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インタビュー

食道がんの症状と治療

食道がんの症状と治療
福永 哲 先生

順天堂大学医学部 消化器・低侵襲外科 教授、徳島大学医学部 臓器病態外科学 臨床教授、聖マリア...

福永 哲 先生

この記事の最終更新は2017年10月19日です。

食道がんは、食道の内面を覆っている粘膜表面の上皮から発生するがんです。食道がんの種類は、主に扁平上皮がん(食道の粘膜の上皮組織に発生するがん)と、腺がん(分泌腺の組織に発生するがん)の2種類に分けられます。

日本では、食道がんの9割以上が扁平上皮がんですが、その原因にはアルコールと喫煙が大きく関わっています。つまり、アルコールと喫煙を避けることが、予防につながるといえます。今回は、食道がんについて順天堂大学消化器・低侵襲外科教授の福永哲先生にお話を伺いました。

  • 食道がんは、小さければ内視鏡手術で取ることが可能なので、早期発見が重要
  • 進行すると嚥下障害、咳や喀血、他臓器への転移といった症状があらわれる
  • 食道がん予防には、禁煙する(受動喫煙も避ける)、過度の飲酒を避ける、食生活に注意するなどが効果

日本における罹患者数は、約23,000人(2011年)で、その半数にあたる約11,500人(2014年)が亡くなっています。この数値は2017年現在でも大きく変化していません。

食道がんになる方の性別は圧倒的に男性が多く、女性の5倍以上です。実際に当科に受診する患者さんの場合は、10名のうち8~9名が男性です。患者数は、年齢に伴い増加するのですが、40代後半から特に増加します。これは、アルコールの大飲や喫煙が食道がんの原因に大きく関与するからだと考えられます。

食道は、喉と胃をつなぐ器官で、食道・咽頭(いんとう)・喉頭(こうとう)と機能が複雑にわかれています。そのため、胃カメラで検査をしても、がんに気づきにくいことがあります。

しかし、食道がんは、小さければ内視鏡手術で取ることが可能です。だからこそ、早期発見が重要となります。

食道がん 部位

食道がんは、上図のうち頚部食道や腹部食道にもできますが、胸部食道のうち、中部食道に最も多くできます。中部の次は、下部に多くできます。

食道がんには、内腔の粘膜上皮にできる「扁平上皮がん」の他に「腺がん」という組織型があります。粘液を出す腺細胞から発生する腺がんですが、その中でもバレット腺がんが近年増えています。

胃酸の逆流(逆流性食道炎)で刺激を受けた扁平上皮が、胃の粘膜に似た組織に変わって(バレット食道の状態)、その部位に腺がん(分泌腺の組織に発生するがん)ができます。これをバレット腺がんといいます。海外では扁平上皮がんより、腺がんの患者数のほうが多いことが知られています。日本は欧米に比べて、逆流性食道炎は少ないですが、食事が欧米化しているために腹部食道にできるバレット腺がんが今後増えると予想されています。

食道がん 特徴

食道の粘膜は4層で成り立っており、この粘膜から発生したがんが深く大きくなっていきます。冒頭で述べた通り、日本人においては、9割以上が扁平上皮がんで残りが腺がんです。

食道がん胃がん大腸がんなどの他臓器と異なる点は、内腔が2〜3センチと狭いので症状が出てきやすいことです。また、がんが粘膜のなかにあるかなり初期の頃から、リンパに乗ってさまざまな箇所に転移します。これは、食道のリンパの流れが複雑であるためです。

たとえばリンパは胸のなかから首やお腹につながっているので、早い段階から胸のほうにできた食道がんが、首とお腹に同時に転移することがあります。

また、血液の流れによって食道がんが遠隔転移し、腹膜や胸膜に広まることもあります。このように食道がんは、転移範囲が広いことが最大の特徴です。

初期の段階では、自覚症状のない方が多く、表在がん(がんが臓器の内部に浸潤していない段階)の場合は半分以上の方が無症状です。小さな表在がんの場合、バリウム検査でがんの存在がわかりにくいので、がん検診の内視鏡でようやくみつかることがあります。食道がんの患者さんのうち、約20%の方が健康診断人間ドックでがんがみつかっています。

初期症状がある場合は、食べ物を飲み込んだときに胸の奥がチクチクする、胸に違和感がある、熱いものを飲んだときの違和感、しみる感覚を覚える方がいますが、こうした症状が現れるケースは多くありません。

内腔が2〜3センチしかないところでがんができてしまうと、食べたものがそこに引っかかって、食事が通らなくなっていきます(柔らかいものは通りますが、硬いものが引っかかったりします)。食べ物が胃に落ちていかず、いつも引っかかっているような感じがするのです。これを嚥下障害といいます。

さらにがんが悪化すると内腔が潰れ、水分や唾液さえも通らなくなり、唾液を吐きもどすようになります。食事が摂れなくなるため、体重が徐々に減少します。

食道は胸の中心にあり、周りには心臓や肺や大きな血管があります。そのような器官にがんが浸潤するとさまざまな症状が起きはじめます。たとえば気管にがんが浸潤すると咳が出たり、喀血(呼吸器系の器官からの出血)が起こったりします。食道の周りには、神経があるため、痛みも出てきます。

食道がんの症状が進行すると、主に首、胸、お腹にがんが転移します。肝臓や肺に遠隔転移をすることもあります。

声帯(せいたい:喉にある声を出す器官)の動きを調整する反回神経(はんかいしんけい)にがんが浸潤すると、かすれ声(嗄声:させい)になります。これは食道がんによくある症状で、声が枯れてガラガラとします。

治療方針は、がんの進行度によって決まります。また、患者さんの置かれているステージによって、生命予後(治療によってどのくらいの確率で治るのか)も予測できます。
食道がんのステージは、大まかに以下の3つから決まります。

  1. がんの深達度(T0〜T4)
  2. リンパ節転移の程度(N0〜N4)
  3. 遠隔転移の程度(M0〜M1b)

順天堂大学医学部附属順天堂医院における食道がんが発見されたときの各ステージの割合は、Ⅰ期・Ⅱ期・Ⅲ期・Ⅳ期ともに同じような割合です。

ステージ0期で、がんが内視鏡で容易に取れそうであれば消化器内科での対応になります。Ⅰ期〜Ⅲ期では、胸腔鏡・腹腔鏡手術が基本的な方針です。従来は、右胸の開胸・開腹・頸部操作で手術をしていましたが、侵襲(しんしゅう:患者さんへの肉体的な負担の程度)が非常に大きいため、当科では、胸の部分は胸腔鏡、お腹の部分は腹腔鏡と併用して治療しています。胸部食道がんの場合、かなり早期の段階から、首、胸、お腹のリンパ節に転移するので、頚部、胸部、腹部の3つの領域のリンパ節を切除しながら原発部位(がんが発生した臓器)をとるというかなり大規模な手術になります。この胸腔鏡・腹腔鏡手術については、記事2『食道がんの手術治療—胸腔鏡・腹腔鏡手術の流れやメリット』で詳しく説明します。

Ⅳ期は、抗がん剤と放射線治療になります。Ⅳ期において、化学放射線療法を最初に選択し、それでも治らなかった場合、サルベージ手術(がんの根治を目的に化学放射線療法をしても治らなかった場合にする手術)をすることもあります。

JCOG9907という試験において、術前化学療法の5年生存率が55%、術後化学療法が43%だったため、当科では術前化学療法をおこなっています。食道がんは、大きな手術で患者さんが体力を消耗するため、術後にしっかり化学療法ができません。手術の前だと十分に体力があるので、しっかり抗がん剤治療ができます。

Ⅱ期〜Ⅲ期においては上図の通り、体の状態によっては手術にすぐ踏み切ることもあります。

食道がんの患者さんの9割を占める扁平上皮がんの明らかな要因は、「アルコールと喫煙」です。日常生活から予防することができるので気をつけましょう。

禁煙

喫煙は、体にとってよいことはひとつもありません。

適度な飲酒は構いませんが、過度の飲酒は、食道に限らず肝臓のことを考えてもよくありません。毎日の過度な飲酒は避け、少なくとも休肝日を設けましょう。

飲酒後に顔が赤くなるタイプの方は、アセトアルデヒドを分解する酵素(ALDH2)が少ないため、大飲すると体内にアセドアルデヒドが蓄積し、食道がんのリスクが通常よりも高まりやすい体質です。より注意が必要なタイプといえます。

普段から熱いものや辛いものを過度に摂取しないようにしましょう。また、野菜や果物は胃がんや食道がんのリスクを下げるといわれているので積極的に摂取しましょう。

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  • 順天堂大学医学部 消化器・低侵襲外科 教授、徳島大学医学部 臓器病態外科学 臨床教授、聖マリアンナ医科大学 消化器一般外科 客員教授

    福永 哲 先生

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