概要
炎症性腸疾患とは、腸の粘膜に炎症を引き起こす病気の総称です。ただし、感染性胃腸炎などの病気は含まず、一般的には潰瘍性大腸炎とクローン病のことを意味します。
いずれの病気もはっきりとした発症メカニズムは解明されていません。しかし、発症すると腸の粘膜に強い炎症が生じることで下痢、腹痛、血便などの症状が現れ、重症な場合には発熱や倦怠感、体重減少などの全身症状を引き起こします。また腸だけでなく、関節や目、口、皮膚などにも症状を引き起こすことがあります。
炎症性腸疾患は、このようなさまざまな症状がよくなったり悪くなったりを繰り返すのが特徴です。腸の粘膜の炎症を繰り返すことで腸の内部が狭くなったり、がんが発生したりするケースもあるとされています。
原因
炎症性腸疾患の明確な発症メカニズムは現時点では解明されていません(2020年11月時点)。
しかしながら、炎症性腸疾患のうち、潰瘍性大腸炎は免疫機能の異常や食生活の乱れが原因であるとも考えられており、遺伝との関連も指摘されています。また、クローン病は腸内に流れ込んだ飲食物の成分や腸内細菌などによって免疫のはたらきが過剰になること、何らかの感染症、腸に血液を送る細かい血管の異常などさまざまな説が挙げられていますが、潰瘍性大腸炎と同じく遺伝との関連が指摘されています。
症状
炎症性腸疾患は、下痢、腹痛、血便などの腸に関連する症状と、関節炎や皮疹、結膜炎、口内炎など腸には関連しない症状を引き起こしますが、種類や重症度によって症状の現れ方は大きく異なります。
潰瘍性大腸炎は主に大腸のみに炎症が生じる病気ですが、クローン病は大腸だけでなく口から肛門まで消化管のどの部位にも炎症を引き起こす可能性があります。症状は発症する部位によっても異なりますが、クローン病では約半数が痔ろうを合併するとされています。
いずれも軽症なケースでは長引く下痢や腹痛のみしか症状が現れないことがありますが、重症なケースでは、発熱や倦怠感などの全身症状のほか、頻回な下痢による体重減少や低栄養などが見られることも少なくありません。また、腸の炎症が繰り返されることで腸の内部が狭くなったり、がんを引き起こしたりすることもあります。
炎症性腸疾患の大きな特徴は、これらのさまざまな症状がよくなったり悪くなったりを繰り返すことです。つまり、発症すると一度は治療で回復しても再発する可能性が高いのです。
検査・診断
炎症性腸疾患が疑われるときは次のような検査が行われます。
血液検査
体内の炎症や貧血の程度を評価するために血液検査が行われます。また、大腸がんなどとの鑑別の手がかりとして、“CEA”などの腫瘍マーカー(がんになると体内で多く産生されるようになる物質)の数値を調べることも少なくありません。
画像検査
炎症性腸疾患が疑われる症状がある場合は、消化管内のほかの病気と鑑別するためにX線検査(レントゲン検査)、CT、MRIなどによる画像検査が行われるのが一般的です。
内視鏡検査
炎症性腸疾患は大腸などの消化管の粘膜に炎症や潰瘍などの病変を引き起こすため、疑われる場合は大腸内視鏡検査を用いて内部の粘膜の状態を詳しく調べる検査が行われます。しかし、大腸内視鏡検査では小腸や十二指腸などを観察することができないため、大腸に病変がない場合はカプセル内視鏡で全ての消化管の状態を調べる検査が行われることもあります。
注腸造影検査
近年では炎症性腸疾患が疑われる場合は内視鏡検査が行われますが、狭窄(内部が狭くなること)を含めた小腸・大腸の全体像を調べるために造影検査を行うことがあります。小腸造影検査では、経口的に造影剤を投与する方法と、造影チューブを十二指腸に留置し造影剤を注入しながら観察する2つの方法があります。注腸造影検査では肛門から造影剤を注入しながら観察を行います。
治療
炎症性腸疾患には基本的に薬物療法が行われます。使用する薬剤は病気の種類や重症度などによって異なり、過剰な免疫のはたらきを抑制するステロイドや免疫抑制剤、消化管の炎症を抑える5-アミノサリチル酸製剤などが挙げられます。近年では、炎症に関わる分子を直接標的とした生物学的製剤や炎症のシグナル(伝達)を抑える低分子化合物なども使用されるようになってきました。
また、薬物療法で十分な効果がない場合は、血液中からはたらきの強い白血球を除去して免疫のはたらきを抑制する“血球成分除去療法”が行われます。さらに消化管の狭窄を起こしたり、炎症が粘膜の深層にまで達して消化管に穴が開いたりした場合は手術によってそれらの病変を切除する治療が行われます。また、外科手術回避を目的とした、クローン病の消化管狭窄病変に対する内視鏡的拡張術が行われています。
一方、炎症性腸疾患は、症状が強い期間は消化管の安静を図る必要があるため、食事を取ることができないケースがあります。このような場合には、点滴や経腸栄養(鼻などから腸まで管を通し、そこから流動食などを投入する治療)による栄養管理が必要です。
予防
炎症性腸疾患は明確な発症メカニズムが解明されていないため、確立した予防法はないのが現状です。しかし、炎症性腸疾患は食の欧米化などによる食生活の変化、腸内細菌の異常などが関与しているとの説もあります。そのため、発症を予防するにはバランスのよい規則正しい食生活を送ることが大切です。
また、炎症性腸疾患はストレスによって症状が悪化しやすくなることが分かっています。日ごろから十分な休息や睡眠を確保し、できるだけストレスをためない生活を心がけましょう。
「炎症性腸疾患」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「炎症性腸疾患」に関連する記事
関連の医療相談が10件あります
右下腹部の張り?違和感?
1週間前くらいから右下腹部の張り?があります。一昨日から微熱があります。気分は悪くありません。ネットで色々調べると大きな疾患などの症状と似ていたりするのでとても不安です
鼠蹊部 から右下腹部痛
二ヶ月前から鼠蹊部から右下腹部痛があり、突っ張ったり、ヒリヒリして、歩行困難になったのでC T撮りましたが異常なしということで産婦人科で超音波の検査していただきましたが異常なし、泌尿科もC Tから異常なしということで次に、 整形外科で股関節のレントゲンと MRI撮っていただきましたが異常なし。整形外科で左足と右足の差の開きから股関節の周りの関節のストレッチを開始しましたが、腹痛あるのにストレッチすると逆に痛くなりました。 いまだに鼠蹊部から右下下腹部痛の症状が全く治らず、最近では起きあがる時は右下下腹部が 筋肉痛のような傷みがあり長期になるので本当辛いです。 一体この病気はなんなのでしょうか?
塊が何回も出る
9月末にオナラをしたらお腹が下り下痢でもしたのかなっと思ったら生理で その日から塊が出て大きさもバラバラでお腹の痛みはありません 昨年も同じように塊と長引く出血に大学病院に行き調べましたが異常なく 今回は塊が出て2週間位します。またたまに出ない時もあります 血液検査では貧血でしたが透析しているためどちらかの貧血をしているか分かりません 近々大学病院ですが考えられる病気はありますか?
産後の体調
次男を産んだ2年程前から体調を崩しやすくなったのですが、いまだに続いてる面で気になる症状が2つあって悩んでいます。 1つは下腹部痛で、2年前にカンジダ膣炎と診断されて薬を飲まずに痒みが治まったので放置していたのですが、生理痛や性行為痛や普段から何もしてなくても痛くなったり空気が勝手に入ってしまうので困っています。不安に思っても病院で何も言われなかったので考えすぎで痛いだけだと諦めてしまいました。 2つ目は、めまいがなんの前触れもなくきてすぐに治る時もあるのですが、なかなか治らず気分が悪くなる程じゃないのですが、下を向いたりすると酷くなるので休憩しながら誤魔化して生活してます。遺伝的に貧血になりやすいので、生理中や妊娠中などは鉄分を多めに摂取したり、食事も出来るだけたくさん食べるようにしてるのですが、ちょっとづつですが頻度も増えているきがして不安です。 産後は免疫が減って体が弱くなるのは分かっていたのですが産前は数年に一回熱を出すくらいであんまり体調を崩す事がなかったので戸惑っています。 考えすぎなら良いのですが、何か当てはまる病気などがあるなら教えて頂ければ幸いです。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
炎症性腸疾患を得意な領域としている医師