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食道がんの治療と手術――合併症を予防する方法とは?

食道がんの治療と手術――合併症を予防する方法とは?
山田 和彦 先生

国立国際医療研究センター病院 食道胃外科 医長

山田 和彦 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年01月11日です。

食道がんは、早期の場合、自覚症状がほぼないため発見が比較的難しいがんの1つです。多くの場合、通過障害、体重減少や嗄声(させい)(声がかすれる)などが出現したことで医療機関を受診し、診断されたときには進行がんであることが多いという特徴があります。

また、食道がんの手術は術後に合併症を引き起こしやすいがんという難しさもあります。 

食道がんの治療に長年取り組んでこられた国立国際医療研究センター病院の食道外科医長である山田和彦先生に、食道がんの主な治療法と合併症についてお話を伺いました。

食道は、喉(咽頭(いんとう))と胃の間をつなぐ長さ25cm、太さ2~3cm、厚さ4mmほどの管状の臓器で、口から食べた食物を胃に送る管としてのはたらきをしています。食物を飲み込むと、筋肉でできた食道の壁が動き、胃に食べ物を送り込みます。

食道の位置

食道の位置

食道は食べ物が通りやすいよう内側が粘膜で覆われていますが、食道がんはこの粘膜の上皮から発生します。また、日本人の食道がんの約半数は食道の真ん中あたり(胸部中部食道といいます)から発生し、約4分の1は食道の下部に発生します。

食道粘膜

食道粘膜の断面図

食道がんは、早期の場合、自覚症状がほぼないため発見が比較的難しく、人間ドックや会社の健診などで指摘されることが多いようです。多くの場合、通過障害、体重減少や嗄声などが出現したことで医療機関を受診し、診断されたときにはすでにリンパ節転移をきたしていることが多く、進行がんになりやすいという特徴があります。

腫瘍(しゅよう)が食道の内腔の6割ほどを占めるようになって、はじめて通過障害の症状が出るといわれています。

がんが進行した際の具体的な自覚症状としては、以下のものが挙げられます。

  • 食事をした際に以前にはなかった詰まり感を感じる
  • 胸焼けが気になる
  • 声がかすれる

また、喫煙や飲酒を習慣化している方は食道がんになりやすいといわれており、注意が必要です。該当する方は年に1度は内視鏡検査を受けることをおすすめします。特に50歳を超えている方は、要注意です。また、お酒を飲むと顔が赤くなることをフラッシング反応といいますが、そのような方も食道がんになりやすいという特徴があるため、定期的に検査を受けたほうがよいでしょう。

食道がんの治療法は、ステージごとにある程度確立されています。

食道がんのステージと状態

ステージI

がんが粘膜または粘膜下層に留まっており、転移はしていない(Ia期)。がんが発生した付近のリンパ節にわずかに転移が見られる(Ib期)。

ステージII

がんが筋層を超え深く進行している状態。食道の外側にわずかに出ている。食道付近のリンパ節にのみ転移が見られる。

ステージIII

がんが深く進行しており、食道の外側に大きく出ている。食道から離れた場所に位置するリンパ節にも転移が見られる。

ステージIV

がんが食道周囲、または離れた臓器や組織にも転移している。胸膜・腹膜への転移が見られる。

ステージIでは手術、もしくは放射線照射と抗がん剤を併用する放射線化学療法が治療の第一選択になりますが、どちらが効果的かについてはまだ答えが出ていません。当院では、基本的には手術をおすすめしています。手術であれば患者さんの病気の状況がはっきりと分かり、より効果的な治療をすることが可能だからです。治療前にステージIと診断していたがんが実はIIだったというようなことはしばしばありますし、患者さんの状態が正確に分かることは、その後の治療において非常に有用です。

問題は手術のリスクです。手術を受けた患者さんのうち2〜3%は亡くなる可能性があります。手術のリスクを軽減するために、ステージIbからIIIにかけては、術前に抗がん剤を用いる化学療法を実施しています。手術前に抗がん剤の治療を行い、その後手術をする方法がもっとも成功率が高いということが分かってきており、最初から手術をすることはほとんどありません。

また、患者さんが手術を希望されない場合は、放射線化学療法でも十分対処できます。手術にしても放射線化学療法にしても100%治ることは難しいので、検査の数値などから病気の状況を患者さんと共有し、十分納得していただいてから治療するようにしています。

ステージIVまで進行してしまった患者さんへの治療法は、抗がん剤と放射線照射を併用する放射線化学療法、もしくは抗がん剤を用いる化学療法です。ステージIVで手術をすることはほぼありません。治療の途中でその効果を一度評価させていただきますが、評価の結果、たとえばステージIVがⅢになったというように、回復が見られダウンステージが認められた患者さんには手術をおすすめすることもあります。

また、ステージIVの食道がんでは、腫瘍で食道が塞がれてしまい食べ物が通りづらくなります。手術によってがんを取り除くことができない、かつ、食事もできない患者さんには、食道バイパス手術を実施することがあります。バイパス手術とは、塞がれている食道はそのままにしながら、別に食べ物の通り道をつくることです。これは食道がん自体の治療ではなく、食事を可能にするための対症療法といえます。バイパス手術の技術自体はかなり進歩しており、危険性もずいぶん減ってきています。

食道がんは合併症を起こしやすい病気で、約4割の患者さんが何らかの合併症を起こすといわれています。なかでも割合が高く、注意が必要な合併症が肺炎です。

マスクをした患者さん

肺炎をきっかけに炎症が全身に広がってしまうと、敗血症に罹患することもあり、最終的には複数の臓器の機能が連鎖的に低下する多臓器不全になることもあります。食道がんになる患者さんが肺炎を起こしやすいのは、もともと喫煙をしていた方が多いという背景があり、肺炎を一度起こすと治るまでに3週間ほどの期間を要します。そのため、肺炎を未然に予防すること、また罹患した場合は早期に治療することが重要です。

縫合不全といって、手術後につなぎ目のトラブルを起こす患者さんも少なくありません。食道がんの手術では、食道を切除した後で胃を持ち上げ、残った食道をつなげます。これを吻合(ふんごう)部といいます。縫合不全は、吻合の一部につながりの不完全な部分ができることから起こります。多くは創部を開けたり(ドレナージといいます)、栄養管理をしたりすれば治ります。

合併症は栄養状態が悪い方に起こりやすく、合併症を防ぐためには、しっかりと栄養を管理することが重要です。特に体重の減少は肺炎につながってしまいますので、術前も術後もなるべく体重を落とさないよう注意が必要となります。

体重計

また、縫合不全は血糖が高い患者さんに起こりやすいことが分かっているので、血糖のコントロールも重要です。

記事2『食道がんの治療におけるチーム医療の実際』で詳細をお話ししますが、私たちは栄養療法に力を入れており、看護師や栄養士とともに患者さんの栄養状態をよくする取り組みをしています。

先ほどご説明したように術前や術後に体重の減少を防ぐ必要がありますが、その手法の1つが腸ろうからの栄養管理です。腸ろうとは、腸に小さな穴を開けて管を通し、そこから栄養を直接入れる方法です。腸ろうの実施期間は患者さんの症状によりさまざまで、体重の減少が落ち着き、腸ろうがなくても問題がないと判断した場合に使用をやめます。

先ほど縫合不全の例をご紹介しましたが、一般的に血糖値が高いと免疫力が下がるため、合併症を起こしやすいといわれています。糖尿病は血糖値が上がる病気ですが、たとえ糖尿病でなくても、ストレスがかかると血糖値は上がります。高血糖に効果的な治療は血糖を下げる効果のあるインスリンの投与です。インスリンで血糖をコントロールできれば、合併症のリスクを抑えることができます。当院では人工膵臓(じんこうすいぞう)という機器を用いて術後の血糖管理に役立てています。

検査

食道がんを患った方は、ほかのがんになりやすいという特徴があります。特に喉のがんである咽頭(いんとう)がんや喉頭(こうとう)がんになる方が多いといわれています。逆に咽頭がん喉頭がんの患者さんが食道がんになることも多く、互いに併発しやすいといえます。そのため、食道がんを経験した患者さんは喉のがんの検査を定期的に受ける必要があります。早期に発見できれば、患者さんの体への負担が少ない内視鏡治療で治療を終わらせることができます。ほかにも、食道がんを患った方が罹患しやすいといわれている胃がん大腸がん肺がん前立腺がんの検査を定期的に受けるとよいでしょう。

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  • 国立国際医療研究センター病院 食道胃外科 医長

    山田 和彦 先生

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