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食道がんの治療におけるチーム医療の実際

食道がんの治療におけるチーム医療の実際
山田 和彦 先生

国立国際医療研究センター病院 食道胃外科 医長

山田 和彦 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年01月11日です。

食道がんは、がんの中でも合併症を引き起こしやすいという特徴があります。記事1『食道がんの治療と手術――合併症を予防する方法とは?』では、合併症を予防する方法をいくつかご紹介しました。

手術の侵襲(体への負担)が大きく、かつ、術後に合併症を伴いやすい食道がんの治療には、チーム医療が有効といわれています。国立国際医療研究センター病院では、栄養士や歯科とともにチームで治療に取り組む「チームスクラム(SCRUM)」をはじめ、院内の多職種とのさまざまな連携を実現しています。チーム医療の実際について、引き続き国立国際医療研究センター病院の食道外科医長である山田和彦先生にお話しいただきました。

食道がんがんの中でも合併症を引き起こしやすいことを記事1でお話しさせていただきましたが、その中でもたとえば、術前からの歯科の介入や栄養管理が術後の合併症を減少させることが報告されてきました。合併症を軽減させるための私たちの取り組みが、多職種を含めたチーム医療です。そこでは、内科や歯科との連携をはじめ、リハビリテーションを担当する理学療法士や栄養士との連携を実現しています。

チーム医療の一環として、「チームスクラム」という名の周術期管理チームを立ち上げました。これは「さまざまな職種のスタッフがチームになって、手術を受ける患者さんに快適で安全な手術と周術期(術前から術後まで)の環境を効率的に提供しよう」というコンセプトでつくられたものです。チームスクラムでは、術前評価・術前教育・術後管理に取り組んでいます。

 

チームスクラム

チームスクラムの構成

チームスクラムの特徴は、医師や看護師だけでなく、チームのメンバーの中に栄養士や理学療法士、歯科部門までが参加している点です。

チームスクラムが誕生した背景には、食道がんの患者さんには高齢の方が多く、糖尿病高血圧などの全身疾患の方が多数いらっしゃることがあります。そもそも全身疾患の患者さんの場合、個々の分野を担当するスタッフだけでは治療が難しく、さまざまな分野のスタッフが連携して取り組むことが有効だと分かっていました。一方、医療の現場では横のつながりが薄く、連携が難しいという現状がありました。そこに病院主導でチーム医療を導入することで、多職種で連携をしながらの治療が実現しました。

カンファレンス

チーム治療の実践のため、栄養士や理学療法士・歯科部門までがカンファレンスに参加し、情報を共有するようにしています。患者さんの状態や治療法を皆で共有し、ともに意見を出し合いながら計画を立てています。また、手術の日程が決まると電子カルテに必ず記録をつけ、チーム全員がいつでも情報を確認できるようにしています。

食道がんの患者さんには高齢であったり、アルコールを多飲されてきた方が多く、術後せん妄になる患者さんが多いという特徴があります。術後せん妄とは、手術をきっかけにして起こる精神障害の1つであり、手術を受けた翌日以降に、急激に錯乱、幻覚、妄想状態を起こすことをいいます。

せん妄になり、手術の後にご自分が置かれている状態が分からなく暴れてしまう患者さんも少なくありません。そこで私たちは、せん妄のことを手術の前からきちんとお話しするようにしています。また予防的に薬剤を使用したり、手術後は少し頭が混乱した感じになるけれど、そういうものだと事前にお伝えします。ご自分の状況をあらかじめ把握しておけば、ひどい錯乱状態になるのを防ぐことができます。

食道がんの治療には栄養療法が有効です。そこで、栄養士が中心となって患者さんの栄養を管理しています。食べ物からだけでなく、缶に入った栄養剤などいろいろなものがあるので、患者さんの状態に合わせてよりよい栄養状態になるようご提案しています。当院では栄養士が患者さんと積極的に関わりを持ち、治療に参加するようにしています。

栄養士

 

近年、食道がんの手術の前に歯科のクリーニングをしておくと、術後、肺炎に罹患しにくいことが分かってきました。肺炎は食道がんの患者さんにもっとも多い合併症です。高齢の方の場合は死に至ることもある恐ろしい病気なので、肺炎の防止は大きな課題です。チームスクラムでは歯科と連携を取り、術前の歯科クリーニングを治療メニューに組み込んでいます。術後も早々に歯科のチームに介入してもらい、治療を継続しています。

食道がんの患者さんにとって、手術後のリハビリは大きな課題です。手術後は筋肉量が減少することで歩くことさえもつらくなったり、また飲み込みが悪くなったり、声がかすれたりするなどの症状が出現することも少なくありません。そこで、リハビリを担当する理学療法士や栄養士が中心となって、声を出すリハビリや飲み込むリハビリを実施しています。手術後に腸ろうを使用する患者さんも多いので、その状態に慣れるためのリハビリが必要な場合もあります。たとえば手術後の食事を患者さんの症状に合わせてとろみがあるものにするなど、さまざまな工夫を行っています。また、リハビリを担当する理学療法士が手術前に患者さんと接する機会を設けるなど、手術後のリハビリに抵抗なく入っていただけるよう工夫をしています。

理学療法士とリハビリをする患者さん

 

糖尿病を併発している食道がんの患者さんは縫合不全になる方が多いといわれています。たとえ糖尿病でなかったとしても、ストレスがかかると血糖値が上がり合併症を起こしやすいといわれています。この場合、効果的な治療法は血糖値を下げる効果のあるインスリンの投与です。インスリンでコントロールすることができれば、合併症のリスクがそこまで増えることはありません。

人工膵臓という透析のような機械が2016年の4月から保険適用されるようになりました。リアルタイムで血液から血糖を調べ、インスリンを入れることができる機械です。人の手による検査の場合、人的なミスが発生することがあります。数値を間違えて投与するインスリンの量を誤ってしまうと、高血糖が続いたり、逆に低血糖になり過ぎたりすることも考えられます。ある程度機械に任せることで、人的なミスを防ぐことができます。私たちはこの人工膵臓による血糖のコントロールにもチームで取り組んでいます。

チームスクラムとは別になりますが、私たちは精神疾患や特殊な感染症(結核やHIV)を有する患者さんの食道がん治療も受け入れています。当院の強みは、各分野を専門とする医師や他科との連携です。たとえば結核の患者さんは、結核を専門とする医師と連携を取り、薬を飲んでもらい回復が認められてから治療をしています。精神科を担当する医師と連携を取り、精神疾患を持つ患者さんの治療にあたることもあります。

このように治療が困難な症例の場合、入院期間が通常の2倍かかるなど治療には長い時間を要します。しかし、各分野を専門とするスタッフと連携し、少しでもよい治療方法を模索するようにしています。

また、退院後に直接自宅に帰るのが難しい場合や、かかりつけ医の応援を頼みたいときには、当院の医療連携チームが間に入り、迅速に調整をしています。現在、さまざまな家族関係の形がありますが、身寄りのない患者さんにも対応しています。

繰り返しになりますが、食道がんは進行がんで発見されることが多いため治療が難しく、俗に「治らないがん」といわれてきましたが、治療法や栄養管理の改善などにより、十分に治りうるがんの1つになりつつあります。

今後チームで実施を予定しているイベントの1つが、食道がんの手術を受けた患者さんの患者教室です。食道がんの患者さんは少なからず不安を抱えています。手術を受けた後の食事が困難になり、悩みを抱える方もいらっしゃいます。私たちは、そんな患者さんの不安や悩みを解消できる場所をつくりたいと考えています。

山田先生

医師や看護師への相談はもちろんのこと、食事のことを栄養士に尋ねることができたり、リハビリのことを理学療法士に気軽に相談できるような場をつくれば患者さん同士のネットワークをつくる機会としても効果的だと思います。私たちが取り組むチーム医療はまだ始まったばかりです。今後も皆で連携を取り、よりよい治療を患者さんへ提供していきたいと考えています。

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  • 国立国際医療研究センター病院 食道胃外科 医長

    山田 和彦 先生

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