記事1『高齢者にも安心な医療をめざして-消化器内科の低侵襲治療』では、消化器内科における低侵襲治療の考え方と、千葉市立海浜病院消化器内科が実践する内視鏡治療の例をお伝えしてきました。
高齢者に対する低侵襲治療というテーマに対し、消化器外科はどのように取り組んでいるのでしょうか。千葉市立海浜病院消化器外科診療局長の吉岡茂先生に伺いました。
術中風景1 (画像提供 吉岡茂先生)
消化器外科が考える低侵襲治療とは手術創が小さく術後回復の早い治療方法、すなわち腹腔鏡手術です。
術中風景2 (画像提供 吉岡茂先生)
ヒトの内臓は、腹壁(ふくへき)という皮膚や筋肉などで構成される壁によって守られています。腹腔鏡手術とは、腹壁にカメラを入れるメインの穴とメスや鉗子等をいれるサポートの穴を複数開けて行なう治療方法です。
腹腔鏡手術は1980年末に欧米で開発され、日本では1990年頃に胆のう摘出術に最初に導入されました。そのため現在でも腹腔鏡下胆のう摘出術が、腹腔鏡手術の中では最も広く一般的に行われています。
術中腹部1 (画像提供 吉岡茂先生)
術中腹部2 (画像提供 吉岡茂先生)
腹腔鏡手術ではまず臍を1cm程度切開し、トロッカーと呼ばれる管を通します。その管より腹の中に炭酸ガスを注入し、作業スペースを確保します。臍部のトロッカーより腹腔鏡というカメラを入れ、モニターに映ったお腹の中を見ながら、手術器具を入れるための追加のトロッカーを3~4本ほど入れ手術操作を行います。胃や大腸切除の場合、後に摘出臓器を取り出す際に、臍部の穴を5cm程度に広げます。
通常の開腹手術での傷は数十センチに及ぶことを考えると、腹腔鏡手術は体に対する負担が少ない治療といえるでしょう。
胆のう結石症の発作を繰り返すと、胆のうが十二指腸や大腸などに固く癒着するため、腹腔鏡で見てもどこに胆のうがあるのかわからないことがあります。どれが腸で、どれが胆のうなのかを、術者の手で直接さわって確認できないことが、腹腔鏡手術の欠点です。その場合、手術創を20~30cmに広げて開腹手術に移行します。
早期胃癌のうち内視鏡治療の適応とならないのものは、腹腔鏡下胃切除術のよい適応となります。また胃癌がもう少し深く浸潤していても、リンパ節転移の少ないものには腹腔鏡手術が行われるようになってきています。
一方で大腸がんに対しては、大きな腫瘍で他臓器浸潤があったり、広範なリンパ節転移があるもの以外は、腹腔鏡下大腸切除が行なわれるようになってきており、当科でも大腸がんの約80~90%は腹腔鏡手術を行っています。
また、胃十二指腸潰瘍穿孔による急性腹膜炎に対しても、腹腔鏡手術が行われています。潰瘍穿孔とは胃、十二指腸の潰瘍が悪化し深くなって穴が開き、お腹の中に胃液、腸液が漏れ出て腹膜炎を起こした状態です。この穴を腹腔鏡で見て縫合閉鎖し、漏れ出た腸液を回収し、汚染されたお腹の中を滅菌水で十分に洗浄しています。
当院では、消化器内科と消化器外科が密に連携して、高齢者の消化器疾患の患者さんにも対応しています。
高齢の胆のう炎症例で全身状態が低下して緊急手術は行えない患者さんには、まず消化器内科で、胆のうドレナージを行います。認知症を伴っている高齢の患者さんは自分でドレナージチューブを抜いてしまう可能性があるため、EGBS(内視鏡的胆のうステント留置術)を行い胆のう炎が軽快した後に、腹腔鏡下胆のう摘出術を行っています。
また、消化器外科で腹腔鏡下胆のう摘出術を行った際、まれに胆のう内の結石が胆管に落下してしまうことがあります。そのような症例に対しては、消化器内科で内視鏡を使用して結石を回収しています。
術中風景3 (画像提供 吉岡茂先生)
当科ではさまざまな治療方法のメリット・デメリットを考慮し、患者さんにとって適した治療法を選択するよう心がけています。開腹手術を何回も受けている方、癌がかなり進行した方には、腹腔鏡手術ではなく開腹手術をお勧めしています。
腹腔鏡手術は開腹手術と比べて手術時間は長くなります。腹腔鏡手術で手術時間があまりにも長くかかってしまうと、低侵襲治療ではなくなってしまいます。そのため、術中所見により腹腔鏡手術の続行は困難と判断した場合には、腹腔鏡手術に固執することなく、すぐに開腹手術にきりかえることが重要と考えています。
腹腔鏡手術も高額療養費制度の対象のため、申請をすれば医療機関に支払った費用の一部が返還されます。
本記事で紹介した胆石症や大腸がんの手術とは? 適応や手術方法についてくわしく解説の費用も、この制度により70歳未満で年収800万円の方の場合18万程度で済みます。
※自己負担限度額は患者さんの年齢、年収ごとに異なります。詳しくは治療を受ける医療機関にご相談ください。
術中風景4 (画像提供 吉岡茂先生)
千葉市立海浜病院 診療局長(外科)
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