記事1『消化管内視鏡とは—その種類とメリット』では、診断を中心に内視鏡検査の種類やメリットをお話しました。本記事では、内視鏡を用いて消化管(食道・胃・小腸・大腸)の診断や治療をどのように行うのか詳しくご紹介します。広島大学病院の田中信治先生にお話を伺いました。
消化管内視鏡にはいくつかの種類と用途があります。本記事では食道、胃、小腸、大腸に関する内視鏡についてご説明します。
※以下、費用の記載にかかる出典:医科診療報酬点数表 平成28年4月版
上部消化管がん(咽頭、食道、胃、十二指腸)の診断では、上部消化管内視鏡検査を行います。消化管がんはほかの粘膜と比べて表面構造や血管の構造が不整(不規則で整っていない)です。そのため光の波長特性を利用したNBI (Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)やBLI (Blue LASER Imaging:併用拡大観察)を用いて病変の拡大観察を行い、がんの診断に利用します。NBIやBLIは特に咽頭食道表在癌の早期発見に有用です。
消化管がんの診断では、生検組織検査(病変の一部を採取して顕微鏡で詳しく診断する)も同時に行います。検査の費用は11,400円(粘膜点墨法を行った場合は600円、拡大内視鏡機を用いてNBIやBLI観察を行った場合には、狭帯域光強調加算として2,000円)かかります。
内視鏡的粘膜切除術は、すべての消化管(咽頭・食道・胃・小腸・大腸)における、平坦な病変も含めた前癌病変やがんが適応となります。
生理食塩水を粘膜下層 (腫瘍の下部と周囲)に注入して人工的な隆起を形成し、腫瘍をスネア(金属の輪)で切除します。一般的な費用は88,400円です。
内視鏡的粘膜下層剥離術は、早期の消化管がんに対する治療法として、全国的に普及し保険収載されている治療法です。ESD用に開発された各種デバイス (ITナイフ2、Hookナイフ、SBナイフ、Dualナイフなど) を用いて、大きな病変でも確実に一括切除できる手技です。
まず病変周囲にマーキング(目印をつける)をして、粘膜下層にヒアルロン酸ナトリウム等を局注し、病変を持ち上げます。次にマーキングの外側の粘膜を切開し、粘膜下層を剥離して(剥がして)病変を切除します。ESD術中に出血したり、露出血管(潰瘍表面などの露出している血管)を認めたりした場合には、凝固止血処置を行います。
一般的な費用は、221,000円です。
リンパ節転移がないと考えられる早期胃がんには、内視鏡によるがんの根治的治療を行っています。
また最近では、大きなサイズのがんなどにも適応拡大が行われています。方法としては、先述したEMR (内視鏡的粘膜切除術)とESD (内視鏡的粘膜下層剥離術)の2つの方法があります。一般的な費用は、EMRが64,600円、ESDが183,700円です。
十二指腸がんは、胃がんや大腸がんと比べて珍しい疾患です。十二指腸は胃よりも粘膜が薄く、内視鏡操作が難しいため、治療難易度が高いです。当科では、十二指腸がんに対する内視鏡治療も行っています(リンパ節転移を有さない病変を適応とする)。
方法としては前述のEMR(内視鏡的粘膜切除術)、ESD (内視鏡的粘膜下層剥離術)を用います。一般的な費用は、EMRが64,600円、ESDが183,700円です。
がんを完治させるための原則は、とにかく早期に発見し、治療することです。
消化管がんは、狭窄(すぼまって狭くなる状態)もしくは腫瘍からの出血などがあらわれるまでほぼ症状がないため、症状からでは早期発見が難しい疾患です。一方で、消化管がんは症状のないうちに早期発見できれば、外科的手術することもなく、内視鏡だけで根治的治療できる可能性が高いです。内視鏡機器や検査技術は日々進歩を遂げ、患者さんの負担はどんどん少なくなっています。できる限り早期に病変を発見し、身体に優しい内視鏡治療ができるよう、ぜひ内視鏡検査を積極的に活用しましょう。