日本国内で膵臓がんに罹る人の数は年間に約3万人と推定され、そのうち膵臓がんで亡くなる人は同じく約3万人です。罹患者数と死亡者数がほぼ同じというのが膵臓がんの特徴で、医学が進歩した現代においても難治がんのひとつとして知られています。そんな膵臓がんの現状について、福岡山王病院の内科部長(当時)である舩越顕博先生にお話を伺いました。
肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんに続いて、がん死の5番目に位置しているのが膵臓がんです。毎年、約3万人の人が膵臓がんに罹患していると推定されていますが、それとほぼ同じ数の人が膵臓がんで死亡しています。
膵臓がんで治療が望めるのは早期の段階で発見された場合のみで、 完治(完全に病気を治すこと)を目指すには手術以外に方法はありません。しかし、切除可能な膵臓がんは全体の20~30%にすぎないのが現状です。
早期膵臓がんの定義というのは、はっきりと定められているわけではありませんが、一般的には、いわゆる腫瘍の大きさ(腫瘍径)が1㎝以下で、遠隔転移がないものとされています。早期の段階で発見されて手術ができたとしても、膵臓がんは再発を繰り返すことが多く、術後の5年生存率は約10~20%程度です。このあたりが膵臓がんは難治がんと呼ばれるゆえんでもあるのです。
膵臓は、おなかの奥にある臓器で、まわりを胃や十二指腸、小腸や大腸、肝臓などに囲まれています。そのため、早期発見に有効とされる超音波検査をしても、なかなかみつからないことがあるのです。通常の人間ドックなどでは、消化器をまんべんなく検査しなければならないため、膵臓だけをしっかりとみることはできません。また、超音波は施術する人の技術に大きく左右されることに加え、特に膵臓は位置的にも難しいところにあるため、異常を発見するのが非常に難しいのです。そのため、他の検査を受けて偶然に早期の膵臓がんが発見されたという人も決して少なくないのです。
これまで長いこと膵臓がんに取り組んできましたが、最近感じることは、膵臓がんに罹る人の平均年齢が高齢化していることです。21世紀前には罹患年齢の平均は65~66歳だったのが、21世紀以降では約71歳へと上昇しています。
日本は超高齢社会を迎えていますので、高齢化が膵臓がん増加のひとつの要因といえますが、その他にも診断技術の進歩も背景としてあるのだと考えます。しかし、いくら診断技術が進歩したとはいっても、未だ早期膵臓がんの発見は難しいのが現状です。ただ、画像診断の進歩で、膵臓がんと診断された後のステージング、つまり今がんがどの段階にあるのか、ということの診断がより正確にできるようになりました。
早期膵臓がんが発見されるきっかけは、たまたま偶然ということが多いとお話しましたが、まれに、急に糖尿病になったという時にみつかることがあります。特に50歳以上で突然糖尿病になったというような場合は要注意です。糖尿病は、血糖値の調節に必要なインシュリンの量や作用が低下して起こります。このインシュリンというホルモンを産生しているのが膵臓なのです。
膵臓がん患者さんは、糖尿病を併発していることが高い頻度でみられ、膵臓がんと糖尿病は「チキン&エッグ」とよく例えられます。膵臓が悪いと糖尿病になるわけですが、卵が先かにわとりが先かと同じで、糖尿病になったから膵臓がんになるのか、膵臓がんになったから糖尿病になるのか、ということは判断が難しいですね。実際のところ、統計的に判断するのは難しいですが、糖尿病の人はそうでない人よりも膵臓がんになるリスクは高まります。危険率は、糖尿病にかかっている人は、かかっていない人の1.8~2.1倍くらいです。
医療法人 愛風会 さく病院 内科
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