄養不良によって生じる“二次性サルコペニア”に分けられます。
一次性サルコペニア
筋肉量の減少は誰にでも起こるもので、一般的には25~30歳頃から始まり、年齢を重ねるにつれて徐々に進行していきます。
このような加齢によるサルコペニアの背景には、運動ニューロンや筋衛星細胞の減少、成長ホルモンやテストステロンの分泌低下、炎症性サイトカインの増加、加齢に伴う食欲不振による体重減少などが関係していると考えられています。
二次性サルコペニア
活動が不足すると骨格筋量が減少し、座る姿勢や寝る姿勢が長いと特に下半身の筋力が低下します。
また、臓器不全や炎症性疾患、内分泌疾患、がんなどの病気に付随してサルコペニアが起こるほか、病気によって安静を強いられ、不活動になることもサルコペニアの原因です。
栄養においては、エネルギー、総タンパク質、必須アミノ酸のうちBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)の摂取不足がサルコペニアの誘発原因になるといわれています。
症状
筋肉量が減少して筋力が低下することで、立ち上がりや歩くのが困難になる、頻繁につまずく、体が思うように動かないなどの症状が現れます。
このような症状によってQOLの低下につながるほか、さらなる不活動を招き、寝たきりになってしまうこともあります。転倒や骨折の危険性が高まる原因にもなります。
また、筋肉量が減少すると血糖値を調整する力が低下して血糖値が変動しやすくなります。物忘れや、免疫力の低下、嚥下機能低下、呼吸機能低下につながるという報告もあります。
検査・診断
サルコペニアでは、一般的に骨格筋量、握力、歩行速度の3つをもとに診断します。
具体的には骨格筋量が一定以上低下していて、握力が男性で28kg未満、女性で18kg未満である、または通常歩行速度が1m/秒未満である場合にサルコペニアと診断されます。
歩行速度の代わりに、5回椅子立ち上がりテストや、SPPB(バランス、歩行テスト、5回椅子立ち上がりテストからなる身体能力テスト)が行われることもあります。
骨格筋量の測定には、DXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)やBIA法(生体電気インピーダンス法)が選択され、X線や微弱な電気を用いて測定します。
治療
サルコペニアの進行を防ぐためには運動と食事が有効であるため、サルコペニアと診断されたら運動指導と食事指導が行われ、患者自身で取り組むことになります。
運動
筋肉量を増やして筋力を強くするためには、レジスタンス運動(筋力トレーニング)がもっとも効果的だといわれています。
また、ウォーキングや有酸素運動は、サルコペニアの予防には有効です。サルコペニアの治療には、インターバル速歩など速く歩くことがポイントです。これらを組み合わせて運動を行い、運動後30分~1時間以内にタンパク質(アミノ酸)を摂取することでより効果的に筋力量を増やすことができます。
このような運動は日常生活の中で患者自身が行えるものですが、医療機関の中にはリハビリテーションを提供している施設もあるため、医療機関に相談するのもよいでしょう。
食事
食事においては筋肉量の増加や老化の予防に関わる、タンパク質やBCAAなどの栄養素を多く含む食品を積極的に食べることが大切です。また、ビタミンDとカルシウムも重要な栄養素で、転倒や骨折予防につながります。
タンパク質においては肉類や魚介類、卵、大豆製品、乳製品など、BCAAは鶏肉やまぐろの赤身、大豆製品、牛乳などに多く含まれています。
このような栄養素を意識しながら、主食、主菜、副菜をそろえたバランスのよい食事を心がけるようにしましょう。
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