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大腸がんとは? 治療方法と腹腔鏡手術というニューノーマル
大腸がんの治療方法は、がん腫瘍の大きさやステージ(がんの進行度)、患者さんの状態などを総合的に考慮して決定します。大腸がんに対する治療は外科治療・化学療法の単独、またはその組み合わせが基本となり...
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大腸がんとは? 治療方法と腹腔鏡手術というニューノーマル

公開日 2016 年 08 月 10 日 | 更新日 2018 年 06 月 21 日

大腸がんとは? 治療方法と腹腔鏡手術というニューノーマル
渡邉 純 先生

横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター外科 講師

渡邉 純 先生

目次

大腸がんの治療方法は、がん腫瘍の大きさやステージ(がんの進行度)、患者さんの状態などを総合的に考慮して決定します。大腸がんに対する治療は外科治療・化学療法の単独、またはその組み合わせが基本となり、肛門管がんに対しては放射線療法も用いられます。早期がんの一部に対しては大腸内視鏡を用いた内視鏡的治療が行われることもありますが、大腸がんと診断された多くのケースでは「外科治療=お腹を切って病変を摘出する」手術になります。その中でも文字通りお腹を切って、病変を摘出する開腹手術と、最近行われることの増えた腹腔鏡手術があります。

テレビなどで取り上げられることも多くなった腹腔鏡手術ですが、一体どのような手術なのでしょう。引き続き横須賀共済病院 外科副部長の渡邉純先生に教えていただきました。

大腸がんの腹腔鏡手術とは?

腹腔鏡の手術風景

腹腔鏡

腹腔鏡手術を簡単に説明すると、お腹におおきな切開をおき内臓を直接みながら手術する代わりに、お腹に複数の穴を開け、そこに細い管を通します。その管に小さなカメラや電気メスを挿入し、モニター映像を見ながら手術する、というものです。開腹手術にくらべ患者を傷つける部分が少なく、その分、患者への負担を少なくすることが最大の目的です。

腹腔鏡手術の具体的な手順ですが、まずお臍のあたりの体壁(内臓を守るように囲んでいる皮膚・筋肉)を1cm程度切開し外套管(がいとうかん)と呼ばれる器具を挿入、そこから体内の様子をモニタリングするため腹腔鏡を挿入します。次に炭酸ガスを注入し腹部を膨らませることで、手術可能なスペースを確保します。この炭酸ガスは電気メスを用いても引火せず、また術後は体内に吸収されるので、身体に悪影響はありません。

その後、さらに数か所切開し外套管を設置したのち、鉗子や電気メスなど専用の器具を入れて病変の切除を行います。術者はモニターで患者の腹腔内の様子を見ながら手術を行います。

テクノロジーにより生まれた腹腔鏡手術は開腹手術に比べ歴史が浅く、そのためにメリット・デメリットが慎重に検証されてきました。従来がんの外科療法では開腹手術が一般的でしたが、腹腔鏡のメリットが顕在化してきた近年では大腸がんに対し腹腔鏡手術が適応されるケースも増えています。

しかし、腹腔鏡手術は術者の技量、チームとしての技量、習熟度に大きく左右される治療法であり、どのような症例に腹腔鏡手術を「適応」するかは施設によってまちまちです。

横須賀共済病院では大腸がんに対する腹腔鏡手術を得意としており、2015年においては大腸がん手術年間275件中、250件を腹腔鏡手術で行いました。

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大腸がん腹腔鏡手術の歴史

日本における腹腔鏡手術の歴史はまだ20年ほどと浅く、現在日本でパイオニアとの呼ばれる医師たちが、腹腔鏡手術が適応されつつあったアメリカで学んだ技術を国内に広めたことが始まりです。日本における大腸がんに対する腹腔鏡手術は、胃や肝臓など他の臓器に先んじて比較的広く普及しています。

日本における大腸がん腹腔鏡の手術の歴史は、適応を少しずつ広げながらも安全性を担保しつつげた歴史であるともいえます。新しい治療法ということで、当初は手術の適応を早期がんやステージの低いがんに制限しつつ、有効性の確認と安全性の確立を両立させながら徐々に適応の範囲を広げていきました。大腸がんにおける腹腔鏡手術の適応拡大の動きは現在でも続いています。

また消化器領域における腹腔鏡手術はがん治療だけにとどまらず、虫垂炎(盲腸)や腸閉塞、胃穿孔など緊急性の高い疾患に対しても適応が期待されています。

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大腸がん腹腔鏡手術 開腹手術と違い傷が小さく低侵襲

腹腔鏡手術と開腹手術には文字どおり大きな違いがありますが、ひとつひとつその違いを見ていきましょう。

大腸がんに対する開腹手術

手術後の画像

傷(開腹と人口肛門)

大腸がんの根治を目指した方法として以前より定着している開腹手術は、体壁を10cm以上切開し、手を使って手術を進めます。がんの部位と進達度、そして術前に予想されるリンパ節転移の有無から決められた範囲を切除することになります。古くから行われているので習熟した術者が数多くいることは開腹手術の大きなメリットといえるでしょう。

一方、開腹手術はお腹を大きく切るため、腹腔鏡に比べて体への負担が大きい手術となります。創部に強い痛みが出やすく、腹腔鏡に比べると術後退院するまで時間がかかってしまい、患者さんの社会復帰を妨げる要因となります。また、手術跡が目立つことが多い点も開腹手術のデメリットのひとつといえるでしょう。

また、大腸の手術による合併症の一つとして、腸内に内容物がつまることで膨満感や嘔吐などの症状をおこす腸閉塞があります。この発生頻度ですが、最新の研究では開腹手術が腹腔鏡手術より多いとの報告もされています。

大腸がんに対する腹腔鏡手術

術後画像

傷(腹腔鏡)

腹腔鏡手術は大腸がんの手術を少ないダメージで行うことができる新時代の外科手術です。腹腔鏡手術はカメラや器具を入れるための穴を腹部に数か所開けるだけで行えるので、体にかかる負担を最小限に抑えることが可能です。

また、痛みも少なく手術跡の傷治りが早いので、退院までの期間が早く、治療後日常生活に戻るまでの期間を短縮できることも腹腔鏡手術のメリットと捉えることができるでしょう。他にも開腹手術より出血量が少ない、術後の腸管運動の回復が早いことが分かっていますし、術後の合併症の一つである腸閉塞や創感染も少ないという研究データが発表されています。

こうしてみるとメリットの多い腹腔鏡手術ですが、腹腔鏡手術が適さないケースもあります。

1:大きいがんや部位、進行度によっては難易度が高いことがある

手術によって取り出せる腫瘍は最大でも傷の大きさになってしまいます。かなり大きな腫瘍の場合は腫瘍を取り出すための切開が必要で、小さい傷ではできない場合があります。また、がんの部位によっては腹腔鏡での難易度が高くなるケースもあります。とくに直腸や横行結腸(おうこうけっちょう)に生じたがんの切除は難易度が高いといわれていまので、腹腔鏡手術に習熟した医師が手術を担当することが望ましいと考えています。

2:心肺機能が低下している患者には適さない

腹腔鏡手術は炭酸ガスを腹腔に注入し肺や心臓を押し上げ・圧迫するので、手術を受ける患者の心臓や肺の機能が低下している場合、腹腔鏡手術は困難になることがあります。

渡邉純先生

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大腸がん腹腔鏡手術 単孔式腹腔鏡手術とは?ついに傷が一つの時代へ

日々進歩を続けている腹腔鏡手術ですが、このメリットをさらに推し進めるため更なる試みがされています。例えば、穴の数を少なくする、または、傷を小さくすることで腹腔鏡手術における低侵襲化が期待できます。

腹腔鏡手術で標準とされているのは、へそに1ヶ所、周辺部位に4ヶ所穴を開けて行う多孔式腹腔鏡手術です。近年、この穴を1ヶ所に限定する「単孔式腹腔鏡手術」と呼ばれる方法が登場しました。単孔式腹腔鏡手術はへそ1ヶ所のみ切開し3cm程度の穴を作りそこからカメラや鉗子などの器具を入れるもので、手術跡はへそに隠れて目立たなくなるというメリットがあります。

傷(単孔式)

傷(単孔式)

腹腔鏡手術には開腹手術よりも高度な技術が必要とされますが、単孔式腹腔鏡手術ではひとつの穴にすべての器具を入れて手術を行うため、さらに高度な技術が要求される方法でもあります。多孔式手術と単孔式の手術成績については現在臨床試験を行い、その結果を数年越しに追いかけている最中です。先日British Journal of Surgeryという世界でも有数の医学誌に、私たちの研究グループの単孔式腹腔鏡手術に関する研究結果が掲載されました。5年生存率など長期成績については、今後随時報告していく予定です。

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大腸がん腹腔鏡手術の現在

開腹手術に比べて侵襲度が低いことから、今日では大腸がんに対する腹腔鏡手術は多くの医療機関で実施される状況になりました。しかし腹腔鏡手術は手術を担当する医師の経験や医師をサポートするスタッフの習熟度が反映されやすいため、手術成績は開腹手術よりも偏りやすい傾向があるのは前述の通りです。こうした医療機関による技術力の差異を解消するため取り入れられているのが「技術認定制度」です。

これは日本内視鏡外科学会によって制定された制度で、大腸がんの手術を行う消化器一般外科領域以外に泌尿器科領域、産婦人科領域、整形外科領域、小児科領域でも実施されています。

この認定医は、内視鏡手術を安全かつ適切に実施する技術を有すのみでなく、同時に他の医師を指導する技術を有している医師に与えられます。制度の認定を受けていない医師の技術が劣るということではありませんが、一定の水準を儲けて腹腔鏡手術を実施、他の医師へ指導を行い内視鏡腫手術に関わる医師の技術力を底上げしようとする取り組みのなかで、この技術認定制度は持つ意味は大きいといえるのではないでしょうか。

「技術認定制度」は開始してからまだ日が浅い取り組みですので、当院のように大腸がんの手術を年間275件(2015年)行うような大病院であっても、技術認定医は私一人です。今後は地域差や施設差なく、技術認定医が増えるような取り組みも必要とされるでしょう。

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大腸がんの腹腔鏡治療最前線 横須賀共済病院での取り組み

腹腔鏡手術のメリットは侵襲性が低いことにとどまりません。現在当院では、大腸がんの腹腔鏡手術にICG蛍光法という方法を利用しています。ICGと呼ばれる特殊な色素は、腹腔鏡の近赤外光カメラで観察すると蛍光観察(光って見える)することができます。

これを応用して、 腸管の血流を術中に観察する(吻合部の血流を観察することによって縫合不全を減らすことができます)、リンパ節を蛍光観察する(直腸がんの難しいリンパ節郭清を行う時にリンパ節が光って見えるので、より精度の高い郭清が可能になります)、リンパの流れを術中に観察する(大腸の頭側かつ左右の折れ曲がりの付近はリンパの流れが複雑で、リンパ節郭清の範囲が明確でないのですが、リンパの流れを観察することによって、必要十分なリンパ節郭清が可能になります)などを行っています。

このように、術中にリアルタイムに蛍光観察することによって、手術の精度をあげたり、安全性を高めたりするような取り組みをしています。

ICG使用中

ICG使用中

ICG流血評価

ICG流血評価

ICG直腸がん側方リンパ節

ICG直腸がん側方リンパ節

ICGリンパ流

ICGリンパ流

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大腸がん腹腔鏡手術が秘める可能性 これからの腹腔鏡手術

開腹手術と比較して、技術的にクリアしなければならない課題はありますが、腹腔鏡手術は様々な点からメリットの多い治療方法だということを述べてきました。今後はこのメリットをさらに顕在化させるため、単孔式腹腔鏡手術のような新たな手法が考案され、それが一般的になる日がくるかもしれません。

また、「体壁の破壊を最小限に」と考えると、究極的にはもともと体に空いている穴だけを手術に使う方法に行き着きます。へその他、鉗子の数本を膣から入れて行う手術はすでに実践されています。またロボット手術も普及していくのではないでしょうか。手ぶれがない、映像が3Dで見える点などで有利なロボット手術ですが、今後はロボット自体の進化がさらに進んで行くと思われます。

もう一つ、腹腔鏡手術は外科医のあり方やキャリアにも影響を与えています。腹腔鏡手術では手術の様子をカメラで撮影し記録することができるため、手術を担当した医師は自身が行った手術をのちに見返すことができます。手術の様子を映像資料として保管することにより、他の医師が行った手術の様子を知るための教育資料としても活用することができます。実際に腹腔鏡手術を行い、経験値を積むと同時に映像資料を活用し知識を深めることで、技術を磨くことも可能です。

大腸がんの手術は腹腔鏡で行うことが当たり前。そうなる日もそう遠くないかもしれません。当院では、すでに「はじめての大腸がんの手術を腹腔鏡で行った」という医師も登場しています。

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腹腔鏡手術の位置づけはどうなっていくか

これまで大腸がんに対する治療方針は「このステージならこの治療方法」とガイドラインに則した画一的な治療が展開されてきました。しかし、治療を受ける患者さんが持つ背景はひとりひとり異なります。腹部の手術跡を最優先にと「単孔式腹腔鏡手術」を望む方もいますし、実績が多い「多孔式腹腔鏡手術」を望む方もいます。

患者さんごとに見合った治療方法を可能な範囲で提案し、実行する。標準的治療としての位置付けに加え、オーダーメイドのように患者が選択肢から選べる方法として進展していけば、腹腔鏡手術の役割はこれまで以上のものになるのではないでしょうか。

 

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大腸がん腹腔鏡(渡邉純先生)の連載記事

低侵襲な大腸がんの腹腔鏡下手術を得意とするエキスパート。洗練された手術手技で地域医療に貢献する一方、術後合併症低減のための研究やリンパ流評価によるオーダーメイドの手術療法の開発等の臨床研究を積極的に行っている。

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