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お尻から直腸がんの治療を行う「経肛門的腹腔鏡下手術」とは?

お尻から直腸がんの治療を行う「経肛門的腹腔鏡下手術」とは?
渡邉 純 先生

関西医科大学医学部 下部消化管外科学講座 主任教授

渡邉 純 先生

目次
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直腸がん肛門(こうもん)の近くに発生し、がんと共に肛門の切除が必要となった場合、永久人工肛門(ストーマ)を造らなければなりません。しかし、人工肛門になることに対して抵抗感を抱く患者さんは少なくありません。できる限り自分自身の肛門を残したいという患者さんの希望に応えるため、安全な方法でがんを切除しつつ、極力肛門を温存するための「経肛門的腹腔鏡下手術(けいこうもんてきふくくうきょうかしゅじゅつ)」が追求されています。本記事では、経肛門的腹腔鏡手術のうち、経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)についてご紹介します。横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター外科 准教授の渡邉純先生にお話しいただきました。

記事8まで、大腸がんに対する腹腔鏡手術について詳細に解説してきました。大腸がんの腹腔鏡手術では、お腹に開けた小さな穴から大腸に向かって鉗子(かんし)を入れて手術を行いますが、直腸がんに対して腹腔鏡手術を行う場合、「位置」という問題があります。

直腸がんとは、大腸がんの中でも直腸に発生したがんのことを指します。直腸は、肛門から約15cm以内の腸管部分のことをいい、位置的には骨盤の奥深くです。つまり、腹腔鏡手術を行うとなると、骨盤の奥深くにある直腸がんは腹腔鏡が入るお腹側からみて遠くに位置し、加えて、少し技術的な話にはなりますが、手術時、鉗子の挿入角度と直腸の向きが直交することになるため、鉗子の操作性が悪くなるのです。

骨盤内

特に、以下に該当するケースでは腹腔鏡手術が難しくなることが多いです。

  • 骨盤が狭い方
  • 肥満の方
  • (性機能に関係する神経との位置関係により)男性の方
  • がんが大きい場合

こうした背景から、これまで直腸がんに対する安全性の高い手術の方法が追究されてきました。そして、直腸の手前にあるお尻から鉗子を操作する方法を併用することで、より安全で確実に直腸がんを手術できるのではないかという考えから、経肛門的腹腔鏡手術は誕生しました。

骨盤内

経肛門的腹腔鏡手術とは、簡単にいえば、ポリープや腫瘍(しゅよう)を切除する手技です。経肛門的腹腔鏡手術には、お尻からのみのアプローチでポリープや早期がんを経肛門的低侵襲手術(TAMIS)と、お尻側から直腸を切除する経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)があります。

経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)の場合は、お尻からのアプローチとお腹側からのアプローチを併用することが多く、この場合は、2チーム体制で手術が進むことになります。

今回は、経肛門的腹腔鏡下手術のうち、当院で実施しているTaTMEについて詳説します。

経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)が適応となるステージや腫瘍の個数、腫瘍の大きさは施設によって異なり、一概に述べることはできません。当院の場合は、ステージや腫瘍の大きさ、個数にかかわらず、肛門から6cm以内の位置に腫瘍ができているケースに適応することが多いです。

お尻からの腹腔鏡下手術であれば腫瘍までの距離が近く、腸管の走行と鉗子の走行も平行するため、鉗子の操作がしやすくなります。お尻側の操作で届きにくい部分に対しては、お腹側からの操作にて対応が可能です。

肛門から腹腔鏡を挿入し、前立腺などの周辺臓器を傷つけないように注意しながら、鉗子を進めていきます。そして、術者の目で直接がんの位置を確認し、適切な範囲で病変部を切除します。

​​​​経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)①
経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)①
経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)②
経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)②

経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)は、一般的に腹腔鏡下手術が難しいとされる、肥満の方、狭骨盤の方、がんが大きいケースには特にメリットがある手法といえます。さらに、がんが肛門にかからない範囲で取り切れる場合は、肛門温存を目指せる点もメリットです。

肛門を温存できるか否かは、腫瘍から1~2cmの幅を持たせた範囲(セーフティーマージン)に肛門が含まれるかどうかで判断します。がんが肛門に浸潤しておらず、腸切除でがんを全て取り切れるのであれば肛門温存が可能ですが、肛門にがんがかかっている場合には肛門を温存することはできません。肛門を温存しても、がんが取り切れなければ手術の本来の目的を達成できないからです。つまり、腫瘍の位置が、肛門温存の判断を左右する重要な分かれ目となります。

とはいえ直腸がんの中には、事前検査だけでは判断がつかないような微妙な位置にがんがあり、実際に腹腔鏡で腫瘍を見てみなければ判断できないようなケースもあります。そのようなケースでも、腫瘍までの距離が近いお尻側からのアプローチであれば、最初に直接腫瘍を確認してがんと肛門との距離を測定し、肛門温存の有無を決定することができます。

一方で経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)のデメリットは、肛門から挿入した内視鏡の角度を誤ると、尿道や自律神経を損傷するリスクがあることです。特に男性の場合は、泌尿器系の構造上尿道を損傷する可能性があることが知られています。経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)を安全に行うには、経肛門的に病変を見たときの解剖学的な理解が必要であり、かつ、尿道損傷などの合併症を起こす可能性があることから、手術手技が難しいとされています。このため、一定の経験を有する医師のもとで治療を受けることを推奨します。

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経肛門的腹腔鏡下手術においても通常の腹腔鏡下手術と同様に、今後はロボットの技術が導入されることになると予想しています。前述のとおり、経肛門的直腸間膜切除術(TaTME)はお腹側からのアプローチを担当するチームとお尻側からのアプローチを担当するチームの2チーム体制で行いますが、今後ロボット技術が経肛門的腹腔鏡下手術に組み込まれれば、2チーム共にロボットを用いて手術を行うことになるかもしれません。

直腸がんの治療方針の決定には、病気の状態だけではなく、患者さんの家族構成や年齢、仕事内容、ご自身の意思なども関与します。直腸がんの治療を受けるにあたっては、一つひとつの治療方法について主治医と話し合い、その方法について患者さん自身が十分に納得することが大切だと考えます。

直腸がんの治療には手術をはじめとして、放射線療法、化学療法などさまざまな方法があります。また、手術一つにおいても、術式は開腹か腹腔鏡かロボットか経肛門か、肛門温存か永久人工肛門か、肛門温存の場合に一時的な人工肛門は造設するか否かなど、多くの選択すべきことが存在します。このように、治療の選択肢が多いがゆえに、どの方法を選択するか、患者さんを悩ませてしまう部分が多いのも現状です。

当院では、一人ひとりの患者さんの病状と進行度に沿った治療を提供することを心がけています。直腸がんの患者さんが治療を受けるにあたり非常に重要な肛門温存の可否についても、患者さんに納得いただけるまで時間をかけて説明し、ご理解いただいてから治療を進めます。患者さんには、治療を受けるうえでの疑問点や不安、悩みがあれば、皆さん遠慮なく聞いていただきたいと思います。

横浜市立大学附属市民総合医療センター 下部消化管グループの医師の皆さん(写真右から4番目:渡邉純先生)
横浜市立大学附属市民総合医療センター 下部消化管グループの医師の皆さん(写真右から4人目:渡邉純先生)
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