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インタビュー

食道がんの初期症状と原因とは?─声のかすれも症状のひとつ?

食道がんの初期症状と原因とは?─声のかすれも症状のひとつ?
土岐 祐一郎 先生

大阪大学医学部医学系研究科 外科学講座消化器外科学 教授、病院長

土岐 祐一郎 先生

この記事の最終更新は2017年09月04日です。

食道がんとは、のどと胃の間をつなぐ臓器である食道に悪性腫瘍が発生する疾患です。喫煙や飲酒はがんの発症に関係があるといわれていますが、食道がんはほかのがんよりもこれらが発症に大きく関係していると考えられています。

食道がんは進行が早く、リンパ節への転移が多く起こります。さらに、食道の上部は気管と背骨の間にあり、下部は心臓や大動脈、肺に囲まれているため、浸潤しやすく手術が難しいことも特徴です。食道がんの原因と初期症状について大阪大学医学部消化器外科、土岐 祐一郎先生に伺います。

食道とは、口から食べた物を胃に運ぶ働きを持つ管状の臓器です。食道は体の中心部にあり、周りは心臓や大動脈、肺といった重要な臓器に囲まれています。また、食道の壁は粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層からできています。

食道は食べ物が通りやすいようになめらかな粘膜で覆われており、この粘膜が粘液を分泌しています。また、粘膜の下にある粘膜下層は血管やリンパ管が豊富な層で、粘膜下層の下に位置する固有筋層は食道の中心にあり、食道を動かしている筋肉の層です。

私たちの口から食べ物が入ってきたときに、このような構造でできた食道壁が動かされて食べ物を胃に送る仕組みになっています。なお、外膜は周囲の臓器との間を埋める結合組織であり、膜状にはなっていません。

食道の構造

食道がんとは、食道に悪性腫瘍が発生する疾患です。

がんは必ず表面(粘膜)に発生し、徐々に深部へ浸潤します。食道がんはがん癌細胞の種類により後ほど述べる扁平上皮がんと腺がんにわけられます。食道の長さは25㎝ほどで、頸部、胸部、腹部に分けられます。扁平上皮がんは上部に多く、腺がんは下部におおい特徴があります。

食道がんは進行スピードが他のがんよりも早く、また、リンパ節への転移や他臓器への浸潤(しんじゅん:がんが周りに広がっていく)が多くみられます。そのため、進行したステージでは手術が難しく手術前後の治療も大きく変わってきます。手術や治療については記事2『食道がんのステージ(病期)ごとの治療法は?手術、検査について』にてお話しいたします。

食道がんでは男女罹患率、死亡率に大きく差があり、男性は女性の5倍以上だといわれています。罹患率、死亡率が男性に多い原因は後ほど詳しく述べますが、飲酒や喫煙が大きく関係していると考えられます。

食道がんも他のがん同様、年齢とともに罹患率が増加しています。しかし、高齢の患者さんが多い胃がん大腸がんに比べると、食道がんに罹る方の平均年齢は5歳前後若いことが特徴です。※参照「がんの統計2016

食道がんは顕微鏡検査によりがん細胞の種類で大きく扁平上皮がんと腺がんに分けられます。

扁平上皮は食道・咽頭・口腔など、一方、腺上皮は胃・小腸・大腸などの消化管の粘膜の表面を覆う細胞です。従って元々食道には扁平上皮がんが多いのですが、最近食道の下部(胃との境界)で扁平上皮が腺上皮に置き換わりそこに腺がんが発生するというケースが増えてきました。

扁平上皮がんは日本や東アジアに多くみられ、日本での食道がん患者さんの90%以上が扁平上皮がんといわれています。喫煙や飲酒が誘因でなりやすいのは扁平上皮がんです。部位別では中部食道に発生が多いですが、食道内に多発したり、咽頭がんと合併したりすることが多いという特徴もあります。

逆流性食道炎(胸焼け)を長年繰り返すと食道との境界部分の扁平上皮が腺上皮に置き換わることがあります。この置き換わった腺上皮は癌になりやすいという特徴があります。従って食道の下端にできることが多いです。肥満と逆流性食道炎は密接な関係にあるので、肥満者の多い欧米ではここ数年急激に食道腺がんが増えて70%以上は腺がんになっています。日本でも肥満が増えていること、ピロリ菌が減少していることより急激に逆流性食道炎が増えています。近い将来、日本でも食道腺がんの患者さんが増加することが予想されます。

食道がんの初期は塩分の高いものやすっぱいもの、熱いものを食べた際にしみるように感じることがあります。

食道の内径は2㎝と細いので食道がんが進行すると食べたものがつかえることが多くなります。しかし食道の筋肉はやわらかいので多少進行した段階でも少し力を入れれば飲み込めてしまいます。食道の周径の4分の3ぐらいにまでがんが進行すると力を入れても飲み込めなくなり突然詰まりを感じるようになります。

また、食道の近くには声を調節している神経が走っています。この神経が腫瘍やリンパ節転移によって圧迫されることによって、声がかすれます(嗄声:させい)。

声に異常があった場合、耳鼻咽喉科を受診される患者さんもいますが、食道がんでは喉頭への異常はみられないために見逃されてしまうことがあります。

他のがんの場合、転移はある程度がんが進行した状態で発症しますが、食道がんの場合は腫瘤が小さいときからリンパ節に転移することがあります。そのため進行食道がんの多くはリンパ節に転移がみられます。食道はリンパ液の流れが豊富でしかも上下方向に流れています。原発巣(げんぱつそう:がん細胞が最初に発生した場所)からリンパの流れに乗って頸部や腹部など離れた場所のリンパ節に転移することがしばしばあります。更に進行すると血液の流れに乗って肺や骨、肝臓などの他臓器などに転移することがあります。

日本酒を注いでいる画像

食道がんの主な原因は飲酒と喫煙です。食道がんにおいては飲酒と喫煙の両方を行うと相乗効果(単に掛け合わせたより、さらに大きくなる)があり発がんのリスクが12~13倍になるといわれています。飲酒についてはより詳細に解明されています。毎日3合(540ミリ)の飲酒を続けた際に、食道がん以外のがんの場合は発症リスクが約1.6~1.7倍程度です。これに対して、食道がんは同量の飲酒によって約5倍もリスクが上がるといわれています。

また、遺伝的に(体質的に)飲酒をした際に顔が赤くなる方(フラッシャー)は食道がんになりやすいというデータがあります。しかし、この体質(遺伝)の人も飲酒しなければ食道がんの危険性は増えません。自分の体質をよく理解してフラッシャーの人はできるだけ飲む量を減らすことが大事です。

 

土岐祐一郎先生より画像提供

飲酒や喫煙のほかにも、口腔内ケアをあまり行わないことや熱い飲食物の過度な摂取が発症原因になると考えられます。日本では熱い飲食物が多く、食道を熱さで刺激することによって発症のリスクが上がると考えられています。

食道腺がんの発症の原因にはピロリ菌が関係しているともいわれています。

ピロリ菌は十二指腸潰瘍胃がんの原因菌とされ、現在はピロリ菌を除去されている方も多くいらっしゃいます。また、ピロリ菌は慢性胃炎を起こし胃酸を分泌する細胞が減少し、胃酸を抑制します。かつて日本では80%以上の人がピロリ菌に感染していましたが、現在は生活環境の変化やピロリ菌の除菌により感染率が低下しています。その結果、胃酸の分泌が増大し胃酸が食道に逆流し、慢性化することで逆流性食道炎をきたす可能性があります。

食道は食べ物の通り道なので、消化機能はありません。また、胃酸はとても強い酸性の液です。逆流性食道炎になると逆流した胃酸が慢性的に食道を刺激するため、食道がんの発症リスクを高めます。このように、ピロリ菌除去によるピロリ菌感染の低下から起こる過剰な胃酸による逆流性食道炎も、食道腺がんの発症の原因になっていると考えられます。

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