概要
多血症とは、血液中の赤血球と呼ばれる細胞の濃度が高くなる病気です。
私たちの血液は“血漿”と呼ばれる液体成分と赤血球・白血球・血小板などの細胞からできています。多血症は、脱水などによって血漿の量が減るために赤血球の濃度が高くなる“相対的多血症”と、実際に赤血球の産生量が多くなる“絶対的多血症”に分けられ、多血症の多くは相対的多血症とされています。
多血症になると、血液の粘性が高くなるため血流が悪くなり、頭痛、めまい、耳鳴りなどの症状が引き起こされ、また、血液が固まりやすくなることで血栓症のリスクも高くなるとされています。
原因
多血症は血液中の赤血球の濃度が高くなることによって引き起こされる病気です。多血症は“相対的多血症”と“絶対的多血症”の2つのタイプに大きく分けられ、それぞれ以下のように原因が大きく異なります。
相対的多血症
血液中の血漿と呼ばれる液体が少なくなり、赤血球の数自体は変わらないものの相対的に赤血球の濃度が高くなるタイプの多血症です。主な原因は下痢、嘔吐、大量の発汗などで体の中の水分が失われて血漿が減少することとされています。
一方で、相対的多血症の中には、喫煙習慣やアルコール摂取、精神的なストレスが誘因となって明らかな脱水などがないにもかかわらず多血症になる“ストレス多血症”と呼ばれるものも知られています。
絶対的多血症
赤血球の産生量が実際に増えることで濃度が高くなるタイプの多血症です。
絶対的多血症は、赤血球の産生が制御されず次々と産生されていく骨髄増殖性疾患に分類される“真性多血症”と、ほかの原因によって赤血球の産生が促される“二次性多血症”に分けられます。
真性多血症の原因は、JAK2と呼ばれる遺伝子の変異によるものが大半であるとされています。一方、二次性多血症の原因は多岐にわたります。赤血球は全身に酸素を運搬するはたらきがあるため、肺の病気や過度な喫煙習慣、高地での居住などにより慢性的に体内の酸素が不足することによって過剰に産生されるようになります。また、赤血球はエリスロポエチンと呼ばれるホルモンのはたらきで産生が促されるため、エリスロポエチンを産生する腫瘍や腎臓の病気が原因で二次性多血症を引き起こすこともあります。
症状
多血症は赤血球の濃度が上昇することで血液の粘性が高まり、血行の悪化を引き起こします。その結果、脱力感、疲労感、頭痛、頭重感、ふらつきなどを引き起こし、耳鳴り、めまい、視界の歪みなどの感覚器症状がみられます。
また、赤ら顔、目や口の粘膜の充血などがみられることも多く、真性多血症では皮膚のかゆみや集中力の低下がみられるようになり、70%の割合で肝脾腫(肝臓や脾臓が腫れる)を起こすのも特徴の1つです。一方で自覚症状のないケースもあり、健康診断などで偶然発見されることもあります。
多血症が進行すると血液が固まりやすくなるため、血管の中に血栓(小さな血の塊)ができて心筋梗塞、脳梗塞、肺塞栓症など命に関わる病気を引き起こすリスクも高くなります。
なお、真性多血症はまれに白血病へ移行するケースもあるため注意が必要です。
検査・診断
多血症は健康診断などで偶然発見されることが多い病気ですが、発症が疑われる場合は必要に応じて次のような検査を行います。
血液検査
赤血球の数やエリスロポエチン濃度、貧血の有無などを評価するため血液検査が行われます。真性多血症は赤血球以外にも白血球や血小板などの血液中の細胞も増えることが多いため、多血症のタイプを鑑別する手がかりとなることもあります。
骨髄検査
赤血球の異常な増殖を引き起こし得る骨髄の病気との鑑別のため、骨髄を採取して顕微鏡で詳しく観察する検査を行うことがあります。
遺伝子検査
真性多血症の大半はJAK2遺伝子の変異によって引き起こされることが分かっています。そのため、真性多血症の診断するために遺伝子検査を行うことがあります。
画像検査
多血症は進行すると脳梗塞や肺塞栓症、心筋梗塞などの病気を引き起こすことがあります。また、腎臓の腫瘍などが原因で発症することもあるため、合併症の評価や発症原因を調べるためにX線、CT、MRI、超音波などの画像検査が必要になることあります。
治療
多血症の治療は発症原因によって大きく異なります。
相対的多血症の場合は、適正な水分補給などをすることで改善していくことがほとんどです。
絶対的多血症の中でも真性多血症は、血液を体内から抜き取る“瀉血治療”が行われますが、効果が不十分な場合には抗がん剤などを用いた薬物療法が行われます。また、血栓症を予防するための抗血小板薬や皮膚のかゆみを改善するための抗ヒスタミン薬などを用いた対症療法が必要になることもあります。
それに対して二次性多血症は、赤血球の増加を引き起こしている原因を改善することが必要です。具体的には原因となる肺や心臓の病気の治療、禁煙、エリスロポエチンを産生する腫瘍の切除などが挙げられます。
予防
多血症の原因はさまざまであるため、発症を予防できるタイプとできないタイプがあります。
相対的多血症は、脱水やストレス、喫煙習慣などが原因で引き起こされるため、発症を予防するには生活習慣の改善が必要です。
絶対的多血症の中でも遺伝子変異によって引き起こされる真性多血症は現在のところ詳しい原因が解明されていないため、予防も難しいとされています。一方、何らかの原因で赤血球が過剰に産生されるようになって引き起こされる二次性多血症は禁煙や居住場所の変更、赤血球の過剰生産の原因となっている肺や心臓の病気の治療などを行うことで予防することが可能です。
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