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インタビュー

食道がんの最新治療、日本が誇る世界で初めての手術(3)―ダビンチ®でどう変わったのか

食道がんの最新治療、日本が誇る世界で初めての手術(3)―ダビンチ®でどう変わったのか
瀬戸 泰之 先生

国立がん研究センター中央病院 病院長、元東京大学医学部附属病院 胃食道外科 科長

瀬戸 泰之 先生

この記事の最終更新は2015年08月11日です。

食道は胃とのどをつないでいる管です。食道の極めて近い位置には、肺や心臓というとても大事な臓器があります。さらには気管の後ろ、背中の近くというかなり深い部分にあるのです。そのために、食道がんの手術は非常に難しい手術であり、術後の合併症も多く起きてしまっていました。

そのようななかで、東京大学胃食道外科教授の瀬戸泰之先生は患者さんの負担を少しでも軽くできるような食道がんの手術をするために、どうすべきかを常に考え続けてこられました。患者さんのために尽力し続けてきた瀬戸先生が世界で初めて開発された、ダビンチ®による食道がんの最新治療について4回にわたってお話し頂きます。第3回ではダビンチ®が食道がんの手術をどう変えたのか、ダビンチ®による手術はどのような方が対象になるのかについてご説明します。

現在まで、東大病院では42人の患者さんにダビンチ®による食道がんの手術を受けて頂きました。なぜこの手術をやっていくのか。私たちの一番の目的は患者さんにかかる負担を減らすことです。

食道がんは「いちばん難しくて大きな手術」です。他にも大きな手術はあります。たとえば、肺がんです。しかし肺がんは大きな手術ではあるけれど、開くのは胸だけです。また膵がんも大きな手術です。それでも開くのはお腹だけです。さらに肝臓がんでも、開くのはお腹だけです。

ここで食道がんについて考えてみます。食道がんでは胸を開きます。お腹も開きます。さらには頸も開きます。大きな手術の中でもさらに、開く部分が3ヶ所もあり、非常に「大きな中でも大きな手術」なのです。やはり、このような大きな手術では、手術後に合併症が起きてしまう確率が高くなります。具体的には40%ほどの可能性で合併症が起きます。特に起きやすい合併症は、肺炎を代表とする呼吸器の合併症です。

ダビンチ®による食道がんの手術では、片肺換気をなくすことができました。胸膜の切開もしなくなりました。するとどういうことが起きたか、ご想像いただけるでしょうか。
結論を言うと、重篤な肺炎になる患者さんがいなくなりました。よく集中治療室の看護師さんには「この方は本当に食道の手術を受けたのですか?」と驚かれます。このように、患者さんの負担は確実に減らすことができたのではないかと考えています。

患者さんの負担を少なくするのはもちろん大切です。しかし、何よりも大切なのは、がんをきっちりと治すことです。私たち外科医は、手の感覚が特に研ぎ澄まされています。しかし、ダビンチ®による食道がんの手術は「自分の手で直接触る手術」ではなく、機械の手で剥離操作をする手術です。するとがんの周囲の触覚が伝わってきません。そのため、がんが大きくなり、どこまで広がっているかという部分を自分の手で直接さわって感触を確かめたいときにはこの術式は向きません。

つまり、ロボット手術はどちらかというとがんが小さい段階の方が対象になります。
がんの進み具合は、がんの「Tumor(腫瘍)」のTをとってT1、T2、T3、T4と表現します。日本のがん取り扱い規約では、T2(消化管の外側までは至らずに筋層まで)という段階がダビンチ®による手術の対象になります。T3(消化管の外側まで進んでしまった場合)の対象には現時点ではしていません。

あえてダビンチ®の弱点を言えば、前述のとおり、手で直接触った時のようなリアルな触覚が伝わってこないことです。胸腔鏡手術や腹腔鏡手術の達人であれば、研ぎ澄まされた触覚を持っているものと考えています。それは、たとえばおもちゃのマジックハンドを使って何かに触れた場合、硬いか柔らかいかはある程度わかることと似ています。それに対し、ダビンチ®は完全に触覚が伝わってこない手術です。そこが弱点とも言えるでしょう。

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