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高齢者にも安心な手術を目指して-消化器内科の低侵襲治療

高齢者にも安心な手術を目指して-消化器内科の低侵襲治療
齋藤 博文 先生

千葉市立海浜病院 診療局長、千葉大学医学部 臨床教授

齋藤 博文 先生

この記事の最終更新は2017年03月29日です。

医療における低侵襲治療という概念をご存知でしょうか。低侵襲治療は患者さんにかかる負担が少ないことから、高齢者に対する治療方法として今後ますますニーズが高まるといわれています。

千葉市立海浜病院は近隣地域の患者さんを多く受け入れている病院です。地域にはご高齢の方も多数お住まいのため、低侵襲治療を積極的に導入している病院のひとつといえるでしょう。

本記事では、千葉市立海浜病院消化器内科が実施している高齢者に対する内視鏡治療の一例を、消化器内科診療局長の齋藤博文先生にご紹介いただきました。

素材提供:PIXTA

体に対する負担の度合いのことを侵襲(度)といいます。低侵襲治療とは、患者さんの体にかかる負担をなるべく減らした、つまり体の傷や痛みなどを最低限にとどめた治療方法のことです。

低侵襲治療では体につく傷の量が少ないため、開腹手術に比べると入院日数も短く、患者さんの社会復帰を早めることができます。

高齢者の低侵襲治療が重要視されている理由は2点あります。

1点目は身体的な理由です。一般的に、年齢が上昇すれば高血圧糖尿病など慢性疾患を抱える方は増加するため、その分、手術のリスクも上昇します。低侵襲治療は体への負担を極力抑えるため、手術に対してリスクがある方でも安全に治療できる手段といえるでしょう。

もう1点は社会的な理由です。入院中は身体を動かす機会も少なく、認知機能や身体機能が低下しがちです。特に手術後は一時的にせん妄状態に陥りやすく、興奮して術後の安静が十分に行えなくなる場合があります。低侵襲治療は、体を傷つける量が少ないため治療後の活動制限がほとんどなく、入院期間を短縮し患者さんの社会復帰も早めることができます。これは、入院によるせん妄の進行や体力・筋力の低下を最小限に留めることにもつながります。

今後日本全体で高齢化がさらに進展することを考えると、高齢者に対する低侵襲治療のニーズはより高まっていくといえるでしょう。

内視鏡治療の様子
内視鏡治療の風景1(画像提供 齋藤博文先生)
内視鏡治療でのモニター確認
内視鏡治療の風景2(画像提供 齋藤博文先生)

内視鏡と先端に高画像の小型のビデオカメラ(CCD)を取り付けてある、口もしくは肛門から挿入して体内の観察やポリープなどの切除を行なうチューブ状の機器です。

内視鏡治療とは、内視鏡を使用して消化管内部の様子を観察し、ポリープなどを切除することをいいます。

ヒトの体を球体と考えたとき、口と肛門は外界との接点としての入り口と出口であり、その球体の内部を通る道(食道、胃、小腸、大腸)のことを消化管と呼びます。消化器内科では、各消化管に対して内科的な観点からアプローチをかける診療科です。

消化器内科では、基本的に手術ではなく治療という言葉を使います。これは、口もしくは肛門から内視鏡を挿入して、病気が疑われる部分の観察やポリープ切除、胆石の回収を行なうことはあるものの、外科手術のように体の表面にメスを入れ臓器そのものを切除することは行わないため、臓器やその機能は温存されるからです。

高齢者のなかには手術を不安に感じる方もいらっしゃるので、体への負担を最低限にとどめ、かつ手術という言葉を使わない消化器内科の治療は身体的にも、そして精神的にも負担の少ない治療方法といえるでしょう。

胆嚢・胆管
素材提供:PIXTA

千葉市立海浜病院では、特に胆嚢や膵臓の内視鏡治療に力を入れていることから、近隣の病院から患者さんをご紹介していただくこともあります。

たとえば胆石(肝臓で産生された胆汁の通り道である胆嚢や胆管にできる結石)が、胆嚢や胆管の出口に詰まると胆嚢や胆管が腫れて痛みを起こします(これを胆石発作といいます)。さらに細菌感染を合併すると、胆嚢炎や胆管炎といった重篤な合併症を起こしてきます。

胆管炎は急いで治療をする必要があるため当院では、ほぼ24時間体制で緊急内視鏡にて胆管ドレナージ術(ERBD)を行っています。胆嚢炎に対しては炎症が高度で早期手術が困難な場合は、EGBS(内視鏡的ステント留置術)やPTBGD(経皮経肝的胆嚢ドレナージ)といった方法で胆嚢にチューブを入れ(胆嚢ドレナージといいます)感染を鎮静化させてから手術を行います。高齢の方には、EGBSを積極的に行なっています。

ステントと呼ばれるプラスチック製のチューブを十二指腸から胆嚢に設置することで、胆汁の通り道を作ります。体表を傷つけることなく胆汁の滞留や黄疸を解消できることから、胆道ガイドラインにも掲載されている治療方法です。

この治療法では胆汁の通り道を体内に確保するため、チューブ管理の煩わしさや腹膜炎などのリスクを回避できます。また治療を受ける患者さんとしても、体に刺さっているチューブを直接目にすることがないため、精神的にも負担の少ない治療方法といえるでしょう。現に最近では、患者さんの体表にチューブ等をなるべく設置しない治療法を選択する病院が増えており、当院もそのうちのひとつです。

千葉市立海浜病院では、PTGBD(経皮経肝的胆嚢ドレナージ)を実施することも多いです。これは右脇腹の肋骨のあたりから針を刺してチューブを胆嚢に直接設置して、滞留している胆汁や炎症によって生じたなどの排出し胆嚢の減圧を行う方法です。

PTGBDは胆嚢に直接針を刺すため成功率も非常に高いのですが、一部のリスクの高い方や、体力の低下している方、チューブの管理が難しい認知症の方には適さない手法でもあります。

このように当院では、EGBS(内視鏡的ステント留置術)とPTGBD(経皮経肝的胆嚢ドレナージ)を使い分けることで、高齢の方にも安心して治療を受けていただける体制を整えています。

膵臓
素材提供:PIXTA

膵臓の代表的な病気のひとつに急性膵炎があります。膵炎の主な原因は胆石とアルコールです。胆石が十二指腸への出口につまると合流する膵管(膵液の流れ道)もつまるため膵炎を起こします。この場合は、内視鏡を使用して胆石を除去することによって速やかに膵炎は快方に向かいます。一方アルコール性の場合、絶食と点滴による治療を行い、ひたすら炎症が落ち着くのを待つしかありません。

膵炎後に嚢胞(のうほう・血液や体液が溜まった袋状のもの)の形成や、膵臓の一部が壊死して液状化することもあります。これらを膵仮性嚢胞(PPC)や被包下膵壊死(WON)といいます。

このような液体の貯留に対し、超音波内視鏡と呼ばれるエコー装置を兼ね備えた内視鏡を使用して治療を行います。まず口から胃まで内視鏡を入れ、先端の超音波で嚢胞を確認しながら針を刺し、そのルートを拡張してチューブを挿入します。このチューブにより、嚢胞の内容物(膵液や壊死物質)が胃内に排出されます。この方法では体内にたまっている物質を、胃を経由して体外に排出できるため、患者さんの体内ですべての処理を完結できる術式といえるでしょう。

超音波内視鏡ガイド下ドレナージによる治療前後の比較
左:被胞化膵壊死(WON)治療前 / 右:超音波内視鏡ガイド下ドレナージ後(画像提供 齋藤博文先生)
早期がんとESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)
左:食道がんESD前 / 右:ESD後(画像提供 齋藤博文先生)          
早期がんとESD
左:大腸 ESD前 /  右:ESD後 / 右:切除標本(画像提供 齋藤博文先生)  

消化器内科で対応できるがん、つまり内視鏡で治療できるがんは、粘膜内に限局した初期のものに限るという原則があります。これは、粘膜内のがんはリンパ節転移の可能性がほとんどないことが分かっているためです。

内視鏡を使用したがんに対する治療法のひとつに、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)と呼ばれる方法があります。対象となるがんは粘膜内のものなので、内視鏡を使用して粘膜と筋層の間の粘膜下層で剥離し、がんを切除する治療方法です。最初は胃がんに対して行われていましたが、技術向上などにより次第に食道や大腸なども治療対象になりました。

食道や大腸は筋肉層が薄く、特に慎重に行います。治療にかかる時間は、小さなものであれば1~2時間程度ですが、大型なものでは2~3時間以上かかることもあります。開腹手術より時間はかかりますが、患者さんの体にメスによる傷を残さず、治療成績も安定しているため、千葉市立海浜病院でも積極的に実施している治療方法です。

大腸がん罹患率の上昇に伴い、大腸ポリープ(良性腫瘍)の発生率も年々上昇しています。大腸のポリープは癌化することがわかっており内視鏡治療を行います。大きさにもよりますが、大腸ポリペクトミー(大腸ポリープを切除する手術)は1~3泊程度の入院で治療できます。肛門ら内視鏡を挿入してポリープの大きさや形、ポリープと正常な粘膜との境目を確認し、内視鏡の先端からループ状の金属のワイヤー(スネア)をポリープにかけて高周波(電気メス)を使用して切除します。

一方、胃ポリープは癌化がほとんどなく、最近は余り切除されなくなっています。

胃内視鏡や大腸内視鏡で観察しても出血源を見つけられないときには、カプセル内視鏡という超小型カメラを飲んで、小腸を観察することもあります。カプセル内視鏡では、1秒間に数回点滅しながら消化管内部の様子を撮影し、画像データを信号化し電極を通じて蓄積します。

カプセル内視鏡が小腸を通過するのは6~10時間程度です。午前中にカメラを飲んでいただいて夕方には検査が終了するかたちになります。もし夕方になってもカメラが大腸に到達しない場合は、レコーダーを持ち帰っていただき翌朝に再度来院していただき画像データを受け取って検査終了になります。

内視鏡治療には特にこれといったデメリットはありませんが、ひとつ注意点があります。

それは、服用している薬があれば診察時に教えて欲しい、そして自己判断で薬の量を減らす、もしくは服薬を中止しないでくださいということです。

たとえば狭心症心房細動など心疾患の治療薬として処方される抗血栓薬と呼ばれる薬には、血をサラサラにする効果の反面、傷などの血が止まりにくくなるという副作用があります。内視鏡治療でできる胃や腸の粘膜に潰瘍は、体の外から圧迫止血などできないのでやっかいなこともあります。現在、消化器や循環器の学会で決めたガイドラインに沿って、他の薬に置換するほか、減量・休薬を行って治療を行いますので、担当医とよく相談をしてください。患者さんが自己判断で服用を中止してしまうと、血栓症など重い合併を起こしてしまうので注意してください。

大腸ポリペクトミーは4~5万円程度で治療可能です。それ以外のESDなど高度の治療は15-20万程度かかりますが、1ヶ月間の医療費が高額になると、高額療養費制度により支払った費用の一部が払い戻されます。また75歳以上では、健康保険負担分が変化するため、患者さんの負担額はさらに軽減します。

※入院費用などの詳細は医療機関ごとに異なります。詳しくは治療を受ける医療機関にご相談ください。

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