Medical Noteとは

食道がんの治療におけるチーム医療の実際(東京都新宿区)

  • #消化器(食道・胃・腸)の病気
  • #がん・腫瘍
  • タイアップ
  • 公開日:2017/01/11
  • 更新日:2017/01/25
食道がんの治療におけるチーム医療の実際(東京都新宿区)

食道がんは、がんの中でも合併症を引き起こしやすいという特徴があります。記事1『食道がんの治療と手術-合併症を予防する方法とは?』では、合併症を予防するために有効な治療法をいくつかご紹介しました。

手術の侵襲が大きく、かつ、術後に合併症を伴いやすい食道がんの治療には、チーム医療が有効と言われています。国立国際医療研究センター病院では、栄養士や歯科とともにチームで治療に取り組む「チームスクラム(SCRUM)」をはじめ、院内の多職種とのさまざまな連携を実現しています。チーム医療の実際について、引き続き国立国際医療研究センター病院の食道外科医長である山田和彦先生にお話いただきました。

食道がんの治療にはなぜ連携が有効なのか?

食道がんはがんの中でも合併症を引き起こしやすいことを記事1でお話させていただきましたが、その中でも例えば、術前からの歯科の介入や栄養管理が術後の合併症を減少させることが報告されてきました。合併症を軽減させるための私たちの取り組みが多職種を含めたチーム医療です。そこでは、内科や歯科との連携をはじめ、リハビリを担当する理学療法士や栄養士との連携を実現しています。私たちもまだ始めたばかりですが、チームで治療に取り組むことで患者さんの合併症が減り、在院日数の削減につながっているという実績があります。

周術期管理チーム「チームスクラム(SCRUM)」とは?

チーム医療の一環として、「チームスクラム(SCRUM)」という名の周術期管理チームを立ち上げました。これは「さまざまな職種のスタッフがチームになって、手術を受ける患者さんに快適で安全な手術と周術期(術前から術後まで)の環境を効率的に提供しよう」というコンセプトでつくられたものです。チームスクラムでは、術前評価・術前教育・術後管理に取り組んでいます。

 

チームスクラム
チームスクラム(SCRUM)の構成

チームスクラムの特徴は、医師や看護師だけでなく、チームのメンバーの中に栄養士や理学療法士、歯科部門までが参加している点です。

チームスクラムが誕生した背景には、食道がんの患者さんには高齢者が多く、糖尿病や高血圧などの全身病の方が多数いらっしゃることがあります。そもそも全身病の患者さんの場合、個々の専門家だけでは治療が難しく、さまざまな分野のスタッフが連携して取り組むことが有効だとわかっていました。一方、医療の現場では横のつながりが薄く、連携が難しいという現状がありました。そこに病院主導でチーム医療を導入することで、多職種で連携をしながらの治療が実現しました。

チーム全員が参加するカンファレンスで患者さんの情報を共有

カンファレンス

チーム治療の実践のため、栄養士や理学療法士・歯科部門までがカンファレンスに参加し、情報を共有するようにしています。患者さんの状態や治療法を皆で共有し、ともに意見を出し計画を立てています。また、手術の日程が決まると電子カルテに必ず記録をつけ、チーム全員がいつでも情報を確認できるようにしています。

チームスクラムの取り組み

手術前の教育でせん妄の減少に成功

食道がんの患者さんには高齢であったり、アルコールを多飲されてきた方が多く、術後せん妄になる患者さんが多い特徴があります。術後せん妄とは、手術をきっかけにして起こる精神障害のひとつであり、手術を受けて数日後に、急激に錯乱、幻覚、妄想状態を起こすことを言います。

せん妄になり、手術の後に自分が置かれている状態がわからなくなり暴れてしまう患者さんも少なくありません。そこで私たちは、せん妄のことを手術の前からきちんとお話するようにしています。また予防的に薬剤を使用したり、手術後は少し変な感じになるけれど、そういうものだと事前にお伝えします。自分の状況をあらかじめ把握しておけば、ひどい錯乱状態になるのを防ぐことができます。

栄養士が積極的に治療に参加

記事1『食道がんの治療と手術-合併症を予防する方法とは?』でもお話ししましたが、食道がんの治療には栄養療法が有効です。そこで、栄養士が中心となって患者さんの栄養を管理しています。食べ物からだけでなく、缶で服用する栄養剤などいろいろなものがあるので、患者さんの状態に合わせよりよい栄養状態になるようご提案しています。私たちの病院では栄養士が患者さんと積極的に関わりを持ち、治療に参加するようにしています。

栄養士

 

術前の歯科クリーニングで肺炎を防止

近年、食道がんの手術の前に歯科のクリーニングをしておくと、術後、肺炎に罹患しにくいことがわかってきました。記事1『食道がんの治療と手術-合併症を予防する方法とは?』でお話したように、肺炎は食道がんの患者さんが最も引き起こしやすい合併症です。高齢の方の場合は死に至ることもある恐ろしい病気なので、肺炎の防止は大きな課題です。私たちのチームでは歯科と連携をとり、術前の歯科クリーニングを治療メニューに組み込んでいます。もちろん、術後早々に歯科のチームにも介入していただき、治療を継続しています。

リハビリへの取り組み

食道がんの患者さんにとって、手術後のリハビリは大きな課題です。手術後は筋肉量が減少することで歩くことさえも辛くなったり、また飲み込みが悪くなったり、声がかすれるなどの症状が出現することが少なくありません。そこで、リハビリを担当する理学療法士や栄養士が中心となって、声を出すリハビリや飲み込むリハビリを実施しています。手術後に腸ろうを入れる患者さんも多いので、その状態に慣れるためのリハビリが必要な場合もあります。たとえば手術後の食事を患者さんの症状に合わせてとろみがあるものにするなど、さまざまな工夫を行っています。また、リハビリを担当する理学療法士が手術前に患者さんと接する機会を設けるなど、手術後のリハビリに抵抗なく入っていただけるよう工夫をしています。

理学療法士とリハビリをする患者さん

 

人工膵臓の採用

記事1『食道がんの治療と手術-合併症を予防する方法とは?』でお話したように、糖尿病を併発している食道がんの患者さんは縫合不全になる方が多いといわれています。たとえ糖尿病でなかったとしても、ストレスがかかると血糖値が上がり合併症を起こしやすいといわれています。この場合、効果的な治療法は血糖値を下げる効果のあるインスリンの投与です。インスリンでコントロールすることができれば、合併症がそこまで増えることはありません。

人工膵臓という透析のような機械が2016年の4月から保険適用されるようになりました。リアルタイムで血液から血糖を調べ、インスリンを入れることができる機械です。人の手による検査の場合、人的なミスが発生することがあります。数値を間違えて投与するインスリンの量を誤ってしまうと、高血糖になり過ぎたり、逆に低血糖になり過ぎたりすることも考えられます。ある程度機械に任せることで、人的なミスを防ぐことができます。私たちはこの人工膵臓による血糖のコントロールにもチームで取り組んでいます。

治療が困難な症例にもチームで対応!

チームスクラムとは別になりますが、私たちは精神疾患や特殊な感染症(結核やHIV)を有する患者さんの食道がん治療も受け入れています。私たちの病院の強みは、専門医や他科との連携です。たとえば結核の患者さんは、結核の専門医と連携をとり、薬を飲んでもらい回復が認められてから治療をしています。精神科の医師と連携をとり、精神疾患を持つ患者さんの治療にあたることもあります。

このように治療が困難な症例の場合、入院期間が通常の2倍かかるなど治療には長い時間を要します。しかし、私たちを頼ってここに来てくださった患者さんには、全力で手を尽くします。そこに可能性があれば、さまざまな専門家と連携し、少しでもよい治療方法を模索するようにしています。

また、自宅に直接退院するのが難しい場合や、かかりつけ医の応援を頼みたい時には、当院の医療連携チームが間に入り、迅速に調整をしています。現在、様々な家族関係の形がありますが、身寄りがいない患者様にも十分に対応ができます。

今後の展望

繰り返しになりますが、食道がんは進行がんで発見されることが多いため治療が難しく、俗に「治らないがん」といわれてきましたが、治療法や管理の改善などにより、十分に治りうるがんの1つになりつつあります。

今後チームで実施を予定しているイベントのひとつが、食道がんの手術を受けた患者さんの患者教室です。食道がんの患者さんは少なからず不安を抱えています。手術を受けたあとの食事が困難になり、悩みを抱える方もいらっしゃいます。私たちは、そんな患者さんの不安や悩みを解消できる場所を作りたいと考えています。

山田先生

医師や看護師への相談はもちろんのこと、食事のことを栄養士に尋ねることができたり、リハビリのことを理学療法士に気軽に相談できるような場をつくれば患者さん同士のネットワークをつくる機会としても効果的だと思います。私たちが取り組むチーム医療はまだ始まったばかりです。今後も皆で連携をとり、よりより治療を患者さんへ提供していきたいと考えています。

 

山田 和彦

山田 和彦先生

国立国際医療研究センター病院 食道外科医長

がん専門病院での多くの症例の経験を生かし診断や治療に関してチームでの医療を導入し、各々の患者さんの状況に合わせた治療を実践している。

関連する記事