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炎症性腸疾患の患者さんをハッピーにするためのチーム医療

炎症性腸疾患の患者さんをハッピーにするためのチーム医療
小林 拓 先生

北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター センター長

小林 拓 先生

目次
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炎症性腸疾患(IBD:潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)クローン病)は、長期間にわたる治療が必要な病気です。近年、医学の進歩により、IBDと共存して生きていくことのハードルは下がってきているようです。“IBD患者さんをハッピーにする”ことをコンセプトに日々の診療に携わっている北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター(IBDセンター) センター長/消化器内科部長 小林 拓(こばやし たく)先生に、現在のIBD診療はどのように進歩しているのか、お話を伺いました。

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炎症性腸疾患(IBD)には、慢性的に腸に炎症を引き起こす病気である潰瘍性大腸炎クローン病の2つがあります。いずれも治療を続けながら長く付き合っていくことが必要な慢性の病気であり、医療費助成が受けられる特定疾患(難病)に指定されています。

現時点では「ここまでしたら治癒で、IBDの治療は終わりだ」という見通しが立てられないこと、また“難病”という言葉から“不治の病”“治療が難しい”“難しい人生を歩まざるを得ない”という印象を持たれるかもしれません。しかし、近年は治療の進歩によって病気をコントロールできるようになってきましたので、“難病”や“治らない”ということにショックを受け過ぎず、前向きに治療に取り組んでいただきたいです。

また、同じ病気でも患者さんによって症状や生活の制限の程度はそれぞれであることもご理解ください。患者さんが大変苦労された体験談などを目にすると、打ちひしがれたような気持ちになるかもしれませんが、必ずしもその方と同じ経験をするとは限りません。今後も治療はさらに進歩していきますので、軽症の方、治療がよく効く方がほとんどになっていくことが予想されます。

食事の制限についても、患者さんによって異なります。今は非常によく効くお薬が出てきたこともあり、特に潰瘍性大腸炎に関しては食事制限の必要性は低くなっています。どの程度の食事制限をする必要があるかを主治医に確認し、栄養指導などを受け、その方に適した取り組みをしていただくのがよいと思います。特に成長期の患者さんではバランスの取れた食事は必須ですし、そうでなくても食事は人生の大切な喜びの1つですので、不要な食事制限を過度にすることは避けたいところです。かつては画一的な食事指導をしていた時期もありましたが、医学的に食事制限の必要性が見直されています。

このように、患者さんそれぞれの病状に応じた治療を行うために、主治医とよく話し合って、指示をしっかりと守りながら生活していただくことがもっとも大事であると考えます。

IBDに限らず医療は多方面で進歩しており、単に患者さんを“治す”だけではなく“よりよく生きる”ことまで考えられるようになりました。

そのため、主治医1人が全ての側面において患者さんに適切な提案をできるかというと、よい意味で難しくなっていると思います。ですから、検査、薬物治療、手術、食事などの生活面を含めた広い意味での“進歩”を患者さんに還元するためには、主治医だけでなく外科医をはじめとした他科の医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、検査技師、事務スタッフなどの職種が、それぞれの専門性を存分に生かしたチーム医療を行う必要があります。

チーム医療では、いかに情報を共有するかが重要です。当院のIBDセンターでは毎週医師、看護師、薬剤師でカンファレンスを実施し、患者さんの診療方針について議論しています。また月に1回は放射線技師や事務職などより幅広いスタッフに集まってもらい、情報共有をしています。

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IBDセンターのカンファレンスの様子

また、関係者全員がコンセプトを共有することもチーム医療では大切です。

医療で一番大事なことは病気をコントロールすることではなく、患者さんをハッピーにすることだと思います。人の幸せは多面的であって、病気は人生の一部に過ぎません。病気の治療だけではなくて、食事、仕事、医療費をはじめとした生活のなかでのいろいろな悩みについて多面的にサポートして、はじめて患者さんを本当の意味でハッピーな状態に近づけてあげられるのではないでしょうか。また、患者さんとスタッフの心が通じ、会話が弾んだりすることでも、喜びを感じていただけることがあると思うのです。

当院のIBDに関わるスタッフは“患者さんをハッピーにする”ことを共有のコンセプトに活動しています。チーム医療のスタッフにはそれぞれ異なる専門性がありますが、このコンセプトがあれば全員が「患者さんをハッピーにするために、自分が得意なことで何ができるだろう」と考えて行動することができます。このことが患者さんのためになるのはもちろん、スタッフ自身にとってもモチベーション向上や自己効力感を得られて、よりよいチーム医療が提供できるようになると考えています。

チーム医療の一環として、内科と外科のスムーズな連携も当院の特徴です。

外科手術が必要となる場合は、なるべく患者さんの負担が少なくなるような腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじつ)を提供しています。器具を差し込む穴の数も最小限にすることで傷が目立たなくなります。特に、若くして手術が必要となる患者さんにとって、お腹にどれだけ傷が残るのかは重要な問題であり、それを懸念して手術への抵抗感が起こることもあるでしょう。傷が非常に小さい手術が受けられるというのは、患者さんにとっての大きなメリットになると思います。

また、手術を受けるときに病棟が変わらないのも特徴です。IBDを専門とする内科医と外科医が同じ病棟で仕事をしていますので、手術だからといって別のベッドに移動する必要がありません。担当の看護師なども変わりません。同じスタッフが術前から術後まで、シームレスにサポートすることで、患者さんに安心して手術に臨んでもらいたいと私たちは考えています。

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当院のチーム医療において、IBDセンターで治療を担当している私たち医師の役割は、エビデンスを重視して治療を行うということです。当院ではIBDの治療薬は全て取りそろえており、この中から有効性だけではなく安全性も考慮した治療法を患者さんに提案します。

近年、IBDの治療法は非常に進歩して、有効な薬の選択肢が増えました。しかし、それぞれの薬がどのような状態の患者さんに効くのかというエビデンスがまだ少ないため、横並びに多くの選択肢があるという状況です。そのようななかで治療を選択していく際にとても大切になってくるのが、“シェアード・ディシジョン・メイキング(SDM:協働意思決定)”です。SDMとは、医師が一方的に治療を決めるのではなく、患者さんと対話をしながら、有効性や安全性だけでなく、その方の生活や価値観に合った治療法を一緒に選び取っていくプロセスのことです。

なぜSDMが大事なのかというと、患者さんにできるだけハッピーな形で治療を続けられるよう、治療を前向きに捉えていただく必要があるからです。しかし、患者さんが治療を前向きに捉えられる要因(職業、ライフスタイル、剤型の好みなど)はさまざまであり、医師だけで一方的に予測することが難しいですから、患者さんに「この治療法なら私の生活に合っていて、続けられるのではないか」ということを教えていただきたいのです。医師はエビデンスに基づいた治療法を可能な限り全て、できるだけ丁寧に説明し、患者さんはそれをご理解いただいたうえで、対話しながら選び取っていく。そのプロセスを経ることで、治療に前向きになっていただけると考えています。

IBDの中でもクローン病は、口から肛門(こうもん)までの広い範囲で消化管(特に大腸と小腸)に炎症が起こる病気ですので、さまざまな検査法を組み合わせることが必要になります。当院ではMRエンテログラフィー(MRE)という、日本ではまだ限られた施設でしか導入されていない検査を行うことができます。これはMRIで行う小腸の検査であり、小腸のバルーン内視鏡と比較して患者さんの負担が軽減されます。

このほかにも、小腸・大腸の両方のカプセル内視鏡検査も実施しています。

また、最近当院が力を入れているのは腸管エコー検査です。超音波でIBDの方の腸を検査する方法であり、身体的な負担がほとんどないため、繰り返し行うことができます。ですから、定期的に行って腸の状態や病状をチェックし、適切なタイミングで治療を見直すことができます。この腸管エコー検査を本格的に使用している病院は日本ではほとんどないのが現状です。

このように当院では、治療薬だけでなく、技術の進歩により新しく生まれた検査についてもほぼ全て行うことができます。さまざまな方法を積極的に取り入れているのは、IBD患者さんの5年後、10年後をよりよいものにしたい、患者さんをハッピーにしたい、という考えからです。

当院では常時、既存の治療による治療成績を向上させるために、新薬開発のための治験を複数実施しており、日本で行われているIBD関連治験のほとんどに参加しています。治験は募集のタイミングや対象となる方の要件がありますので、ご興味がある方は、基本的にはまず主治医の先生に治験の対象になるかどうかをご確認いただいたうえで、我々にご相談いただくとよいと思います。

主治医の先生に他施設での治療についてお聞きになることは気が引けるかもしれませんが、やはりご自身の体のことが第一です。納得してこれから病気と付き合っていくためにも、躊躇せずに一歩踏み出していただくとよいのではないかと思いますし、きっとご理解いただけると思います。

IBDを発症したことで、患者さんやご家族は残念に思われるかもしれません。けれども、IBD診療は非常に進歩してきています。治療薬の進歩だけではなく、チーム医療やSDMといった考え方も進んできたことによって、病気との共存がつらいことばかりではなくなってきていると思います。

我々はいかに患者さんにハッピーに生活していただくかということを考えて診療に携わっています。「IBDを何とかしたい」という熱意を持って当院に勉強しに来ている若い先生もたくさんいらっしゃいますし、医師だけでなく看護師をはじめとした医療スタッフにはIBDに詳しい者が大勢います。

今後さらに医学は進歩していくでしょうから、これからのIBD患者さんにとっての未来は、明るいものになっていくのではないかと考えています。我々はそんな患者さん、ご家族の皆さんに安心感を与えるとともに、明るい未来へのサポートができるよう、IBD診療に取り組んで参ります。

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  • 北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療センター センター長

    小林 拓 先生

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