概要
透析とは“透析療法”のことで、腎臓の機能が低下した場合に、その機能を人工的に置き換える治療のことです。血液透析と腹膜透析の2つの治療法があります。
腎臓は体内の水分やナトリウム、カリウムなどのミネラルの量を調節して体液の量や濃度を一定に保つはたらきや、老廃物を体の外に排泄するはたらきを持っています。腎機能が低下した状態を腎不全と呼びますが、腎不全が進行すると尿毒症と呼ばれる状態を引き起こし、放置すると命に関わる事態となります。現代の医学では、腎移植を行わない限り一度失われた腎機能を回復させることはできません。透析は低下した腎機能を代替する療法で、腎不全患者さんにとってなくてはならない治療であるといえます。
2019年の調査では、日本の透析患者数は約34万人であり、366人に1人が透析を受けているといわれています。
目的・効果
腎臓の機能のほとんどが消失した末期腎不全や急性腎障害などの腎疾患に対して、腎臓の機能を代替することを目的とした治療です。腎臓の機能を回復させるための治療ではないため、病気の治癒を期待するものではありません。
種類
透析には血液透析と腹膜透析の2種類があります。
血液透析
血液を体外に循環させ、ダイアライザーと呼ばれる透析膜を介して余分な水や老廃物を除去する方法です。ダイアライザーには透析液と、水分と小さな物質のみを通す膜(半透膜)が設置されており、余分な水や老廃物を除去して、必要な電解質などを補充することができます。通常、透析が受けられる医療機関に週3回通院し、1回4~5時間の治療を受けます。また、通院治療のほかに自宅に透析装置を設置する在宅血液透析もあります。
腎臓の機能を代行する腎代替療法の中ではもっとも普及した治療法で、日本では透析患者の96.5%が血液透析を受けているともいわれています(2015年末時点)。
腹膜透析
自分の体の腹膜を透析の装置として用いる方法です。腹膜は胃や腸などを覆う膜状の組織で、お腹の中に透析液を入れておくことで腹膜を通して過剰な水分や不要な老廃物などを透析液に移動させることができます。透析液が入ったバックを1日に3~4回交換する方法(CAPD:continuous ambulatory peritoneal dialysis:持続携行式腹膜透析)と寝ている間に機械を使って自動的に腹膜透析を行う方法(APD:automated peritoneal dialysis:自動腹膜透析)があります。基本的には自宅で治療を続け、月1、2回程度通院します。
腹膜透析を長く続けることで被嚢性腹膜硬化症と呼ばれる合併症のリスクが高くなるため、一般的には腹膜透析を始めてから8年程度で血液透析や腎移植を検討します。しかし、血液透析に比べて通院が少なくて済むことや、腎臓の機能を長く残すことができるメリットがあり、若年で透析治療が必要になったときには、学業や就労などへの影響が少ない治療法です。
また、週3回の通院が困難であったり、心血管系合併症のため血液透析が選択しづらかったりする患者さんは、自宅で緩徐に行う腹膜透析が合っている場合があります。高齢で食事量が少ない患者さんは、腹膜から吸収されるブドウ糖がカロリー補充というメリットになることもあります。
そのほか、血液透析の長期化や加齢に伴う血管系の合併症やシャントの血管不足などで血液透析での透析が困難になったり、週3回の通院が困難になったりするなど、血液透析療法を続けることが患者さんや家族の生活の質(QOL)の低下につながることがあります。透析医療の人生の最終段階における医療(終末期医療)*の1つの手段として、柔軟性が高く身体的負担の少ない腹膜透析を選択する場合もあります。
*平成27年3月に厚生労働省 検討会において終末期医療から名称変更
リスク
血液透析と腹膜透析のいずれも合併症のリスクがあり、主に以下のものがあります。
血液透析の合併症
血液透析では血液を一時的に体の外に循環させる必要があるため、それに伴う合併症が現れやすくなります。
血圧変動
体内を循環する血液量が一時的に低下するため、血液透析中は血圧が低下しやすくなります。血圧低下により、あくび、倦怠感、吐き気などの症状が現れることがあり、程度が著しくなるとショック状態になることもあります。事前に血圧低下を予防する薬を使用することもあります。
出血傾向
体外に出た血液が固まるのを防ぐため、血液透析中は血液を固まらないようにする抗凝固剤と呼ばれる薬を使用します。そのため、治療中は出血しやすくなることがあります。
不均衡症候群
透析を始めて間もない頃は、透析によって急激に体内環境が変化するため、透析中や透析後に頭痛や吐き気などの症状が現れやすくなります。通常、2~3回程度透析を経験することで症状はなくなります。
アレルギー
透析治療に用いる透析膜(ダイアライザー)や薬剤に対するアレルギーが現れる場合があります。アレルギー症状はかゆみや発熱などが多いですが、まれに呼吸困難や著しい血圧の低下などの重篤な症状が現れることもあります。
シャントのトラブル
血液透析では透析膜(ダイアライザー)に大量の血液を流す必要があるため、腕に動脈と静脈をつないだ血管(シャント)を造り流量を確保します。シャントの形成によって、血管の狭窄や閉塞が発生することがあるため、シャントの音を毎日確認し良好に流れているかを確かめます。
そのほかの合併症
上記のほかに、動脈硬化による心疾患、二次性副甲状腺機能亢進症による骨疾患、アミロイドと呼ばれる物質が蓄積すること(透析アミロイドーシス)による手根管症候群や破壊性脊椎症などが現れることがあります。これらの合併症は、透析治療が長期にわたることで起こりやすくなります。
腹膜透析の合併症
腹膜透析では、お腹の中にカテーテルを留置して透析液を流し込むため、それに伴う合併症が現れやすくなります。
腹膜炎
腹膜透析でもっとも注意すべき合併症の1つです。カテーテルから細菌が混入し、腹膜に感染します。腹痛、吐き気、発熱などの症状のほか、排液のにごりが見られます。
カテーテルのトラブル
お腹の中に留置したカテーテルが動いてしまうことで、腹痛や排液不良が起こることがあります。また、カテーテルがつまってしまい、腹膜透析を続けられないこともあります。カテーテルの出口部や、カテーテルの周囲に感染を起こすこともあります。
被嚢性腹膜硬化症
腹膜透析の重篤な合併症の1つで、腹膜が腸と癒着して腸閉塞を引き起こす病気です。長期に腹膜透析を続け、腹膜が劣化することによって起こりやすくなります。定期的に腹膜の状態をチェックし、長期間の腹膜透析をしない、腹膜炎を起こさないなど発症を防ぐことが大切です。
透析液の注入に伴う合併症
腹膜透析では大量の透析液をお腹の中に入れる必要があるため、お腹の張りや腰痛、食事量の減少、ヘルニアといったトラブルを生じることがあります。
適応
一般的には末期腎不全や急性腎障害により、腎機能が高度に低下した場合に透析を開始します。腎機能は血清クレアチニンと呼ばれる検査値で評価し、健康な人の10%を透析開始の目安とします。ただし腎機能の程度がこれより高い場合でも、症状や治療の経過によっては透析を開始した方がよいこともあり、症状や腎機能のほか、日常生活への影響や年齢、原因疾患などから総合的に判断します。
血液透析と腹膜透析の基本的な導入基準は同じですが、どちらを選択するかは両方の治療のメリットとデメリットを踏まえながら決定します。
治療の経過
透析開始までの流れ
透析を開始する場合は、体の急激な変化に対応するため入院が必要です。また、入院時に内服薬の調整や食事の指導を行い、腹膜透析の場合はバック交換の手技や緊急時の対応を練習します。
透析開始前に血液透析ではシャント作成、腹膜透析ではカテーテル留置が必要になります。シャントやカテーテルが使えるようになるまでには一定期間を開ける必要がありますので、時間に余裕があるうちに準備する段階的導入を行うことがその後の合併症予防や体調維持につながります。
透析開始時の入院期間は、シャントやカテーテルの準備が済んでいる人で、1~2週間程度です。シャントまたはカテーテルの設置と透析開始を同時に行った場合、さらに1~2週間入院します。
透析開始後の流れ
透析導入入院から退院した後は、血液透析では週3回透析施設に通い、4~5時間の透析治療を受けます。腹膜透析では自分でバックの交換を行い、月1~2回程度通院します。
透析治療中は合併症に注意しながら、食事や水分量に注意する必要があります。血液透析か腹膜透析かによって食事や管理について、注意すべきポイントが異なるため、透析導入時に十分な指導を受けます。
費用の目安
治療を受ける病院や治療内容によっても異なりますが、血液透析では導入時の入院で20万円程度、腹膜透析では35~40万円程度かかります。ただし、透析を受ける患者さんは長期高額疾病の高額療養費制度を受けることができるため、自己負担はこれよりも少なくなります。
導入完了後の自己負担は、上記の制度を利用することで1か月あたり1~2万円程度になります。
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