概要
潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に慢性的な炎症が生じ、“びらん”や“潰瘍”といった病変が形成される病気のことです。発症すると腹痛、下痢、血便(便に血液が混ざる)などの症状が現れ、重症な場合は発熱、体重減少、貧血など全身にさまざまな症状が引き起こされます。日本では難病の1つに指定されており、発症頻度は10万人に100人程度とされています。また、発症に男女差はなく、20歳代頃の比較的若い世代から高齢者まで幅広い年代で発症する可能性があるのも特徴の1つです。
潰瘍性大腸炎の症状の現れ方はさまざまであり、よくなったり悪くなったりを繰り返すパターンもあれば、症状がずっと続くパターン、急激に重度な症状が現れるパターンなどもあります。治療の主体は大腸の炎症を鎮めたり、過剰な免疫のはたらきを抑制したりする薬による薬物療法ですが、薬物療法で十分な効果が得られない場合などは大腸を全て摘出する手術を行うことも少なくありません。
また、潰瘍性大腸炎は、発症して7~8年ほど経過すると大腸がんを併発するケースもあります。そのため、潰瘍性大腸炎と診断された場合は症状がよくなっても適切な治療と検査を続けていくことが大切です。
- 潰瘍性大腸炎――新薬登場で明らかになってきた病態学とは札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授仲瀬 裕志 先生
潰瘍性大腸炎は難病に指定されている病気です。近年、潰瘍性大腸炎の病態解析が大幅に進んだことで、治療法のさらなる進歩が期待されています。本記事で...続きを読む
- 腹痛や下痢を繰り返す、IBD(炎症性腸疾患)とはどんな病気?医師監修
とくに思い当たる原因がないのに、お腹の痛みや下痢が続いていませんか。便に血が混じったり、お尻が腫れたりする場合、IBD(炎症性腸疾患)の可能性...続きを読む
- 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)とは? 症状・検査を解説NTT東日本関東病院 副院長/消化器内科 部長松橋 信行 先生
炎症性腸疾患とは、長期にわたり消化管に原因不明の炎症や潰瘍を生じ、出血、下痢、体重減少、発熱などのさまざまな症状をおこす病気の総称です。炎症性...続きを読む
原因
潰瘍性大腸炎の明確な発症メカニズムは現在のところ解明されていません。
一方で、潰瘍性大腸炎は同じ家系内に発症者がいるケースも多く、何らかの遺伝子の異常など遺伝的な要因が関与していることが指摘されています。また、食生活の乱れによる腸内環境の悪化によるという説や、免疫作用が過剰にはたらいて腸の粘膜を攻撃してしまうという説なども挙げられているのが現状です。
いずれにせよ、潰瘍性大腸炎は1つの原因によって引き起こされるのではなく、遺伝、食生活、免疫異常などさまざまな要因が重なり合って発症すると考えられています。
症状
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が生じ、粘膜が荒れてびらんや潰瘍などの病変が形成されるようになる病気です。そのため、発症すると下痢や血便、おなかの痛みなどの症状を引き起こします。また、重症化すると発熱や体重減少などの全身症状を引き起こし、粘膜からの出血が続くと貧血に陥ってめまいや動悸、息切れなどの症状が現れるようになります。
潰瘍性大腸炎では、これらの症状がいったんよくなっても再発を繰り返すことが多く、さらに急激に強い症状が現れて大腸の壁に穴が開くなど命に関わるような症状を引き起こすこともあります。
なお、潰瘍性大腸炎は大腸以外の部位に大きな症状を引き起こすことは少ないとされていますが、中には発疹、関節や目の炎症などまったく別の部位にも症状を引き起こすことがあるとされています。さらに、発症してから7~8年以上経過すると、大腸がんを併発するケースも増えることが分かっています。
検査
症状などから潰瘍性大腸炎が疑われた場合は、次のような検査を行います。
血液検査
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に炎症を引き起こすばかりでなく、粘膜にダメージを与えて出血が生じることがあります。そのため、潰瘍性大腸炎が疑われるときは、炎症や出血による貧血の程度を評価するために血液検査を行うのが一般的です。
また、潰瘍性大腸炎は大腸がんと似た症状が現れ、場合によっては大腸がんを併発しているケースもあるため、腫瘍マーカーの有無を調べることもあります。
画像検査
大腸の状態を評価するため、X線やCTなどによる画像検査を行います。また、大腸内部の状態を詳しく調べるには、大腸内視鏡検査を行うのが必須です。潰瘍性大腸炎の確定診断には、内視鏡検査で病変の一部を採取し、顕微鏡で組織の状態を詳しく調べる病理検査を行う必要があります。
また、内視鏡検査は診断時だけでなく、診断が確定した後でも病状の変化を調べる目的で繰り返し行っていくことが必要です。
治療
潰瘍性大腸炎と診断された場合は、症状や重症度に応じて次のような治療が行われます。
薬物療法
潰瘍性大腸炎の治療の主体は薬物療法です。
使用される薬は、大腸に生じた炎症を抑えたり、過剰に作用する免疫のはたらきを抑えたりする5-アミノサリチル酸製剤、ステロイド、免疫調節剤・免疫抑制剤・生物学的製剤などです。それぞれの症状や副作用の有無などを注意深く観察しながら治療が進められていきますが、潰瘍性大腸炎は再発を繰り返しやすいため、症状がよくなった後も薬物療法の継続が必要なケースも少なくありません。
血球成分除去療法
血液中から過剰にはたらいている白血球を取り除く治療法です。
薬物療法で効果が得られず、強い症状が現れている際に過剰な免疫の作用を抑える目的で行われることがあります。
手術
薬物療法などを行っても十分な効果が得られない場合、副作用が強く薬物療法が続けられない場合、大腸に穴が開いたり、大腸がんを併発する疑いがあったりする場合などは手術によって大腸全てを摘出する手術が行われます。
食事療法
潰瘍性大腸炎に対して、食事療法そのものが腸の炎症を改善させるという科学的な根拠はありません。しかし、患者さんの体質によっては、特定の食事が下痢や腹痛などを引き起こすことがあるため、症状の悪化を防ぐためには、体質に合わない食べ物を避けることは大切です。下痢や腹痛を引き起こしやすい代表的なものは、牛乳や乳製品、香辛料などの刺激物、脂肪分を多く含むもの、炭酸飲料やアルコール飲料などです。ただし個人差が大きく、これらを摂取してもまったく症状が出ない方もいます。そのため、何を、どれくらい摂取したら症状が出るのかを把握しておくとよいでしょう。
予防
潰瘍性大腸炎は現在のところ明確な発症メカニズムが分かっていないため、効果のある予防方法も確立していないのが現状です。
しかし、潰瘍性大腸炎は、腸内環境の悪化なども原因の1つであると考えられています。発症を予防するにはバランスよく規則正しい食生活を心がけるようにしましょう。
「潰瘍性大腸炎」を登録すると、新着の情報をお知らせします
「潰瘍性大腸炎」に関連する記事
関連の医療相談が19件あります
腸活について
潰瘍性大腸炎直腸型と診断され10年以上投薬を続けています。現在は下痢はあるもの血便までは出ていません。 よくテレビで腸活が話題になっていますがこの病気でも腸活できるのでしょうか? できたとして注意する点があれば教えてほしいです。
大至急お願いします。
大至急お願いします。 1月末頃からお腹全体移動する腹痛があります。腹痛には、波があり痛くない時もあるのですが、大体毎日腹痛になります。 我慢できないほどの腹痛とまではいかないのです が、喉のつかえ吐き気を伴う事もあります。食欲はあまりありませんが食べれないほどではないので毎日ご飯食べて、ほぼ毎日便もでていてほんの少し細めな便です。歩いたりすると響く事ものなく普通に歩けます。今失業中のためほとんど布団の上でゴロゴロしてしまってる状態です。お腹が痛い事もあって余計に布団にこもった状態です。 先日あまりに腹痛が治まらないため病院で血液検査、尿検査、エコー検査をしてもらったところ結果少しコレステロールが少し高いのと栄養不足と言われてこれと言って問題ないと医者に言われました。とりあいず、胃薬と整腸剤を2週間処方されました。今のところ原因不明です。でも痛みが治まらない状態で困っています…もっと詳しく検査した方がいいでしょうか?ストレスが原因でずっと腹痛とかありえますか?元々寝付きが悪いので内科でデパス0.5とサイレース2mgを飲んでいますが大体寝るは3時頃寝て6時頃起きてまた8時過ぎぐらいまで寝るといった感じです。 前は精神科に通院していたのですが、薬の副作用がでたり医者と相性が合わなかったため精神科にいくのをやめました! ほんと毎日腹痛で困っています。 この症状潰瘍性大腸炎の可能性ありますか? 前にも質問させていただいたのですが… お腹痛くて困ってます。 長文ですみます。
腸炎の疑いあり、につきまして
どうぞよろしくお願いいたします。 7月8日に出産、その後右下腹部の痛みが次第にひどくなり憩室炎だろう、と12日間入院しました。新生児が自宅にいるため、早めに退院したのですが、痛み止めを飲むほどではないものの、なんとなく違和感が残るままでした。 後日違和感が続くため悪化を恐れて受診しましたが、血液検査もレントゲンにも問題ない、多分白っぽくみえる癒着している箇所が完全になおるまで痛みがでるから、そのためではないか、とのお話でした。先日大腸カメラをすると、ガンではなかったが、炎症性腸炎の疑いあり、と。今後炎症が続くようなら、難病診断されると説明頂きました。炎症があるのは一箇所大腸の右側にわずか、とのことでしたが、やはり痛み止めを飲むほどではないものの、違和感が残っています。この炎症とは、憩室炎と診断されたときのものがまだ治りきっていなかったのでしょうか。新たにできた炎症なのでしょうか。また悪化するのが怖くて、違和感が逆に気になってしまいます。なんらかの原因で一部炎症することもあるものですか?ガスは多いなと思うほどでていますが、下痢や血便は7月から一度もありません。この炎症が続くとガンになりやすいのでしょうか。なにとぞよろしくお願いいたします。
息子も潰瘍性大腸炎なのか心配です。
子供の事で相談があります。 2004年生まれの中学2年生の男の子(162センチ、体重45)がいます。今日は学校が昼間で今部活動に行ってるのですが、お昼排便した時にティッシュに血がけっこうついてたと言っていました。 粘液便はなく少しお腹は下していたようです。 便には血はなかったようですが、ちゃんと子供が見れていたかも分かりませんが…。 流した後に聞いたので私も見れていません。 排便するときにお尻の痛みはないようでした。 腹痛はあまりないようでした。 私が潰瘍性大腸炎だということもあり、心配になりました。今回が初めての事なので様子を見ても大丈夫でしょうか?今日起きた事なので病院に行っても分からないですよね…。 私が潰瘍性大腸炎でとても辛かったので同じ思いをさせたくはありません。10代でも潰瘍性大腸炎なる人もいるようなので早期に検査をした方が良いのかなと不安で仕方ありません。
※医療相談は、月額432円(消費税込)で提供しております。有料会員登録で月に何度でも相談可能です。
潰瘍性大腸炎を得意な領域としている医師

新型コロナウイルス感染症と付き合っていくための"新しい生活様式"とは〜まだマスクの着用は必須なの?個人が気をつけられる具体策は?〜
小泉小児科医院 院長/日本医師会 常任理事
釜萢 敏 先生
がん患者や家族の新型コロナウイルス感染症への不安〜不安を抱えたがん患者に対して家族ができることは?〜
がん研究会付属有明病院 腫瘍精神科 部長
清水 研 先生
社員に新型コロナウイルス感染症の疑いが出たらどうするの?~企業が行うべき感染対策とは~
日本医師会 常任理事/松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長
松本 吉郎 先生
医師が考える新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが高い高齢者が注意すべき点とは
国立長寿医療研究センター 理事長、日本老年医学会 副理事長
荒井 秀典 先生