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膵臓がんの診断と治療――早期発見・早期治療を目指すために

膵臓がんの診断と治療――早期発見・早期治療を目指すために
中島 慎介 先生

市立東大阪医療センター 消化器外科 肝胆膵疾患 主任医長

中島 慎介 先生

村田 淳 先生

地方独立行政法人 市立東大阪医療センター 消化器内科 主任医長

村田 淳 先生

目次
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膵臓(すいぞう)がんはがんの中でも悪性度が高く、何らかの症状が出たときにはかなり進行していることも多いのが特徴です。根治が難しい病気の1つとされていますが、早期段階で診断できれば切除により十分に根治が見込めます。では、膵臓がんを早期発見するためには、どのような検査が必要なのでしょうか。また、どういった治療が行われているのでしょうか。膵臓がんの検査と診断、治療方法について、市立東大阪医療センター 消化器外科 主任医長 中島(なかしま) 慎介(しんすけ)先生と、同院消化器内科 主任医長 村田(むらた) (じゅん)先生にお話しいただきました。

中島先生:

日本では1年間に約42,700人*が新たに膵臓がんと診断されており、近年増加傾向にある病気の1つです。その原因として、食生活の欧米化に伴う高脂肪食の摂取や膵脂肪化が挙げられます。

村田先生:

飲酒や大量喫煙の習慣、慢性膵炎(まんせいすいえん)糖尿病、肥満なども一般的な膵臓がんのリスクファクターです。このほか、膵管上皮細胞で粘液が産生され、そして主膵管が拡張したり、分枝膵管に粘液の袋(嚢胞(のうほう))ができたりする膵管内乳頭粘液性腫瘍(すいかんないにゅうとうねんえきせいしゅよう)(intraductal papillary mucinous neoplasm:IPMN)という病気もリスクファクターになります。また、日本の膵臓がん患者さんの3~7%は膵臓がんの家族歴があるとされており、第一度近親者に1人いれば4.5倍、2人いれば6.4倍、3人以上いれば32倍にリスクが上昇します。

*国立がん研究センター病院『2020年のがん罹患数予測および死亡数予測の結果』に基づく

中島先生:

膵臓がんの一般的な症状は黄疸(おうだん)(皮膚や白目が黄色くなること)、膵炎、背部痛(背中の痛み)、腹痛などです。ただし、こうした症状は通常、病気が進行しないと現れません。また、糖尿病患者さんが膵臓がんを発症した場合、急に糖尿病が悪化することがあります。飲んでいる薬の量が急激に増えた、食事量は変わらないのに体重が減っている、腹痛・背部痛が現れてきたなどの変化が起こった場合は、早めに病院で検査を受けていただくことを推奨します。

村田先生:

腹痛は、キリキリ痛むというよりも「何となくみぞおち付近が重い気がする」と感じる方が多いようです。

村田先生:

まずは、血液検査、エコー検査、腹部CT検査(禁忌事項がなければ造影CT検査)を行います。特に腹部造影CTはがんのステージを評価し、手術ができるかどうかを判断するためにも重要な検査です。また、がんの状態によってはMRIやPET-CTを追加することもあります。

その後は内視鏡検査を行い、診断確定の根拠となる病理検体(膵臓の腫瘍組織や細胞の一部)を採取します。当院では、黄疸や胆汁うっ滞などの症状がみられてドレナージ(胆汁の流れをよくするためにステントを留置すること)が必要なケースや、腫瘍径が小さく早期段階と想定されるケースに対しては、内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)を行い、ブラシ擦過細胞診や生検を同時に施行します。一方で、黄疸や胆汁うっ滞がなく腫瘍径がおよそ10mm以上あり、かつ穿刺(せんし)ラインが安全に確保できるものには、超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)での細胞診・組織診を行います。当院でEUS-FNAを行う際は細胞検査士が同席し、細胞を採取したその場で診断を確定する迅速細胞診(ROSE)という方法を用いているため、少ない穿刺回数で確実に診断を行うことが可能です。

村田先生:

早期段階の膵臓がんは、膵臓以外の病気の精査を目的にした画像検査において、IPMNや主膵管拡張が偶然発見されることが契機になることがあります。IPMN由来がん・併存がんの精査・スクリーニングや早期膵臓がんの診断に有用とされているのが、超音波内視鏡検査(EUS)です。当院では2014年にコンベックス型EUS検査の機材を導入しました。このコンベックス型EUS検査は画像分解能がCTやMRIより優れていることが特徴で、現在は消化器内科医が複数名体制で検査を実施しています。

EUSに用いるコンベックス型内視鏡
EUSに用いるコンベックス型内視鏡

また、ERCPを行うにあたり、当院では“連続膵液細胞診(SPACE)”という方法も取り入れています。この方法では、まずERCPで膵管の評価を行った後、内視鏡的経鼻膵管ドレナージ術(ENPD)を行い、膵管内に細いチューブを留置します。そして、このドレナージチューブから流れ出てくる膵液を体外のボトルに集めたのち病理検体として提出し、膵液内のがん細胞の有無を評価します。ステージ0、Iの早期膵臓がんの診断には特に有用とされており、当院ではその早期膵臓がんだけでなく、悪性化が疑われるIPMN症例に対しても積極的にSPACEを行い、その有用性に関する研究報告を進めています。

ERCPやEUSを実施する現場(内視鏡室)
ERCPやEUSを実施する現場(内視鏡室)

中島先生:

手術は根治するためには必須の治療です。しかし、手術単独での根治度はまだまだ十分なものではなく、その他の治療(抗がん剤、放射線治療、免疫療法)を手術と併用して施行する集学的治療により、膵臓がんのよりよい治療開発がなされています。

手術の適応は、CT画像を確認して「がんが取り切れる」と判断できた方となります。原則的にステージII(切除可能)までは手術が行われることが多く、ステージIII(切除可能境界から切除不能)は実施できるケースとできないケースに分かれます。

また、膵臓の手術は合併症の発生頻度が高く、消化器外科の手術の中でも難易度の高い手術です。耐術能(手術に耐えられるかどうか)に関しては、腫瘍臓器機能が保たれている(心臓、肺、脳機能など)ことが大切で、たとえば、階段を3階まで歩いて上がれるくらいの体力があれば、手術は受けられると考えられます。

膵頭十二指腸切除術

膵頭部に位置する腫瘍に対し行われます。膵頭部は十二指腸と接し、胆管(胆汁の排泄経路)が膵頭部を通っているため、膵頭部に加え、胃(の一部)、十二指腸、胆管、胆嚢、小腸(の一部)が切除されます。多くの血流が周囲に存在するため切除も難しく、多くの再建が必要となる(胃と小腸、膵と小腸、胆管と小腸、小腸と小腸)ため、難易度は高いです。特に膵と腸を吻合(ふんごう)する膵腸吻合は高度な縫合技術が必要であり、縫合不全(膵液漏(すいえきろう))の頻度も高くなっています。当院の場合、手術時間は5~7時間程度で、合併症の有無により、入院期間も3~5週間程度を要します。後遺症としても消化不良による栄養障害、脂肪肝、またインスリンの分泌低下により糖尿病になったり、増悪したりすることが予測されます。

膵体尾部切除術

膵体部、膵尾部に腫瘍が存在する場合に行われます。膵体部、膵尾部、脾臓(ひぞう)を摘出します。脾臓に流れる脾静脈、脾動脈は、膵がんに対し膵を切除する際に切離される血管であり、同時に切除されます。また、がんが転移しやすいリンパ節が脾門部(脾臓の周囲)に存在するため、こちらを切除するためにも脾摘は必要になります。膵体尾部切除では、再建が必要ないため、膵がんの手術の中では比較的難易度は低くなります。当院の場合、手術時間は2.5~4時間程度で入院期間は2~3週間程度です。後遺症は膵頭十二指腸切除と同様ですが、比較的軽度であることが多いです。脾臓を摘出することで、多血症になることがありますが、問題にはなりません。また、脾臓は免疫機能を有していると考えられており、感染症にかかったときに増悪することがあると報告されています。そのため、肺炎球菌抗原ワクチンを術後に接種することがすすめられています。

膵全摘術

膵頭部から膵体部にかけて広がる広範囲な腫瘍に対し施行されます。膵全体に加え、脾、胃(の一部)、十二指腸、胆管、胆嚢、小腸(の一部)が切除されます。これにより、再建が必要となり、胃と小腸、胆管と小腸、小腸と小腸を吻合します。難易度は高いですが、膵臓の再建がないため術後の縫合不全(膵液漏)のリスクがなく、術後経過は比較的良好である場合が多くなります。しかし、膵臓が全摘出されているため、消化液が分泌されなくなり、消化剤を多量に内服する必要があります。それでも、消化吸収障害から栄養障害を起こすことも多く、低栄養、脂肪肝などをきたすことも多いです。インスリンの分泌もなくなりますので、1日に4回のインスリンの皮下注射を生涯行わなければなりません。低血糖は脳障害を引き起こす危険な病態ですので、血糖値の自己測定の技術や、低血糖時の症状など多くの糖尿病に関する知識を勉強する必要があります。術後の短期間で手技が安定しないようであれば、療養施設などで練習してから自宅へ退院するなどが必要になることもあります。当院の場合、手術時間は6~8時間程度で、合併症の有無、インスリン、糖尿に関する勉強などの進行具合により、入院期間も4~6週間程度が必要です。

実際の手術の様子(1)
実際の手術の様子(1)
実際の手術の様子(2)
実際の手術の様子(2)

注意すべき術後合併症と対策

膵臓がんの手術でもっとも注意しなければならない合併症は膵液漏です。膵液漏とは、膵臓と腸の吻合部から膵液が漏れることであり、漏れ出た膵液が体に流れると、血管や周囲の組織を溶かして炎症や大出血を起こすことがあります。

膵液漏を防ぐための対策として、手術の際にドレーン(管)を設置して漏れた膵液を体外に排出することで、膵液が周囲の臓器に触れないようにしています。

村田先生:

化学療法には、手術が適応となる症例に対して術前・術後に一定期間抗がん剤を投与する“補助化学療法”と、手術の適応がない方に行われる“手術困難例*に対する化学療法”があります。

補助化学療法は、手術単独での根治性が十分でないことから、より根治性を高めるために開発されている治療法です。近年、術前化学療法や術後補助化学療法を行うことで、膵臓がんが治る患者さんが増えることが証明されています。当院でも、より根治性を高めるために術前治療+手術+術後治療を基本的におすすめしています。

一方で、手術困難例はがんの縮小ないし病勢制御を目標に化学療法を行います。使用する薬は患者さんの希望を尊重しつつ、年齢や全身状態、副作用のリスクなどを評価したうえで、治療計画や用法・用量を決定することにしています。当院はGnP療法(ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法)を選択することが多いですが、年齢が若い方にはmFOLFIRINOX療法を選択する場合もあります。一方で、高齢の方で体力や副作用などが心配な場合は、ゲムシタビンやS-1単独療法にとどめることもあります。

*局所進行切除不能膵臓がんおよび遠隔転移を伴う切除不能膵臓がん

中島先生:

手術後、限局してがんが再発した症例については放射線治療で進行の勢いを抑える効果が期待できるため、積極的に放射線治療を行います。また、膵臓に限局したがんであり切除が期待されるものの、全身状態が不良であったり、重度の持病があったりすることで、手術の危険が高く切除が受けられない場合にも放射線治療が選択される場合があります。これに対して、遠隔転移が起こっている場合は効果が望めないため、基本的には適応となりません。

村田先生:

中島先生のおっしゃるとおり、肝臓や肺などの臓器に遠隔転移がみられる症例に対して放射線治療は実施しませんが、例外的なものとして骨転移があります。骨転移による疼痛(とうつう)の緩和や、病的骨折などの予防・改善を目的とした放射線治療は有効性が確認されており、そういった患者さんに対しては希望があれば放射線治療を行っています。

また、膵臓がんの局所進行例の患者さんのうち、放射線治療の効果が期待できる場合は、抗がん剤治療との併用治療として提案させていただくこともあります。

村田先生:

がん剤による治療中は血液毒性(白血球などの血液成分が減ること)で免疫力が低下することも多いため、日常の感染予防は必須です。手洗い・うがい・マスクといった標準的な対策を心がけましょう。また、化学療法中は食欲や食事摂取量も低下する傾向にあります。「食べなければ」と頑張る患者さんもいらっしゃいますが、無理に食事をすることはかえってストレスに感じてしまう患者さんもおられます。そのため、基本的には好きなもの・食べたいものを、食べたいときに食べるようにしてください。

村田先生:

膵臓がんの早期発見のためには、地域ぐるみで取り組むことが大切です。かかりつけ医が定期健診やエコー検査を行い、異常所見があれば適切な医療機関に紹介し、速やかに精査を行うという流れを東大阪市が位置する中河内地域でも構築していきたいと考えています。CTやMRIだけでなくEUSを行うと早期診断の精度が上がるといわれているため、1人でも多くの消化器内科医がEUSのスキルを身につけることも今後の課題です。

中島先生:

現在、EUSの技術を持っている医師は多いとは言えない状況です。さらに現状のEUSは一般的な内視鏡に比べて太く検査時間もかかるので、患者さんにも負担がかかってしまいます。今後、EUSの担い手が増えて機械が改良されれば、EUSはより一般的な検査になっていく可能性があります。地域の医療機関でもEUSが受けられるようになれば、早期膵臓がんの診断精度が上がり、より多くの患者さんを早期発見・早期治療することができると考えています。

村田先生:

最近では遺伝子パネル検査に基づいたがんゲノム医療も保険下で実施可能となりました。遺伝子パネル検査とは、個々のがん細胞の遺伝子情報に基づき、その方に合う薬があるかどうかを調べる検査です。当院は国指定の地域がん診療連携拠点病院で、がんゲノム医療連携病院にも指定されており、臨床腫瘍科医のもとで治療・相談を受けていただくことが可能です。なお、遺伝子パネル検査を行うためには、十分な量の組織検体が必要となります。その際、なるべく患者さんに負担がかからない方法で多くの組織検体が得られるように、EUS-FNAをはじめとした生検手技・技術の向上を目指したいと考えています。

中島先生:

近年、膵臓がんに関連するさまざまな遺伝子が調べられています。膵臓がんに関連する一つひとつの遺伝子は全て抗がん剤になる可能性を秘めていますから、今後うまくいけば、現在使われている抗がん剤よりも効果が期待できる薬ができるかもしれません。そうすれば、進行膵臓がんに対する治療は大きく発展する可能性があります。

患者さんへのメッセージ

中島先生:

膵臓がんの手術は非常に大がかりで、術後の入院期間も長くかかります。そのため患者さんの中には、術前から気持ちが後ろ向きになってしまう方もいらっしゃいます。しかし、前向きに治療に取り組まないと手術を乗り切れず、病気を克服することも難しくなってしまいます。大変な手術ではありますが、治る可能性はあります。手術に備えてしっかりと体力と栄養をつけておき、一緒に手術を乗り切りましょう。

患者さんへのメッセージ

村田先生:

膵臓がんを少しでも早く見つけるためには、一人ひとりが“自分の体を自分で守る”という意識を持つことが大事です。特に、家族歴がある方や、糖尿病慢性膵炎・IPMNなどのリスクファクターを持つ方は、かかりつけ医や人間ドックで定期的に腹部エコーないしCT検査を受けていただき、異常があれば膵臓がん診療の経験と実績がある病院を受診することをおすすめします。肥満や過度の飲酒も要注意です。一人ひとりが膵臓がんに関する正しい知識を持ち、そしてセルフモニタリングをすることが、膵臓がんの早期発見につながるのではないかと思います。

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  • 市立東大阪医療センター 消化器外科 肝胆膵疾患 主任医長

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