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腎不全の透析治療とは? 血液透析と腹膜透析の違いについて

腎不全の透析治療とは? 血液透析と腹膜透析の違いについて
藤原 木綿子 先生

愛仁会井上病院 腎臓内科 部長

藤原 木綿子 先生

一居 充 先生

愛仁会井上病院 腎臓内科 部長

一居 充 先生

目次
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腎不全の進行した患者さんが利用する透析治療には、大きく分けて血液透析と腹膜透析という2種類の方法があります。透析治療を始めるときはそれぞれの治療方法の特徴を踏まえ、生活スタイルに合わせて選択することが大切です。

今回は、腎不全の治療の種類、血液透析と腹膜透析の違い、治療選択の重要性などについて、井上病院腎臓内科部長の藤原 木綿子(ふじわら ゆうこ)先生と一居 充(いちい みつる)先生に伺いました。

腎不全の状態が維持できており透析治療を始めなくてもよい時期は、保存期腎不全としてさまざまな治療薬を調整し、症状をコントロールしていきます。たとえば、腎不全では腎臓由来のエリスロポエチンというホルモンが減少して貧血をきたすことがありますが、薬物治療によって改善が期待できます。

薬物治療だけでは生命維持が困難だと考えられる場合、透析治療が必要になります。透析導入を希望される患者さんには、後でお話しする“血液透析”や“腹膜透析”の特徴をじっくりと説明したうえで治療方法を選択していただいています。透析をせず最後まで薬物治療のみで対応することを望まれる方もいらっしゃいますが、その場合はどのような経過をたどるのかご理解いただけるよう主治医や医療チームが繰り返しお話しし、患者さんの意思決定と、その後のサポートに努めています。

透析導入時期の判断については、“透析導入の基準”を厚生労働省が示しています。無症状でも、検査の数値が身体障害者手帳の1級取得の目安を満たす場合には透析治療をご案内します。症状が現れる、もしくは体調不良になってからの透析導入は急な入院で生活が崩れますし、その後の健康にも影響を及ぼします。計画的に、無症状のうちに導入することが透析開始後も環境や体調の変化が少なくて済むポイントです。

腎移植とは、新しい腎臓を手術で移植する治療方法です。根本的な治療となりますが、亡くなった方から腎臓を提供していただく献腎移植では待機時間が約15年、ご家族から腎臓を提供していただく生体腎移植でもマッチングテストなどの準備期間を含めて約1年というように、時間を要する方法です。当院では、透析治療を考え始める段階で将来的な選択肢として腎移植について情報提供をしますが、腎移植までに時間的余裕のないことが多く、まずは透析治療の準備を始めていただいています。

また、病気が悪化したときや体調が悪いときは手術が難しくなるため、できるだけ早く腎移植の情報を得て、計画的に準備を進めることが重要です。透析導入前に腎移植を行う先行的腎移植も推奨されています。当院は、大学病院と連携して腎移植に関するご相談に応じていますので、疑問があれば遠慮なくご相談ください。

血液透析は、老廃物のたまった血液を体の外に出し、透析器の半透膜と呼ばれる部分に通して血液を浄化する方法です。一般的に、1回につき4時間程度、週3回行います。1分間に約200ccという多くの血液を透析器に通す必要があるため、動脈と静脈をつないで太い血管(シャント)をつくる手術を実施します。

血液透析のメリットとしては、病院内で医療者による治療が受けられる安心感が挙げられるのではないでしょうか。週3回ほどの通院が必要ですが、日本で透析治療を行っている患者さんのうちおよそ90%の方が血液透析を導入されています。

腹膜透析は、お腹の中に透析液を入れて体内の老廃物を染み出させ、老廃物がたまった透析液を数時間ごとに交換する方法です。透析液の交換の処理は、ご自宅などで患者さん自身が行います。腹膜透析を導入する際は、手術でお腹の中にカテーテルという細い管を入れる必要があります。

病院の受診は月1回程度で血液透析よりも通院の負担が少なくなります。透析液の交換は約4時間に1回行うものと夜間や仕事中に入れっぱなしにして約12時間貯留できるものを組み合わせて行うことが一般的です。日中の処理が難しいときは帰宅後に交換するなど、生活スタイルに合わせて透析を行う時間を調整できる自由度の高さもメリットです。

患者さん自身が処理を行うにあたって感染症の対策が重要です。腹膜透析では、お腹にカテーテルを入れて外部とつなげるため、チューブから皮膚の中を伝うといった経路でお腹に細菌感染を起こす恐れがあります。出口部にうみ)をつくり通院する必要が出てきたり、菌がお腹の中まで波及し腹膜炎をきたすと入院が必要になったりすることもあるため、清潔を保つことと、操作時に無菌操作を行うようにするなど注意が必要です。

また、腹膜透析は基本的に血液透析よりも緩やかな透析です。腹膜透析を始めてしばらくは腎臓のはたらきが残っていますが、腎不全が徐々に進んで尿の出が悪くなると、透析治療の許容量を超えて透析不足になる可能性があります。また、腹膜がダメージを受けることにより継続期間が8年程度と限られるため、その年数が経過すると血液透析に移行する必要があります。

透析治療を始める際、腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)から導入することをPDファーストといいます。尿量がある程度残っている時期に導入することが大きなポイントです。尿量が保たれていれば透析の回数が減らせます。また、血液透析の場合は導入すると尿量が減って短期間で無尿となりますが、水分の変動が少ない腹膜透析は残腎機能がより維持されやすいと考えられています。残腎機能がある方は腹膜透析を先に導入したほうが、腹膜透析のメリットを十分に生かせるという考え方がPDファーストであり、当院ではPDファーストをおすすめしています。

腹膜透析を行っている患者さんが血液透析を併用することをハイブリッド療法(PD+HD併用療法)といいます。

お腹の中に入れた透析液を交換する際、過剰な水分は体の反応によって除去されます。しかし、特に腹膜透析を始めてから数年が経過して尿量が減ってきた患者さんでは、水分が少し残ってしまうケースがあります。そのような場合、急に血液透析に移行するのではなく体験していただく意味を込めてシャントをつくり、週に1回血液透析を補助的に利用します。それによって水分量を週に1回リセットすることができます。

完全に血液透析へ移行することに不安を感じられる患者さんも多いと思いますが、補助的に血液透析を利用している間に体が慣れるとともに、医療スタッフと話して顔見知りになる機会が得られ患者さんの安心感にもつながるため、当院では積極的に行っている方法です。

当院では透析治療を導入する際、血液透析と腹膜透析それぞれの特徴をじっくりと説明したうえで治療方法を選択していただいています。説明する医療者側の思い込みをなくし、メリットとデメリットを同じようにお話しすることが治療選択の平等性だと考えているためです。たとえば、認知症で常にサポートが必要な患者さんは血液透析が向かない、お腹の手術歴があって腸管同士が癒着していると腹膜透析が難しいといった、医師としての意見をお伝えすることはありますが、どちらも平等にお話しすることで患者さん自身に判断していただけるよう心がけています。

先に述べたように、透析が必要な患者さんの多くは血液透析を選択されています。日本は国民皆保険制度で血液透析を受けられ、実施している施設も多く、血液透析を行いやすい環境です。医療スタッフに治療を任せられる安心感もあるなかで「90%以上が選んでいる」と聞いて血液透析を導入される方も多いかもしれません。

腹膜透析があまり普及していない理由として、施設によっては腹膜透析に対応していないことや十分な説明が行われていないことが挙げられます。また、腹膜透析は8年程度で血液透析に移行する必要があるため、患者さんの全体的な数が増えにくい側面もあります。

当院では、血液透析、腹膜透析、腎移植について平等にご説明し、患者さんが納得して治療方法を選択できるよう、療法選択説明に特に力を入れて取り組んでいます。患者さんが外来を訪れたら、多職種のチームで患者さんの情報を共有し、主治医の診察の待ち時間に担当の看護師や医療ソーシャルワーカーが患者さんにお声がけしています。その後も1回30分~1時間、2~3回のアプローチを重ねてゆっくりお話しし、透析治療を受け入れる土台をつくってから、主治医との透析治療の相談につなげるのです。療法選択説明時には血液透析室を見学していただいたり、内科外来と同じフロアにある腹膜透析外来の診察室で実際に器具を触っていただいたりもしています。

透析導入にあたって、事前に検査が必要になります。血液透析の場合、心機能は良好か、シャントをつくることが可能な血管があるかといった確認を行います。問題ないようなら、外科で手術入院の日程を決め、手術を行います。血管の発達や組織の浮腫(ふしゅ)が取れるのを待ち、自己血管なら約2週間、人工血管なら1か月経ってからシャントを使用します。また、自己血管で作成したシャントであれば、透析導入までシャントを作成したままの状態でしばらく通院を続けることもできます。

透析導入が可能な時期になったら、透析導入のため10日間前後の入院が必要となります。体の調子を整えたり透析治療について学んでいただいたりするほか、退院後に通うことになる施設の調整などが目的です。

外来診療で腹部CTなどの検査を行い、がんやお腹の癒着がないかを確認します。問題がなければ外科でカテーテルを入れ、皮膚下へ埋め込む手術を行います。透析導入をせずにしばらく通院を続け、透析導入の時期が来たら再び入院してカテーテルを取り出し透析導入を行います。患者さんにより透析液の交換を自分でできるようになるまでの期間が違いますので、手技獲得までの期間により入院期間はさまざまです。早くて1週間以内の方もおられます。

血液透析も腹膜透析も、患者さんが持っている医療証などによって医療費が異なります。高額療養費制度を利用すると1医療機関あたりの自己負担限度額は月額1万円(高額所得者は2万円)です。

透析治療を行っていても体調がよければ職場復帰は可能です。血液透析については、透析を行っている時間帯は職場に出られないため時間調整をしていただく必要があります。腹膜透析については、仕事をしながら透析を行うことも可能なため職場でご相談ください。ただし、腹膜透析については透析液がたまってお腹が膨れた状態になるため、腹圧がかかる仕事(たとえば引越し業者や運送業者など重い荷物を持つ仕事)は、仕事中の透析は避けたほうがよいでしょう。

血液透析と腹膜透析の大きな違いの1つに食生活があります。血液透析は痩せやすい状態になるため、カロリーおよびたんぱく質を適正に摂取することが大切です。また、週3回程度の透析ではカリウムが高くなりすぎることがあるため、果物などを控える必要があります。腹膜透析は、お腹にブドウ糖の液を入れてカロリーを余分に摂取するためカロリー制限が重要ですが、持続的に透析できることからカリウム制限は緩やかです。

血液透析を行っている患者さんは、体調がよくてシャントを傷つけないようなら、特に控えたほうがよいスポーツはありません。腹膜透析については、細菌感染を防ぐためにプールは避け、腹圧がかかったり接触したりするスポーツも注意が必要ですが、それ以外であれば差し支えありません。

透析治療を始めるとき、生活スタイルが変わることに不安を感じられる患者さんも多いのではないでしょうか。確かに血液透析は仕事や学業への影響が大きく、腹膜透析は継続できる期間に限りがある治療方法です。しかし、透析治療の中でも次のページ『腎不全に対するさまざまな透析治療——オーバーナイト透析、在宅透析とは?』で述べるオーバーナイト透析のように、できるだけ生活スタイルを崩すことなくQOL(生活の質)を維持していけるような治療方法もあります。透析導入に関して不安がある方は、ぜひ一度ご相談ください。

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