クローン病と潰瘍性大腸炎は慢性の炎症性腸疾患の一つであり、腹痛や下痢、発熱といった症状を伴います。どちらとも、北米の方のほうが発症しやすい疾患ですが、医療受給者証および登録者証の交付件数の推移をみると、日本でも年々患者数が増加していると思われます。
今回は、東北大学消化器内科非常勤講師の金澤義丈先生に、クローン病と潰瘍性大腸炎の原因、それぞれの症状や治療法についてお話しいただきました。
腸に炎症を起こす疾患はさまざまな種類があるため、大きく、急性であるか慢性であるかに区別します。そして、急性と慢性のなかから、原因が明らかであるか明らかでないかに分けられます。
急性の炎症性腸疾患で原因が明らかなものには、感染症や虚血性の腸炎、薬に伴う腸炎などがあります。慢性で原因が明らかな疾患としては、アメーバによる腸炎や腸結核などが挙げられます。そして、慢性で原因のわからない炎症性腸疾患の代表が、クローン病と潰瘍性大腸炎です。
クローン病と潰瘍性大腸炎は共に、日本よりも北米のほうが、患者数が多い疾患です。しかし、医療受給者証および登録者証の交付件数の推移をみると、日本の患者数は増加傾向にあります。2つの疾患の患者数に対して、正式に全国的に調査をしたのは1991年の1回のみです。しかし、クローン病と潰瘍性大腸炎は特定疾患のため、医療費の補助を受けることが可能です。そして、受給者の交付数は年々増えているのです。2013年の時点で、クローン病の受給者は約4万人、潰瘍性大腸炎は16万人以上であり、現在、両疾患合わせて20万人以上の方がいるといわれています。
クローン病は、10代後半から20代の若年の患者さんに多くみられます(クローン病診療ガイドライン2011年版)。高齢発症の方はすくないです。一方、潰瘍性大腸炎は10代から40代と幅広い世代の患者さんがみられます(潰瘍性大腸炎の診療ガイドライン2006年版)。高齢で発症する患者さんも少なくありません。
クローン病患者数は、約2:1で男性のほうが女性よりも多い傾向にあります(クローン病診療ガイドライン2011年版)。潰瘍性大腸炎の場合、男女差はありません。
記事の冒頭でも述べた通り、クローン病、潰瘍性大腸炎のはっきりとした原因はわかっていません。しかし、原因と関係していると思われる要因には以下のものがあります。
炎症性腸疾患に対して、一卵性双生児と二卵性双生児の疾患の一致率を調査した研究があります。その研究の結果、クローン病と潰瘍性大腸炎ではどちらも、一卵性双生児は二卵性双生児よりも疾患の一致率が高くなりました。このことにより、クローン病と潰瘍性大腸炎には何らかの遺伝的要因があるといわれています(関連遺伝子の詳しい解説については、記事2『クローン病・潰瘍性大腸炎の原因遺伝子はオートファジーと関係している 最新の治療法と原因遺伝子について』をご参照ください)。
上記の一卵性双生児と二卵性双生児の研究では、確かに一卵性双生児のほうが疾患の一致率が高くなりました。しかし、100%の確率で一致したわけではありません。遺伝病の場合は、多くがほぼ100%の確率で一致するため、クローン病・潰瘍性大腸炎では後天的な環境要因(食生活や生活習慣)も関係していると思われます。たとえば、クローン病では喫煙者の方が、非喫煙者よりも、再発率が高いという結果があります。
クローン病と潰瘍性大腸炎の症状には、異なる点がいくつかあります。以下では、クローン病と潰瘍性大腸炎に分けて、それぞれの症状を説明します。
クローン病は、口から肛門まで、すべての消化管の部位に潰瘍や線維化が起こり、病変が散在して発生することが特徴です。また、腸の壁全体が炎症を起こすため、穿孔(せんこう:穴があく)することがあります。
患者さんの自覚症状は、腹痛、慢性の下痢です。それに伴い、体重が減少していきます。腸以外にも症状が現れ、口腔内に口内炎のような炎症が生じたり、関節炎や虹彩炎*が生じたりします。日本人の場合は、肛門に痔瘻(じろう)*が生じやすいという特徴があります。
虹彩炎…虹彩・毛様体が炎症を起こす疾患。腫れや充血などの症状がでる。
痔瘻(じろう)…直腸と皮膚がつながり穴となる痔。
潰瘍性大腸炎は、直腸から連続的に炎症が起こります。そのため、主に大腸だけに炎症が発生します。そして、大腸の表面である粘膜に主に炎症が発生するので、穿孔(穴があくこと)することはまれです。
患者さんの自覚症状には、粘血便や下痢、発熱があります。クローン病よりも血便が多くなります。また、合併症としては、関節炎や膵炎などが挙げられます。
クローン病を疑う場合、まず上部・下部の内視鏡検査を行います。また、組織の一部を採取し、顕微鏡で観察する生検も行います。内視鏡検査では、粘膜に敷石像や縦走潰瘍という特徴的な変化がみられることがあります。
生検では、肉芽腫という変化があれば、クローン病の確定に近付きます。その他には、類似疾患(感染症など)との鑑別のため、便の検査や血液検査を実施します。
潰瘍性大腸炎の検査でもクローン病同様に内視鏡検査を行います。潰瘍性大腸炎を疑う場合は直腸から連続的に炎症を起こしているかということに注目します。
クローン病のような組織学的な特徴はありません。また、炎症が酷い場合は、腸の奥までカメラを入れていくことが困難なため、CTを撮影するケースもあります。そして、他の疾患との鑑別のため、便の検査や、血液検査を行います。
クローン病と潰瘍性大腸炎の治療は、炎症を抑える寛解導入療法と、炎症が治まった状態を維持させる寛解維持療法の大きく2段階に分けられています。
炎症が起こっている場合、外来での治療としてはステロイド内服や顆粒球除去療法*などが行われます。また、入院して行う治療としては、クローン病では食事をすること自体が腸の炎症につながるため、絶食と中心静脈栄養という高カロリーの点滴により腸の安静をはかったり、経腸栄養剤で必要な栄養を摂取する方法があります。また、ステロイドの点滴や生物学的製剤の投与を行ったりします。これらの内科的治療法でも治療が困難な、腸の狭窄や膿瘍(のうよう)の形成、瘻孔(ろうこう)という腸管同士や腸と他の臓器との交通ができる状態では手術療法が必要になることがあります。
顆粒球除去療法…白血球内の一種である顆粒球を血液から除去する治療法
5アミノサリチル酸(5ASA)製剤、免疫調節剤や生物学的製剤などの薬を使用し、外来で治療を行います。
外来治療としては、軽症では5ASA製剤やステロイド(内服・座薬・注腸)の使用、中等症では生物学的製剤、タクロリムス(免疫調節剤の一種)といった薬を使用します。入院治療としては、炎症が高度の場合は腸の安静をはかる目的でクローン病と同様の絶食での治療を行うことがあります。また、ステロイド強力静注療法やタクロリムスなどを使用します。潰瘍性大腸炎では内科的治療で効果がみられなかった場合は、外科的治療を行います。
5ASA製剤、免疫調節剤や生物学的製剤を使用します。
クローン病を悪化させないためには、喫煙をしないほうがよいですし、どちらの疾患も脂肪の多い食品や消化の悪い食べ物も避けたほうがよいでしょう。また、食べ物をよく噛んで食べることも大切です。
記事2『クローン病・潰瘍性大腸炎の原因遺伝子はオートファジーと関係している 最新の治療法と原因遺伝子について』では、治療法と、現在研究が進められているオートファジーとクローン病・潰瘍性大腸炎の関係について、詳しく解説します。
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