食道がんのステージⅠ期〜Ⅲ期(ステージ分類についてはこちら)の治療には、低侵襲(体への負担が少ない)で回復が比較的早く見込める胸腔鏡・腹腔鏡手術が行われます。技術も進歩したため、より繊細な手術が行えるようになりました。
今回は、食道がんの胸腔鏡・腹腔鏡手術を手がけられる順天堂大学消化器・低侵襲外科教授の福永哲先生にお話を伺いました。
順天堂大学医学部附属順天堂医院は、1997年に日本ではまだほとんど行われていない時期に胸腔鏡を導入しました。ステージⅠ期〜Ⅲ期では基本的にすべて胸腔鏡と腹腔鏡で手術をしています。
手術の手順についてご説明します。食道は胸の奥深くにありみえないので、まず片方の肺をしぼませて、右肺と左肺にわけて人工換気します。通常、人工呼吸器を入れると両肺一緒に換気されるのですが、当科では右肺に空気が入らないようにしぼめる状態にして、左肺だけで片肺換気をします。そして、肋骨の間から胸にポート(筒状の器具)を6本(10mmのポート2本と5mmのポート4本)、右肺から入れていきます。
胸腔鏡で胸の食道を切って、その周りのリンパ節をとります。次に腹腔鏡で、胃のリンパ節をとります。
その後、胃を細くして胃管に作り変え、首のリンパ節をとり除き、首まで胃管を引き上げて再建します。そしてまた食べ物が通れるように縫合して終了です。
がんは食道に沿ってリンパ節に転移していくので、食道はすべて摘出します。
当科では、最先端の胸腔鏡手術として、縦郭鏡・腹腔鏡による食道がん手術にも取り組んでいます。この手術は、手術時に肺をしぼませる必要がないので、肺が悪い方でも手術が可能な究極の低侵襲手術です。
今までは、肺が悪すぎて胸腔鏡手術さえ受けられなかった方でも、手術を受けられるようになる可能性が出てきます。より多くの患者さんが、体に負担の少ない手術を受けられるように低侵襲手術は日々進歩しています。
※施設の異動があったため直近の60例の平均
平均手術時間:464分
平均術中出血量:104CC
平均術後在院:23日
上記の60例のなかには、高齢の患者さんやリスクが高い患者さんも含まれています。また、食道がんの術後は、縫合不全が問題になりますが、幸いなことに1例も起こっていません。
当科では、食道がんの手術が年間20件〜30件、胃がんの手術が年間140〜160件ほどあり他の粘膜下腫瘍など食道と胃を合わせて年間200件弱の手術をしている計算になります。
私は、ずっと胃がんと食道がんの治療をやってきました。1990年代の前半に腹腔鏡手術を行ったことをきっかけに、実績を積んできました。手術は大怪我のようなもので、人によっては大怪我で亡くなることもあります。
同じように治る効果があるなら、少しでも体に負担が少ない治療をしたいと考え、2017年現在でも胸腔鏡手術をしています。また、よりよい手術をおこなうために工夫を重ね、手術の際に使うオリジナルの器具も開発しました。以下の写真は、私たちが開発・使用している鉗子類で、より繊細な手技ができるように工夫されています。
手術で使用する鉗子類の写真:福永先生より提供
胸腔鏡で手術の負担が減ったことで、これまで体力的に手術が難しかった患者さんも手術を受けられるようになりました。
人はわずかな怪我をしただけでも痛いと感じます。私が低侵襲治療をする最大の理由は、やはり誰でも痛みが少なく、侵襲も少ないほうが、術後の回復が早く体にとってよいと考えるからです。私たちは、常に「もっと低侵襲に、もっと高品質に」と日々努力しています。
胸腔鏡手術が始まった当時は、患者さんのメリットが大きいといわれていました。
かつて主流だった開胸手術だと、胸を15センチ〜20センチと大きく切開し、骨も切るため術後に呼吸機能が低下してしまうことが課題でした。しかし胸腔鏡手術の場合は、術後を左右する肺炎や無気肺などの肺合併症が、開胸手術に比べ圧倒的に減りました。その上、開胸手術よりも明らかに出血が少なく低侵襲になりました。
術後の回復も明らかに早く、歩き出す日数や退院までの日数も段違いです。また胸やお腹を切らないため、手術後の傷跡が目立たなくなります。
そして何よりも、内視鏡手術の際にみられる映像が進歩したので、胸腔鏡だともっと胸のなかに入り込んでみるような繊細な手術ができます。肉眼の2倍〜5倍拡大した映像をみながら手術ができるので、細かい血管や神経を残すことができます。
このようにさまざまなメリットが内視鏡手術にはありますが、繊細な手術ができることが最大のメリットです。
なお、開胸手術と胸腔鏡・腹腔鏡手術で生存率の差は明らかになっていません。しかし後者のほうが明らかに低侵襲であり、多くのメリットがあると考えます。
技術的なハードルが高い手術なので、導入している病院が少ない点がデメリットです。胸腔鏡・腹腔鏡手術をできる医師はまだ全国に限られています。
しかし、これから技術を身につける医師は増え、今後も胸腔鏡手術の件数は増えていくと予想されます。
肺合併症や縫合不全など、食道がんの術後には多くのリスクがあります。
また、リンパ節転移を避けるため、声を出す神経を綺麗に取り除くので、一時的に反回神経麻痺(声枯れ)を起こすリスクがあります。他には、糖尿病などの慢性疾患もリスクになります。このように、さまざまなリスクを下げるために手術をする前に以下のことを行っています。
患者さんには必ず手術の前に禁煙してもらい、外来診療のときから呼吸練習をします。呼吸の訓練をする機器を使って、手術までの期間に正しい呼吸法を身につけていただくのです。食道がんの患者さんにはヘビースモーカーが多いので、かなり厳しく禁煙指導をしています。せっかく食道がんを治しても、術後の肺炎で亡くなったら元も子もないからです。禁煙ができなければ、そもそも手術はしません。
齲歯(うし:虫歯)があると術後、肺炎のリスクになるので、歯科への受診をしていただきます。歯科治療の必要があれば歯科にて治療してもらいます。
食道がんの患者さんには重複がん(咽頭がん、喉頭がん、舌がんなど)が多いので、耳鼻科の受診もしていただきます。
術後には嚥下(呑み込みの機能)のテストをします。患者さんに、色をつけた水分飲んでもらい、むせないかどうかを調べます。このとき首には管が入っているので、水が管から漏れないかどうか、縫合不全がないか、反回神経麻痺がないかを確認できます。
むせずに水を飲み込めたら、ゼリーなどの嚥下訓練食を出します。ゼリーで問題がなければ、次はおかゆです。
退院するときには、日常生活で食べているような通常食が食べられるようになります。
できるだけ病前の普段の生活に近づけるため、腸ろう(体外から小腸に栄養を入れる管)を入れることがあります。
患者さんは、術後にうまく食事がとれず栄養障害を起こすことが多くあります。そのため術後3日目から、腸ろうを通して栄養剤を投与し、ご飯を食べているときと同じ栄養状態にもっていきます。
栄養剤は徐々に増やしていきます。2017年現在は、以前やっていた中心静脈栄養(口から栄養が摂れない場合、細いチューブを静脈のなかに入れて栄養補給する)をせず、点滴もなるべく早くやめるようにしています。なるべく早く消化管を動かしたいからです。
退院する頃には、口から摂る食事に加えて、腸ろうから約1200キロカロリーの栄養剤を投与します。それから徐々に栄養剤の量を減らしますが、退院後も数か月〜半年間は腸ろうを通して栄養を入れてもらいます。そうすることで体力が極端に落ちないので、再入院もほぼありません。
患者さんに「80歳だからもう治療はいいです」といわれたり、ご家族に「もう寿命が近いのだから手術しなくていい」といわれたりすることがありますが、治療に年齢はあまり関係ありません。
かつては80歳で食道がんの手術をするなどとんでもない、といわれた時代でしたが、医学が発達した現在は決してそうではありません。さまざまな治療法や、負担の少ない低侵襲治療があり、患者さんは自ら選択して各地の病院に向かうことができます。そしてみなさん、治療後はしっかりと日常生活に戻って行かれます。
年齢で治療を諦めるのではなく、本人や周囲のご家族が、どのような病態かをよく理解し、さまざまな状況を把握したうえで最終判断をしていただきたいと考えます。
当科には、高齢の患者さんも多く、80歳を超えていても食道がんの手術をします。胃がんに関しては、90歳を超えていても手術をします。
順天堂大学医学部附属順天堂医院では、たとえご高齢であっても患者さんが希望する限り手術を検討します。
繰り返しになりますが、2017年現在は体に負担が少ない新しい治療や化学療法が日進月歩で次々と登場してきているので、患者さん自ら積極的に治療法を探してもらいたいと考えます。当科では、セカンドオピニオンもたくさん受けています。心配事があれば、ぜひセカンドオピニオンを受けてください。皆さんにとって最適な治療がみつかるよう、私たちがサポートしていきます。
順天堂大学医学部 消化器・低侵襲外科 教授、徳島大学医学部 臓器病態外科学 臨床教授、聖マリアンナ医科大学 消化器一般外科 客員教授
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